15K:真夜中の異変
最初はトーマ視点ではありません
□-258℃□
俺は、人が許せない。
奴らが私から大切な人を奪った。
奴らを許すわけにはいかない。
それなのに今の王族は、第二王子を除いて、全員が人との融和のために尽力している。
「ふざけるな! 奴らが奪ったモノを分かっているハズだろう!?」
腑抜けた王族は必要ない。全員を牢に閉じ込め、以降は私がこの国を統べるのだ。そして、人族の国を全て攻め滅ぼす。
攻め滅ぼした後は、我らの奴隷とし、一生をかけてその罪を償ってもらうのだ。
私は、眼下にあるアルスラの王都に浮かび上がった魔法陣を見つめ、ほくそ笑む。
「さぁ、アルスラの民よ。思い出すのだ、その憎しみを、恨みを、怒りを! 今こそ、人族に復讐する時なのだ!」
待っていてくれ、リュコス。
英雄と呼ばれた君の仇を、私が討とう。
私がきっと、君の無念を晴らしてみせる。
「全てが終わったら、私も君の下へ行くよ」
そしたら、また笑ってくれ。
私の側でずっと
◇
さて、この真っ赤になったルルーをどうするべきか………
とりあえず、部屋に戻そうかと、ルルーを抱えあげようとしたら━━━
「トーマさん!」
勢いよく扉を開けて入って来たのは、寝間着姿のティオだ。
「ルルー!? どうして………というか、なんで顔が真っ赤に?」
「あぁ、ちょっと色々あってな。落ち着かせようと抱き締めたら、こんなことに………」
「抱き締めっ!? うっ、羨ましい」
「え? なんだって?」
「い、いえ、なんでもありません」
それで、ティオの要件がなんなのか聞いてみると、寝ていたら、とても嫌な感じがして飛び起き、慌てて俺の所に来たそうだ。
しかし、なんで俺の所に?
「安全でさから」
「あ、そう」
暫く話していると、フェルゥとツクヨミも入って来た。なんでも、この二人……二匹? 二体? も、嫌な感じがしたらしい。
「どうも、呪いに似てるんだよね」
「呪い?」
「っ! 言われてみれば確かに………」
ティオはそう言うと、懐からお札のようなものを取りだし、ルルーの額に貼った。
何してるんだ? と聞いたら、ルルーに呪いの効果が出てるかもしれないので、念のためだそうだ。
もしかして、俺を襲ったのは呪いのせいかな?
フェルゥとツクヨミは大丈夫なのか聞いたら、問題ないと返ってきた。俺の場合は、【月之御鏡】の効果で無効化してるから安心だしな。
「トーマ!」
「トーマくん………って、ティオ達もいたのか」
お次はアマネさんと、ジオさんが入って来た。
「どうやら、王都に大規模な結界が張られているらしい」
「しかも、呪いに感じがするんだ。今、シュロとスイウが屋敷の部屋の一つに結界を張っているから、皆は直ぐにそこに移動して」
アマネさんとジオさんは、その後城に向かうそうだ。
それにしても、結界を使った呪いか…………あ!
アレが使えるかもしれない。
「ツクヨミ、今日は━━」
「満月だよ、タイミングバッチリ、運がいいね」
「だな」
俺の言いたいことが直ぐに分かったのか、ツクヨミが答えてくれる。そして、フェルゥの背中から俺の肩に移動してきた。
ツクヨミが着いてきてくれるなら、心強いな。
「トーマさん?」
「結界のほうをなんとかしてみる。ティオ達は、フェルゥと一緒に屋敷にいてくれ」
「それなら、私も!」
「何があるか分からない。それに、直ぐに終わるよ」
泣きそうな顔のティオを撫でた後、フェルゥに後のことを頼んだ。
フェルゥは、一声鳴くと、ティオの側に移動してくれた。
「それじゃあアマネさん。結界をなんとかしたら、俺も城に向かいます」
「うむ。頼んだぞ」
屋敷の玄関から、王都の外に出る。
真夜中の静まり返った王都………特に問題があるようには見えないが、結界は見えないだけでしっかりとそこにあるんだろう。とにかく、高い建物がいいだろうと思い、そこに向かって走る。
さて、アレなら広範囲にいる人達の呪いを解けるのは分かっているが、結界に効くだろうか?
「悪意ある呪術的要素があれば、浄化の力で構成を破壊出来るから、大丈夫だと思うよ」
「そうか、なんとかなりそ━━っ!?」
突然裏路地から飛び出てきた人に斬りかかられたので、急いで避ける。
しかし、避けた所に屋根から弓矢や、魔法の攻撃が飛んで来た。
此方も避けると、今度は、王都に入る前に襲ってきた、兎族の女性と、犀族の男性が襲いかかって来たので、氷の壁を作って防御する。
「おいおいマジかよ」
「これは、不味そうだね」
俺の目の前には、虚ろな瞳をした、多種多様の獣人族の人達が、武器を構えて集まって来ていた。
そして、前方のいかにも武闘派と呼べる人達の一部は、憎悪の籠った瞳を爛々と輝かせてこっちを見ていた。
「人族が! 父上達を騙し、何を考えている!」
一番最初に斬りかかって来た青年が、剣を此方に向けて聞いてきた。
いや、誰の息子さん? と思い鑑定してみたら、なんと第二王子リオン=アルスラだった。
「俺は騙してなんかないし、異世界人だからそもそも関係ないと思うんだが━━━」
「黙れ! 貴様らがどれだけの同胞を奴隷にし、殺してきたか………分かっているのか! 融和を築こうとした英雄リュコス様を殺した癖に、よくノコノコとこの国に来れたものだな!」
駄目だな、こいつらには、俺が憎むべき人族と写っているらしい。
「さて、ツクヨミ。この人数を傷つけないようにしつつ、アレを発動させるミッションみたいだ」
「この王都を覆えるレベルなら、だいたい十分くらいだね」
「了解」
俺は、【月之御鏡】を右手の上に出現させる。見た目は、手のひらに乗るぐらいの大きさの、丸い鏡だ。
そして、それを天に飛ばす。
さて、後十分。
「逃げますか」