8k:スキル習得
□ -265℃ □
「馬車って、本当に揺れるんだな」
「グルゥ」
「酔いそう」
「スライムって、酔うんですか? ルルー」
「私に聞かないでください」
現在俺達は、ヴェルトから出発して、馬車の中にいる。御者は、消去法でルルーになった。
ここから暫くは、馬車の旅だ。
揺れない馬車ってなんだっけ、サスペンション付ければいいんだっけ? 確か、バネみたいなやつだったよな。
自作は出来そうにないな。
「さて……」
揺れる馬車の中でチェスを始めたティオとツクヨミ、御者台に座って馬車を走らせるルルー、寝そべってあくびをしているフェルゥ。
そして俺は、ちょっとした検証というか、近接戦闘方法の模索をしようと思う。
さて、俺が選択したスキルなら、殴る蹴るが近接戦闘になるが、素手で攻撃するのは無理な気がする。そこで、氷を腕に纏わせようと思う。
記憶の中に何故かある知識だと、氷は-70℃で鋼に近い硬度になるらしいが、さらに温度を下げればより硬くなるかもしれない。
兎に角、氷を纏わせるだけでも、十分攻撃力が上がるハズだ。
「でも、なんか弱い気がする」
鋼程度の硬さなら、やすやす突破される気がする。
うーん。
あ! あれだ、よくある異世界モノだと、魔力を手とか刃に纏わせて強化してるのがよくある。あれを試してみよう。
とりあえず、目を閉じて集中する。
身体に意識を集中すると、身体中を血液のように流れる“力”を感じとれた。おそらくだが、これが魔力だろう。
この“力”の一部を、右手に集中するようにイメージする。
「よし!」
《【魔力操作】スキルを得ました》
《【魔力手甲】スキルを得ました》
スキル取得早すぎるだろ! 普通もっと練習したり、実践で試してから取得するもんだろ!
どういうことだ全くと思っていたら、称号のせいというか、おかげでした。
〈異世界人〉
・異世界からやって来た者、または、異世界の知識を持っている者に与えられる称号。他人からは見られない。
身体能力が大幅に上昇し、成長率も上がる。さらに、スキル取得が早くなる。
〈神に選ばれし者〉
・神に選ばれた者に与えられる称号。他人からは見られない
保有魔力量が増え、魔力系、魔法系スキルの取得が早くなる。
成る程ね。これのおかげで手に入ったのね。
しかし、もう少しアクセントが欲しい。そうだな、この状態で、氷を纏わせてみよう。
「出来たっ………と、なんだこりゃ」
氷がうっすらと光っている。しかし、これで申し分ないだろう。他にも色々試したいが、さてどうしようか………
ふと、寝そべっているフェルゥが目に入った。
そうだ!
頭の中でイメージを固める。
細部まで、しっかりとイメージして、魔力を浮き上がらせて凍結させる。
「こんなもんかな」
問題無く動くし、強度や硬度の面でも大丈夫だろう。
「なんですかそれ? 凄く凶悪ですね」
「硬いね」
ティオとツクヨミが、興味深そうに俺の右手を見る。現在俺の右手は、狼の手のようになっており、氷が鋭い爪になっている。他にも、あるものを考えているのだが、それは実践で試そう。
「ルルー、なんか魔物見えない?」
「丁度出てきたわよ」
ルルーがそう言って、馬車を止める。フェルゥは既にツクヨミを乗せて外に出たので、俺とティオ、ルルーも場所から降りる。
「ゴブリンだな」
「なんか慌ててますね」
「兎に角戦うわよ、後ろはフェルゥがやってるみたいだから」
そして、戦闘を開始した。ゴブリンの一匹に、氷の爪を振るう。ザシュッ! と、ゴブリンが刻まれて倒れる。さて、二人はどうかな?
「狐火!」
「獣人武技 咆拳!」
ティオが青白い火を幾つも飛ばして攻撃し、ルルーのほうは、おそらく魔力を纏った拳でゴブリンを吹き飛ばしていく。
よしよし、二人でも暫く捌けそうだな。
「ちょっと抜けるぞ」
「「え?」」
右手を下にかざし、そこから魔力を伸ばしていく。
これは集中力と、時間を要する。一度出来れば、スムーズに出来るようになると思うんだけど、今は時間がかかる。
「終わったわよ」
「え? マジで? まぁ、やっとくだけやっとこう」
そう言われて見ると、ツクヨミがゴブリン達を取り込んでいるところだった。しかし、やるだけやっときたい。
と、ここで【気配察知】と【危機感知】に反応が
「ガァァァァァァァァ!!!」
「ッ!?」
「嘘っ、オーガ!?」
とりあえず、鑑定
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≪オーガ≫
備考
・闘争本能が剥き出しになった、鬼に似た魔物。好戦的で、目に入った生物を襲う。魔物の中でも危険な部類に入る。
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さっきのこいつから逃げてたのかな?
「逃げるわよ! と、もしかしてトーマなんとか出来る?」
「大丈夫ですか?」
「ちょい待ち、今準備完了した」
【温度調整】で、魔力を凍結させる。
形は刀、刀身は非常に鋭利になっており、太陽の光を反射して輝いている。
そして、作って直ぐに頭の中に浮かんだ“モノ”
「………」
オーガが此方を睨む。
息を深く吐いて、氷の刀を構える。
「ガァァァァァァァァ!!!」
「トーマ!」
「トーマさん!」
オーガが手に持っていたこん棒を振り下ろしてくる。
それが酷くゆっくりに見える。
足を踏み出して、振り下ろされたこん棒を掻い潜り、オーガをすれ違い様に斬る
「血氷華・一輪咲き!」
「ガァァァァァァァァ!?!?」
オーガが断末魔の叫びを上げて倒れた。
倒れたオーガの斬り裂かれた腹には、真っ赤な氷がまるで華のようになって固まっていた。
《【刀術】スキルを得ました》
《【瞬速】スキルを得ました》
《【思考加速】スキルを得ました》
また簡単に手に入ったな。
スキルの大盤振る舞いですね