3k:異世界の国
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「それで、二人はなんでこんなところに? よかったら聞かせてくれない?」
「私が悪いんです。外の世界を見てみたいなんて………」
「こっそり連れ出したはいいんだけど、人間に捕まっちゃったのよ。あのときは、生きた心地がしなかったわ」
成る程。ということは、ここはどの辺りなんだろ?
「多分、人間の領土よ。どうやら、姫様が獣人族の姫巫女だと気付いたみたいで、城に連れてかれるところだったの。その点に関しては、人間を皆殺しにしてくれたオークには感謝ね」
「それ以上に、この………あ、名前………」
「あぁ、そういえば肝心な名前言ってなかった。俺はトーマ=アタガワ。こっちは」
「ツクヨミだよ。宜しく」
「私は白銀狐のティオです」
「私は黒虎のルルーよ。姫様の侍女兼護衛」
成る程。ティオにルルーね。二人ともかなりの美少女だ。それよりも、これからどうしようか? っていっても、この二人を放っておくのはあれだし、町には人間がいるだろうから、二人は連れて行けない。
それならば、とるべき道は一つ!
「二人を元の国に送ろう」
「だね。どうせ暇だし」
「いいんですか?」
「あんたねぇ、人間だって分かったら殺しにくる奴もいるのよ? 私達はありがたいけど……」
「いいの、いいの。どうせ暇だし」
という訳で、ティオとルルーを獣人の国に送ることにしたのだが、獣人の国って何処にあるんだ? 全く分からん!
二人に聞いてみると、今まで殆どを屋敷の中で過ごしていたため、外については全く詳しくないらしい。
詰んだ。
始まる前から詰んでるとかどんだけ………
いや待て! まだここが人間の領土と決まったわけではない。ティオ達は一週間ほど馬車で生活していたらしいが、住んでいたところから人間の領土まではどのくらいか知らなかったらしい。
「とにかく、森から出よう。人間の領土だったら、なんとか俺が獣人の領土への行き方を調べればいいし、ここがまだ獣人の領土だったら、二人を送るのは簡単だしね」
「それがいいね。それじゃ、出発!」
とりあえずの目的を決め、歩き出す。
ちなみに、馬車が通った跡があったので、その跡がなくなるまではそれを辿って行くことに決めた。
その間は、ティオとルルーの二人から、知っていることを色々教えてもらうことにした。先ずは、この世界の情勢。
「情勢っていっても、この世界のことなんにも知らないんでしょ?」
「ははははは。まぁね」
「ボクも知らないよ」
「スライムには期待してない。それで、この世界は四つの大陸と海、そして大小様々の島から成り立っているわ。今いるのが、最も大きな大陸の『地王大陸』人間の国が沢山ある国だけど、大陸の端っこに獣人の国があるわ」
「そして、この大陸の真東には、緑豊かな『幻想大陸』があります。森人族や、妖精族が多く住んでいますね」
「そして、地王大陸と幻想大陸の北に位置する『魔人大陸』。魔族の支配地域よ、この世界で最も危険な所ね」
「そして、南には『氷雪大陸』があります。常に吹雪が吹き荒れる場所があるという、過酷な大陸らしいです」
「ほぅほぅ。成る程ね」
「他にも、天翼族が暮らしていると言われている『天空都市』や、海人族が暮らしている『海底都市』があるらしいわ」
「色々な種族がいるんだね」
うーん。
種族がそんなにいるのに、ここまで静かな森があるのか? なんだか不思議だな。
「別に全ての種族がいがみあってるわけじゃないわよ。森人族や妖精族は仲がいいし、『氷雪大陸』には多種族国家もあるっていうしね」
「ん? でも仲が悪いんだろ? 神様から聞いたぞ?」
「強い加護を持っているので、もしかしたらと思いましたが、トーマ様はアーリティシア様とお会いになられたんですか?」
「え? 本当に?」
「あぁ、それで? どうなんだ?」
「仲は悪いわよ。特にこの大陸の人族と獣人族はね」
「仲が悪いというより、この大陸の人間国家は、獣人族は自分達の奴隷であると主張して、戦争を仕掛けようとしているのです」
「まぁ、人間国家同士の仲も悪いみたいだから、アルスラを攻めようとしたら、別の国に戦争を吹っ掛けられて、結局は戦争自体起こらないんだけどね」
ルルーが言ったアルスラとは、獣人の国の名前らしい。『獣の神 イル・アニマ』を信仰し、その眷属である神牙、神翼、神体を神聖視しているらしい。
それにしても神か………俺はアーリティシア様と、今聞いたイル・アニマ様しか知らないけど、他にもいるのかな?
「いますよ。先ずは、三大神とよばれる三柱の神。天空を統べる『天の神 アーリティシア』様。大地を統べる『地の神 フレンベルグ』様。海を統べる『海の神 ルアヌトメクル』様」
「そして、その三柱の配下である下級神様達ね。イル・アニマ様も下級神の一人よ」
「ふーん。ってことは、俺は一番上の神様の一人から加護を受け取ったのか」
あの神様上位の神様だったんだな。地味にフレンドリーだから、よく分からなかったけど
「確かにあの神はフレンドリーだったね」
どうやら、月読様も会ったみたいだな。
「そういえば、トーマ様はもう一柱の神様から加護を受け取っているようですが、私では誰かは分かりませんでした。なんという名前の神様なんでしょう?」
「あぁ、えーと」
これ言っていいのか? 悩んでいると、頭の中に「適当に濁しといて」という言葉が響いてきた。ツクヨミこんなこと出来るのか………
「元の世界で俺が信仰していた神様なんだけど、名前はないんだ」
「そうなんですか? 名前の無い神様がいるなんて、トーマ様のいた世界は不思議ですね」
「というか、異世界人って殆どが人間の国に召喚された勇者だって聞いたけど、トーマは違うの?」
「いや、俺は向こうで一度死んで、この世界に転生させてもらったんだよ。ついさっき。だから、勇者なんて知らないんだ。っていうか、異世界人の勇者なんているんだな」
ますますありがちな展開が………
勇者が人間の国に肩入れしてるのだとすると、いずれ獣人の国に攻めて来るのかな? そしたら、戦うしかないな。なんだか、ティオ達の話を聞いていると、人間の国はかなり腐ってるみたいだからな。
まぁ、敵対するしないは、落ち着いてから調べたり、実際に会った時に考えよう。今は森から出ることが先決だ。
さて、この世界のこととか、神様のことは聞いた。次は、スキルかな? それとも魔法か……いや、ギフトについて聞こう。
「二人はギフトって持ってるのか?」
「トーマ。ギフトっていうのは、神様から与えられた力。簡単に他人に言えるものじゃないわよ」
「そうなのか」
「はい。人間の国では、ギフトを持っているだけで優遇されたり、無理矢理軍に入れられるそうです」
「人間の国には、他者を支配するギフトを持った奴もいるらしいから、注意しなさいよ?」
「失礼かもしれないけど、獣人の国にはそういうギフトを持った奴はいないのか?」
「獣人族はにギフトを与えるのは、基本的にイル・アニマ様なので、与えられるのは戦闘系のギフトが殆どです」
「獣人は強い者を敬う傾向があるのよ」
「へぇー」
強いものか…………
なら、勝負をしかけられたら死なない程度に凍りつかせて、敬わせるのはどうだろうか? いや、逆に引かれるか? うーん
ま、今考えてもしょうがない。獣人の国に直ぐつくわけじゃないんだから、ゆっくり考えよう。