17K:獣人の国に、暫しの別れを
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結果から言おう。なんとかなった。
ヴォルフさんが、呪いによって記憶と感情をある程度操作されていたことが判明したのだ。
そして、獣人の皆さんは、自分達も納得できていなかったし、心のどこかでは人族を今も恨んでいる。だから、自分達にも責はあると言いだした。
ヴォルフさんは、これに自分が全面的に悪いと反論。
そしたら、獣人の皆さんがいや、自分達も悪いと反論。
話し合いが、殴り合いに発展しそうだったので、俺が無理矢理まとめた。
「ヴォルフさんは三日間牢屋生活! 獣人の皆さんは、これからは人との融和の道を歩むことを誓うこと! 思うところはあるだろうけど、進まなきゃどうにもならないからな! はい! 解散!」
適当にまとめたが、なんとかなった。
ああ後、最初に襲ってきた三人に謝られた。けどまぁ、人が普通に悪いし、呪いが多少働いてたあれもあったので、これから気をつけてくれればいいと言っておいた。
事件解決から四日後、牢屋生活の終わったヴォルフさんは、リュコスさんのお墓に謝りにいき、その後は、約束を果たすためにガルロアさん達の手助けをすることに決めたようだ。
俺はというと、獣人の皆さんからは認められ、普通に王都の中を歩けるようになった。
もう少しかかると思ったんだが、まぁ、良かった。
なんだか都市の雰囲気も柔らかく、穏やかになったようだし、一先ず安心と言える気がする。しかし、人の国との同盟の件やら、ヴォルフさんをたぶらかした存在やら、悩み事は多い。
人の国との同盟の件は、国全体が推進派になったので、スムーズに動き始めた。
「とりあえずは、冒険者のアイツからの連絡待ちだな」
だ、そうだ。
ヴォルフさんをたぶらかした存在だが、ヴォルフさん曰く
「よく覚えていないんだが、ある日突然頭の中に声が聞こえてきて………」
それを聞いた皆が━━俺以外━━納得していた。
なんでも、この世界には悪神と言われる、まんま世界の支配だとかなんだとかを企み、神々に封印された存在がいるそうだが、今回のことは、その配下である悪魔の仕業らしい。
悪魔の目的は、知恵あるモノをたぶらかし、負の感情を回収、悪神を復活させるつもりらしい。
神様………なんで悪魔は封印しなかったんだ?
「神々が関われるのは、同じ神々か、世界の崩壊に関すること、それと、この世界に来る前の異世界人くらいです」
「あぁ、そういや直接は関われないんだったか」
悪魔には、巫女やら神官が有効な手段を持っており、魔人大陸には祓魔師と呼ばれる、対悪魔特化の人達もいるらしい。
ちなみに、悪魔と魔族に関連性は全く無いらしい。
とまぁ、とにかく殆んどの問題は解決した。つまり………
「そろそろ、人の国に行こうと思う」
「行っちゃうんですか?」
「もう少しゆっくりしていったら?」
話を聞いたティオとルルーが、不安そうな顔をする。
今生の別れってわけじゃないんだから、そんな顔しなくてもいいと思うけど………それに、宿はとるにはとるけど、夜は戻ってくるつもりなんだが………
「ほ、ほら! まだ王都の案内とかしてませんし………」
「そうよ! 美味しいお店とかも……」
二人が若干涙目になってすがってくる。
さて、夜は戻ってくると言いづらいな。
「トーマくん。転移出来るんだから、何時でも帰って来れるんじゃないの?」
「「………え?」」
「あぁ、夜は戻ってくるつもり」
ツクヨミが普通に聞いてきたので、普通に返す。俺を引き留めようとしていた二人が、頬を膨らませて離れた。
機嫌を損ねてしまったようだが、そのうち機嫌が直るだろうから、良しとしよう。
さて、そんなこんなで、王都に来てから一ヶ月ほどがたった。
「準備はよいのか?」
「えぇ、全部収納空間に入れましたから」
道具やら食料やらなんやらの準備を終えた俺は、人の国に行くために王都の門の前にいる。
見送りに来てくれたのは、イナリ家の皆さん、王族の皆さん、ヴォルフさん、その他諸々。
「本当に着いていっちゃ駄目ですか?」
「耳を隠してれば行ってもよくない?」
「万全をきしてな。夜は帰ってくるからさ」
ティオとルルーは、まだ一緒に行きたそうにしているが、二人が獣人だとバレたら色々面倒なことになりそうだし、今回は遠慮してもらう。
一緒に来るのは、テイムモンスター扱いできるツクヨミとフェルゥの二匹? だけだ。
向かう目的は三つ。
一つは情報収集。
どこの国が獣人に対して敵対しようとしているのか、友好を築こうとしているのはどの国なのか。
二つ目は救出。
もし、奴隷にされていたり捕まっている獣人族の人を見つけたら、救出して連れてくる。でも、ちゃんと本人の意思を確認する。
三つ目は人探し。
人族の国にいる獣人族の冒険者からの情報で、勇者が現れたそうなので、探し出すつもりだ。ありがちな展開で、勇者は異世界人らしい。
三つ目はそこまで積極的には行わないつもりだ。目的は、もしかしたら俺の知り合いがいるかもしれないから。
まぁ、知り合いの顔は転生の反動で忘れているが、見ればきっと思い出せるハズだ。根拠はないが、そんな気がする。
「それじゃ、そろそろ出発するよ」
「気をつけてくださいね」
「油断禁物よ」
「分かってるって」
ツクヨミとフェルゥと共に歩き出す。
俺達を見送ってくれる獣人の皆さんに手を振りながら、俺は人の国を目指して歩き始めた。
次回からは、度々視点変更があります