11K:王都手前で一騒動
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「獣人武技 蛇槍」
「雷鳴槍撃!」
「ちょ! ま!」
「グルァ!」
「ちぃっ!」
どうも皆さん、いきなり戦闘ですいません。
さっそくですが、なんでこうなったのかを出来るだけ簡潔に説明します。
神牙様のいる魔狼の森を後にした俺達は、そこからさらに一週間かけて、獣人達の国アルスラの王都に着いた。
着いたはいいんだが………
「思ったより、素早いわよコイツ!」
「姫巫女とその護衛を拐ったんだ、それなりの強さはあるだろう」
「あの狼も強いぞ」
思いっきり勘違いしとる。
あ、フェルゥのことを神牙だと分かってる人がいるにはいるんだが………
「く! そこをどけ!」
「いやだから! なんで牙選者様と神牙様と戦わないといけないんだよっ!」
向こうで猫っぽい獣人の人を足止めしていて、しかもその犬の獣人の言葉を、他の人達は全く聞いてくれていない。
「なんでこんな貧乏くじ引かなきゃいけないんだよー」と悲鳴をあげているが、向こうをカバーできる余裕はこっちにはない。
俺が相手をしているのは、左側の耳が千切れて半分ほどになっており、武器は無骨なガントレットを装備した女性の兎の獣人。傷だらけの身体をした、槍使いの犀の獣人。
もう一人、羽の生えている、おそらく鳥の獣人である男性は、フェルゥが相手をしてくれている。
あ、ティオとルルーは、王都に着いた時に丁度知り合いを見つけたようで、その人に事情を話すために先に行っていたのだが、俺が姿を見せた瞬間、二人を抱えてその人が走り去ってしまい、どうすべきか迷っていたら、五人の獣人さんが来て、今に至ります。
「少しは話を聞いてくれないか? こっちは戦う気なんてさらさらないんだけど」
「ルゥ」
「バカめ! 人族の言葉など信用出来るか!」
駄目だこりゃ。特に、兎の獣人さんは俺を憎しみの籠った目で見てきており、人族が嫌いなのが一目見ただけで分かった。
ちなみに、犬の獣人さんは別段そんなことは無かったが、他の人達も多かれ少なかれ人族を嫌っているようだ。
「参ったな。別にアルスラに寄らなくてもいいけど、二人にお別れぐらいは言いたかったんだが………」
「だね。でも、強行突破も出来ないしね」
「グルゥ」
どうすればいいか途方にくれる。ちなみに、ツクヨミはフェルゥの上に乗って、余裕な感じでいる。
「一気に決めるか」
お、鳥の獣人さんが飛び上がった。
他の二人も、俺に躍りかかってきた。
あ、今なら地面の二人の機動力削げるかも
「氷原」
最大範囲で地面の表面を凍らせ、まさにスケートリンクのような感じになる。
「なっ!?」
「キャッ」
うむ。派手に転んだな。しかしそこは獣人、直ぐに体勢を立て直した。
「トーマくん、トーマくん。なんで滑らないの?」
「クゥ………」
あ、フェルゥも滑ってるわ。
俺が滑らない理由、それは簡単だ。
「俺が踏んでる所だけ氷を無くしてるだけ」
「成る程ね」
とりあえず、フェルゥのいる場所も溶かしておく。
さて、ここからどうするかね?
上空からの魔法攻撃を、厚い氷の屋根で防御しつつ、もう王都に無理やり侵入してやろうかと思っていたら………
「そこまでですぞ~~~~~!!!」
王都の方から、土煙を巻き上げて小さな人影が駆けて来て………
「あふんっ!?」
俺の張った氷原のせいで滑って、空高く吹っ飛んだ。
えええぇぇぇぇぇ、と思ったら、フェルゥが大ジャンプで小さな人影の後ろ襟をくわえて、綺麗に着地した。あ、着地地点の氷は溶かしておきました。
「た、助かりましたぞ神牙様」
小さな人影は、ネズミの耳を生やした老人だった。ネズミの獣人って人より背が低いのか………
「えー皆さん! こちらのトーマ殿は、私の仕えるイナリ家の大切な客人であり、神牙様に選ばれた牙選者でありますぞ! これ以上の狼藉は、イナリ家を敵に回す行為だとお思いくだされ!」
老人の言葉に、その場の獣人さん達がたじろぎ、犬の獣人さんは、やっとか………と、ため息を吐いている。
「だが! ソイツは!」
「神託により、イル・アニマ様からもその身分を保証されていますが…………それでも何か?」
「ぐっ」
ネズミの老人にギロリと睨まれて、兎の獣人さんが怯んだ。
「さて、では参りましょうトーマ殿」
「え? あ、はい」
老人について、歩いて行く。すれ違う時に獣人さん達から睨まれたが、スルーする。
「すいません。本当はいい人達なんですよ」
「いえいえ、事情は分かってますし、怪我もしてないんで気にしてないですよ」
ペコペコと頭を下げる犬の獣人さんに、笑って答えておく。
ほっと息を吐いた犬の獣人さんは、ぜひ握手をと言って来たので、握手しておく。
「トーマ殿、念のためコレを着けておいてください」
「なんですか? コレ」
ネズミの老人から渡されたのは、イヤーカフスのようなモノ。
「コレを着けている間は、どんな種族でも一時的に犬の獣人になります」
「へぇ」
「お屋敷に着くまでは、そちらのイヤーカフスを着けておいてください。一々引き留められるのは面倒でしょう?」
「ハハハハハ。まぁ」
でも、人間という理由で引き留められるのは無くなるだろうが、牙選者という理由と、フェルゥのせいで引き留められそう。
案の定、屋敷に着くまでなんどか引き留められることになった。