14K:真夜中の……
□-259℃□
王族との話し合いの後は、そのまま帰ったのだが、あることを思い出した。
「屋敷から出れないけど、出れるじゃん!」
え? 言ってる意味が分からないって?
つまり、物理的に屋敷からは出れないが、魔法的には屋敷から出れる。
そう、転移だ。
ようは、アルスラの王都━━それも都市の中━━を歩かなければいいだけで、それ以外の場所は特に問題ないハズだ。例えば、森の中とか
「という訳で、最初の森に来ています」
「だね」
同行者? は、ツクヨミだけ。モンスターを倒した時の、処理係だ。
え? 空間収納に仕舞えばいいって?
……………
とにかく、ツクヨミにはモンスターの処理をやってもらう。これは、決定事項だ。
「来てから気づいたんだね」
「うるさい」
さて、今回やるのは、新しい技の開発とか、スキルに慣れるって所かな? 使えることと、使いこなせることは、同義ではない。使えるよりは、使いこなせるほうがいいだろう。
とりあえず、【温度調整】で新しく思い付いた技があります。
「うわっ。これ、かなり強いんじゃない?」
「かも」
近くの木をターゲットにして、半径三十センチくらいの球状範囲を、一気に最高温度に変え、一瞬で10℃に上書きするということをやってみた。
結果は、綺麗に幹の一部が球状に消え、そのまま自重に耐えられずに折れた木。
「これ、名前つけなければ、相手から未知の攻撃だと思われて便利そうだな」
「そうだね」
しかし、名前をつけたほうがスムーズに発動出来るし、失敗しなくなるんだよな。なんというか、ギフトとスキルが調整してくれてるような感じがする。
とりあえず、名前を言っても分かりづらいように、焼失にしておこう。
そういえば、ネット小説みたいに、かっこよくルビとかふったほうがいいかな?
生命凍結なら、“生命凍結”とか
焼失なら、“焼失”とか
………いいかもしれん
まぁ、当面は普通に言うか、心の中で言おう。
「さて、今度はどうすっかな」
後は、氷魔刀みたいに、魔力を凍らせて武器を作るぐらいか? といっても、そういうのは限られてるし………
「なんで銃?」
「いや、いけるかな~と思って」
普通に無理だった。もう少し詳しく言うと、全部氷で固まっているので、動かない。銃の氷像みたいな感じといえば、分かるだろうか?
つまり、使えません。
「うーん」
「どう? なんかいいの思い付いた?」
「いや、後はなんか広範囲技でも考えればいいかな?」
持ってきた、昼食━━三種類のおにぎり。塩、おかか、鮭━━を食べながら、広範囲技を考える。
普通に、広範囲を凍らせるとか、蒸発させるとかでいいかな?
食べ終わった後に、上2つを試してみたが、蒸発のほうは森がトンでもないことになったので、封印することに決めました。
「さて、そろそろ帰るか」
「だね」
◇
帰ってからは、皆でまったりカードゲームやら、ボードゲームをしたり、地球の話をツクヨミと一緒に皆に聞かせた。
夕飯には、鍋料理が出て、皆でワイワイ楽しんで食べた。
なんというか、かなり馴染んでしまっているな、俺。
ほどよく疲れていたので、その日は直ぐに寝てしまった。
真夜中に目が覚めた時、身体に何かが乗っている感じがした。
また、スイウさんかな? とりあえず、上から退いてもらおうと思い、重い瞼を開けると━━
「ルルー?」
「………」
そこには、虚ろな目をしたルルーが俺の身体に跨がっており、俺が何しに来たのか疑問を投げ掛ける前に、ルルーが此方に手を伸ばして━━━
「ッ!?」
━━━そのまま俺の首を絞め出した。
「ぐぁ………ル……」
そういや、俺が殺そうとしたら容赦しないとか言ってたな。
………それにしたっておかしい。
最近では、完全に俺を信用してる感じだったし、何より虚ろな目をしているのに疑問が出る。
……………
まさか、誰かに操られてるとか?
「ル………ルー!」
「………ッ!?」
俺が強く呼び掛けると、瞳に動揺が浮かび、バッと俺の首から手を離した。
「げほっ」
獣人の身体能力で首を絞められたので、かなり苦しい。身体能力が地球にいた頃のままだったら、確実に首の骨が折れてたな。
ルルーのほうを見ると、信じられないという表情で自分の手を見ている。そして、その瞳は虚ろになったり、戻ったりしている。
虚ろになるたびに此方に手を伸ばし、戻ると直ぐに手を戻す。
「ルルー」
「っ! 来ないで!」
近づこうとすると、叫ばれ、距離を取られた。その瞳には、恐怖の色が出ている。しかし、俺を怖がっているわけではないようだ。
「人は許せない………違う! トーマは………でも…………違う、違う!」
頭を抱えながら、何かと葛藤しているルルーを見ながら、どうするべきか考える。
こういう時は、どうすればいいんだっけ?
『抱き締めればいいんじゃないか?』
頭の中にそんな声が聞こえた気が………いや、思い出したのか、誰の言葉か分からないが、妙に信用出来る。
とにかく、ルルーを抱き締めてみる。
「ひゃあ!? ト、トーマ?」
「大丈夫。大丈夫だ」
ルルーの頭を撫でる。どさくさに紛れて耳を触ってみたが、はんぺんみたいな感触だ。
暫くあぅあぅ言っていたルルーが、喋らなくなり、大人しくなったので、もう大丈夫かなと思い、手を離して顔を見ると━━━
「…………」
「あれ?」
顔を真っ赤にして、呆けていた。
…………何故に?