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最強かもしれない少年達の冒険譚  作者: タラバガニ
生け贄の集落
1/33

プロローグ「異世界転移」

蝉の鳴き声が周囲を包む八月。


「さすがに暑すぎる」


森の中で折れ木を拾いながら八川祐介やがわゆうすけは呟く。


「おー結構集まったわね」


そう後ろから話かけてきたのは真っ白なワンピースを着た篠田彩花しのだあやか


「彩花の方は?」

「集めてないわよ」

「え?」

「ワンピース汚したくないもの」

「何のために僕がこんなことをしてると思ってるの?」

「あっ!直也だ!おーい」

「聞いてよ!」


木々の間から出てきたのはワイシャツに短パンの男、菅原直也すがわらなおや

ツンツンした髪が葉っぱに当たって鬱陶しそうにしている。


「そっちはどう?」

「こんなもんだぜ!」


直也はそう言って腕に抱えている大量の折れ木を見せつけてきた。


「これなら足りそうね。よくやった」

「自分は何もしてないくせに」

「えへへ、まぁね」

「照れるところじゃないよ」

「まぁお返しに最高の思い出をプレゼントするわ」


そう言うと、黒い髪を揺らしながら彩花は元の場所に戻っていく。


3人は高校二年生の夏の思い出作りのためにキャンプに来ていた。

何事もなく楽しい思い出だけ作って明日には帰る予定であったのだが、そんな平和に終わるはずだったキャンプを彩花の「キャンプファイヤーしたい!」という発言がぶち壊す。

管理人に聞いてみたところ、木材さえあれば可能ということで、祐介と直也は木材を得るために森の中に駆り出された。


「僕は今、彩花をもっと早くに止めておけばと後悔しているよ」

「まぁこうなっては仕方がねぇ。思いっきりキャンプファイヤーを楽しもうぜ」


日は西に傾き始め、空は段々とオレンジ色に染まり始める。

暗くなりそうだったので祐介と直也は木材集めを終了し、もとのキャンプ場に戻ってきた。


「ただいまー」


キャンプ場には、引率のために来ている祐介の両親がいる。

両親は丁度晩ご飯の準備を終えたところだった。


「そろそろ晩ご飯できそうだから彩花ちゃん呼んできて」


その言葉を聞き、祐介は辺りを見渡す。


「あれ?戻ってないの?」

「え?」


空はもう紫から黒になりつつあり、森の中は既に真っ暗だ。

風が吹き抜け、木々がざわつく。


「まさか、あいつまだ森に?」


直也がそう言うと同時に、皆の顔が一気に深刻になる。


「とりあえず僕探して来ます」

「あ、俺も!」

「ちょ、待ちなさい」


そう言って2人は親の制止も聞かずに飛び出した。

キャンプ場の近くにある森は昼間と夜では雰囲気がまったく違い2人は入るのを戸惑ったが、足踏みしているわけにもいかず奥へと歩を進めた。


「僕たちを驚かすために隠れているとかないよね?」

「それなら、それでいいんだがなぁ」


森の中は八月だというのにかなり冷え込んでいた。

昼間来ていた時には気づかなかったが、森は驚くほどに静寂に包まれている。

それほど進んだつもりもないのに、キャンプ場が酷く遠くに感じられた。


「このままじゃ僕たちも遭難しちゃいそうなんだけど」

「せめて明かりでも持ってくれば良かったな」


周囲が見えにくくなり、二人はようやく明かりを持ってこなかったことを後悔し始める。


「なんだか静かすぎない?森ってこんなもん?」

「俺に聞くなよ、でもそうだな、一旦懐中電灯か何かを持って来てからにするか」

「そうだね」


しかしキャンプ場に戻ると今度こそ祐介の両親に止められるかもしれない。

出来るだけ戻りたくない2人は彩花の名前を呼びながらゆっくりと元来た道を引き返す。


「そうだよ、携帯電話があるじゃん!」


直也が思い立ったようにポケットからスマホを取り出すが電源を付けて肩を落とす。


「圏外って、まじか。ここ森って言っても山じゃないんだが」

「キャンプ場に居るときに僕も連絡入れてみたけど、お互い圏外じゃ話にならないね」


悩みつつ、しかし打つ手もなく、ただ元来た道を引き返す。

引き返していた、はずだった。


「ねぇ、さすがに遠すぎない?」

「やっぱそう思うか?」


2人が森に入って進んだのは、たかが5分かそこらだ。

しかし引き返し始めて既に15分は経つ。2人はそこで足を止め、沈黙する。

空を見上げると木と木の間から月が昇っているのが見えた。

月も、星もあるのだが無知な2人はそれだけの情報では方角すらも分からない。

ビュウと夏にしては冷たすぎる風が吹き抜ける。


「つまり」

「あぁ、詰んだ」


二次被害が発生した。

進めばいいのか、救助を待てばいいのか分からず佇んでいる2人の耳にすすり泣くような声が聞こえた。


