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13K:アルスラの王族


□-260℃□






朝は早めに目が覚めた。


ちょっとした運動をした後、下のリビングっぽい所に行くと、フェルゥとツクヨミがいた。



「や、おはようトーマくん」


「グルゥ」


「おはよう」



現在俺は、ティオの実家である、獣人の国アルスラにあるイナリ家の屋敷に来ている。


昨日の夜は、色々と大変だった。


何故か、かなりきわどい寝間着を着た、ティオのお姉さんの一人のスイウさんが、夜這いと言いながら迫って来た。


あまりの急展開に固まっていたら、ティオともう一人のお姉さんであるシュロさんが来て、回収してくれた。



「それにしても、中々快適だよね」


「そうだな」


「うーん」


「どうかしたのか?」



快適だと言ったツクヨミが、なんだか腑に落ちないような感じで、唸っている。



「いやね、この都市に初めて入った時………というか、この都市自体に嫌な感じがしたんだよ」


「嫌な感じ?」


「そう、何かの悪意のような………だから、トーマくん気をつけておいて」



ツクヨミの言葉に、分かったと頷いておく。



「それと、【月之御鏡】について」


「ん?」



ツクヨミから、【月之御鏡】の裏技というか、必殺技というかを教えて貰った。条件があるが、中々使えそうなので、チャンスがあったら使おう。


そんなこんなで、暫くツクヨミ達と話していると、ティオ達もやって来た。



「おはようございます、トーマさん」


「トーマ、おはよう」


「二人とも、おはよう。ルルー、どうかしたのか?」



ニコッと笑って挨拶するティオと違い、ルルーはこめかみを押さえながら、気だるそうに挨拶してきた。昨日は元気だったのに、風邪でもひいたのか?



「なんか、起きたら頭痛がするし、なんかイライラするし………」



ため息を吐きながら、ぼやいていたルルーだが、朝食の時間になると、頭痛も治まったようで、いつも通りな感じになっていた。


さてさて、今日の朝食のメニューは、きのこの吸い物、アジの開き、なすの漬け物、玉子焼き。それにご飯がある。


やはり、日本人の舌には和食は合う。



「トーマよ、この後、わっちと城に行くぞ」


「へ? なんでですか?」



朝食に舌鼓をうっていたら、アマネさんが突然そんなことを言い出した。



「何、今の王族は、なんとか人と友好関係を築こうと努力しておっての、冒険者をやってる獣人の者を仲介にして、とある人族の国と同盟を結ぼうとしてるのだ」



成る程。しかし、それと俺が城に行くことに、何か関係性があるのか?



「実はの、同盟を結ぶ前に、人と話してみたいと言っておったのだ。そこに、お主が来たというわけよ」


「あぁ成る程。でも、人は人でも、異世界人ですよ?」


「なぁーに、気にすることはない。人は人だ」



自信満々に言い返されてしまったので、それ以上は何も言わないことにした。


朝食の後、目隠しをされた状態で、秘密の通路的な所を通って、城に入った。なんでそんなものがイナリ家に………と思ったが、『獣の神 イル・アニマ』から神託を受ける巫女の家系として、王族とはかなり懇意にしているのと、信頼関係にあるので、何かあった時のために直ぐ逃げ出せるようにらしい。


ともかく、城に無事に入れたので、アマネさんに従って部屋の一つにはいった。今回は非公式ということで、謁見の間ではない。(本音は、一々面倒くさいから、らしい)



「おお! お前がトーマか!」



おおらかに笑いながら、大柄な男性が迎えた。豪華な服を着ているし、この人が国王だろう。後、部屋の中には、真っ赤なドレスに身を包んだ獰猛な顔をした女性と、爽やかな感じのする青年、キラキラした瞳をした女の子の四人。


あれ? 獰猛そうな女性が王妃様だとして、後は王子と王女…………確か、王子がもう一人いるって事前に聞いたけど、来てないのかな?



「はははははは! 思ってたりひょろいな。ワシがこのアルスラの王、ガルロア=アルスラだ、よろしくな!」


「ふぅん? ソイツが強いの? あ、私は王妃のレミーネ=アルスラよ」


「王太子のレオン=アルスラです」


「第一王女の、リミレ=アルスラです!」



国王はガルロアさん。王妃はレミーネさん。王太子のレオン。第一王女のリミレ。ちなみに、レミーネさんは、アマネさんの幼馴染らしい。


そんなこんなで、話し合いが始まった。とはいっても、俺は異世界人なので、人族側からの意見など持ち合わせてはいない。



「そういえば、なんで同盟を考えてるんですか?」


「それが、アイツの願いだからな」


「アイツ?」



誰なのか聞こうとしたら、皆の表情が暗くなった。



「昔、この国に英雄と呼ばれる女がおっての、あやつは何時でも笑って、全ての種族が笑いあえる日が来ると言っておった」



アマネさんが、悲しそうに、無理やりに笑いながら、話し始めた。


一騎当千の強さを誇った狼族の女性は、何時も笑っていた。そして、他の獣人達に人族との融和への道を説き続けた。



「ある日、人の国の一つが融和の話をしたいと言ってきたと、嬉しそうに笑ってあやつは、指定された場所に向かった」


「…………」


「しかし、それから三日後、三体の神獣様が、冷たくなったあやつを連れて来たのだ」



リミレが声を上げて泣き、ガルロアさんは、血が出るほど拳を握りしめている。



「アルスラの住民は、人の国を攻め落とそうと、王族に訴えた。しかし、先代の国王は神獣様から伝えられた、あやつの最後の言葉を国民に伝えた」


「………」


「『きっと、全ての種族が分かりあえる日が来る。だから、諦めないで』とな」



その時、この国の住民はどんな気持ちだったのだろう? きっと、怒りに肩を震わせただろう。一日中涙を流した者もいただろう。


ガルロアさんが、机に拳を叩きつけた。



「何故だ! ワシらがいったい何をしたと言うのだ!? 何故人は、歩みよろうとしない!」


「そういう歴史が深いのと、違うからじゃないですか?」


「違う?」


「俺の元いた世界でも、肌の色の違いだけで差別を受けた人達がいました」


「肌の色? そんなことでか!?」


「そんなもんなんですよ、きっと。自分達と違う人を排除しようと、下にしようとする。でも、全てが全てそういう人じゃない」



俺のいた世界でもそうだった。全ての人間が、人種差別をしていたわけではない。それに、立ち向かった人も、それを理解し、強力した人もいる。


大事なのは、歩みよろうと努力すること、諦めないこと。



「大丈夫、この世界には驚くほど沢山人族がいるんです。分かりあおうと、歩みよろうとする人は必ずいるハズです」



俺が笑ってそう言うと、皆さんが一瞬呆けた後、また笑ってくれた。



「そうだな、なんだか………吹っ切れた気がする」



ガルロアさんが微笑んでそう言い、また話し合おうと言って、その日はお開きになった。



「トーマ、お前は不思議な奴だのぅ」


「そうですかね?」


「あぁ、お主なら、人族と獣人族の関係を、良い方向に導けるかもしれぬな」



そうできたら、神様にも恩返しができる。よし、できる限り頑張ろう。





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