「ひぃっ!何やつだよ!?」

「あっちだね、行ってみよう」

「おい、まじかよ!」


声のする方角に行ってみると、急に森が開けた。

しかし、そこはキャンプ場などではなかった。この夜でも目立つほどの深紅の鳥居、その先に続く階段の途中に見覚えのある少女が座っていた。


「彩花!」

「え?祐介?」


目を赤らめた彩花の元に2人は駆け寄る。


「なんだ泣いてんのかぁ?」

「泣いてないわよ!」

「とりあえず無事で良かったよ」

「なんでこんな場所にいるんだよ?」

「ちょっと迷っただけよ!さ、帰りましょ!」


そこで、2人は再び沈黙する。

その状況に何かを察したのか、彩花は不審な顔をしながら尋ねる。


「まさか、あんた達も迷った、とかないわよね?」

「さぁ、階段を上ろう。高いところなら道が分かるかもしれない」

「名案だぜ」

「ちょっ!まじで迷ってるの!?」


階段の先には明かり1つなく、上った所に何があるのかは想像もできなかった。


「それにしても、あの鳥居から察するにここって神社だよね」

「不気味だな、幽霊とか出そう」

「変なこと言わないでよ」


祐介、彩花、直也の順で一列になって階段を上っていく。

足下も見えづらく、歩く速度はかなりゆっくりではあったが、階段は思ったよりも長くなく、すぐに開けた空間に出る。

振り返り、遠くに明かりがないか探すが、それらしきものが無いことは一瞬で分かった。


「こっちの方角ではない、ってことだね」

「祐介、なんか直也が先に進んで行ったんだけど」

「えぇ・・・」


階段を上った先には石畳の境内が広がっており、いつもなら神聖さを醸し出しているであろうその空間も今は闇に包まれて不気味さしか感じない。

その先にうっすらと木造の賽銭箱と高さ50センチくらいの木の祠が見えた。

その賽銭箱の前に直也は佇んでいた。


「おい、何してるの?」

「いや、無事に帰れるようにお願いしようかなと」

「この神社はその木の祠?みたいなのを祀ってるのかな」

「そうなんじゃね?他に目立った物も無いし」

「ふぅん」


広い境内には不釣り合いなほど小さな本殿。

何か奇妙なものを感じながら、祐介もポケットから財布を出す。

彩花も5円玉を適当に賽銭箱の中に放り投げて手を二回打って目を閉じた。


「南無阿弥陀仏」

「いや、それは違うんじゃないかな?」

「私、作法とかよく分からないもん」

「僕も分からないけど彩花が正解ではないことだけは確信できるよ」


三者三様のお願いごとをする。


「さ、帰り道を探すか!」

「そうだね」

「あー、今頃キャンプファイヤーしてるはずだったのになー」


そう言い合い、3人が階段の方向に向き直った瞬間。

突如、境内が白い光に包まれる。

驚いて振り返ると、先程の木の家らしき物の、その中から光が放射されていた。


「な、何だこりゃ」

「とりあえず逃げた方がよさそうだね」


反射的にその場から立ち去ろうとするも、今度は鼓膜が破れそうな程の甲高い音が辺りに響く。

それと同時に目も世界は目も開けられないほどの光に飲み込まれ


「ぐわぁ!!」

「キャァ!」

「くっ!」


いつの間にか体は浮遊感に包まれていた。

上も下も分からなくなり、気持ち悪さで言葉も出せぬままその場に倒れ込む。

体感にして数分、最初に目を開けたのは祐介だった。


「う、何が起きたんだ」


見渡すと、隣には直也と彩花が同じように倒れていた。


「直也!彩花!」

「うぐ」

「うぅ」


2人が同時に目を開ける。

起き上がった3人は混乱する頭を落ち着かせるために現状の整理を始めようとした。


「何が起きたのよ?」

「分からない。突然光に包まれて・・・」

「いや、まだ明るいぞ」

「そうだね・・・ん?」


そこで気づく。この明るさは先程のような刺激的な眩しさではない。

まるで日の光を浴びているかのような優しい明るさ。

いや、比喩ではなかった。実際に空に太陽は昇っていた。

周りを見渡すと、そこは森ではあったが神社の境内などでは断じてない。


「どういうことだ?俺達、朝まで気絶してたのか?いや、でもそれじゃぁここはどこだ?」


さらに空を見たこともない生物が飛ぶ。

胴の長い犬に銀色の翼を生やしたような生物が空を羽ばたいていた。


「・・・どういうことだ?」

「私も分からないわよ」


目線で祐介に助けを求めるが、祐介も混乱していて考えがまとまらない。

しかし、なんとか祐介は1人で結論をつける。


「あんな奇妙な生物は僕たちの世界では見たことがない」


つまり、と祐介はいつもならたどり着かないような突飛な考えを口にする。


「ここは僕たちのいた世界ではない」


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