10k:牙選者
□ -263℃ □
突然ですが、ヴェルトから出発して一週間が経ちました。
現在俺達は、魔狼の森というところに来ている。そう、神牙様のいる場所だ。
なんでここに来ているかというと、実は俺はまだ牙選者じゃないらしい。というのも、牙選者になると称号に出るらしいのだ、〈牙選者〉と
そんなわけで、牙選者になるための試練てきなものを受けに来ました。
というか、受けている。
「試練内容が、特定の魔物を狩るっていうね。狼らしいと言えば、らしいけど」
そうそう。神牙様は、十メートルぐらいある、白銀の綺麗な狼だった。とても落ち着いていて、子供達を可愛がるいいお母さんだった。
しかし、試練を課すときの顔は獰猛な狼の顔だった。うん。
「えーと、爆裂黒牛、火炎猪、雷雲羊………これ食べたいだけじゃないか?」
全てこの森にいるらしいが、何処にいるかは教えられなかった。
適当に森の中を歩く。
【気配察知】は使っているのだが、それがターゲットかは実際に見てみないと分からない。
「グルルルゥゥゥ」
「なんだ、熊か」
赤黒い熊が出てきたが、ターゲットでなかったので無視……は無理ですよね。
襲いかかって来た熊が、爪を振るって来たので、氷の爪━━氷狼魔爪━━で受け止める。
「血氷華・一輪咲き!」
「グラァァァァ!?」
左手に作り出した氷魔刀で斬りつける。血飛沫が吹き出た後に、一瞬で凍りついて華のようになる。
この技は相も変わらず派手だな。
倒した熊は、空間収納に仕舞う。
「はてさて、ターゲットの魔物は何処にいるかなー……と、お!」
前方数十メートル先に、燃えている猪がいる。おそらくだが、あれが火炎猪かな? 実際には燃えているんじゃなく、赤い体毛が燃えているようにはねているだけらしい。しかし、種族特性に【火達磨】があるので、さっさと倒すことにする。
【気配希釈】を使って、気づかれないように接近する。
【温度調整】の範囲内に火炎猪が入ったので、生命凍結で即死させる。
「先ずは、一つ目クリア」
空間収納に火炎猪を入れて、再び歩き出す。
森の中をあっちへふらふら、こっちへふらふら、気配を感じたらそっちに確かめに行く、というのを繰り返していく。
そして、見つけました。
「あれが雷雲羊か」
みためは普通の角のはえている羊なのだが、ふわふわの体毛が放電している。あれは、触れたらただではすまないだろう。
雷雲羊を見つけた猛獣達も、一瞥しただけで何処かへ行ってしまう。
さて、触れたら終わりなら触れないように………魔法とか弓矢で倒せばいいじゃない。と、思うだろうが、ふわふわの体毛で弾いてしまうらしい。
「まぁ、俺には関係ないですよっ……と」
先ほどと同じように、生命凍結を食らわせて一発クリア。そのまま空間収納に仕舞う。
さて、後は爆裂黒牛だが、草食なのに好戦的で、この森でも一二を争うほどの危険な生き物らしい。
なんでも、爆発の勢いを利用して高速移動したり、爆発する体当たりをしてきたりするらしい。ちなみに、爆裂黒牛は爆発に対する高い耐性を持っているので、自分の攻撃では傷つかないらしい。
「しかし、何処にいるかな?」
と、何処かから爆発音が聞こえてきた。
もしかしたら、爆裂黒牛かもしれない。向かってみよう。
「ブルルルル」
そこにいたのは、バイソンのような立派な角を持った、黒い大きな牛と黒焦げになって倒れている、何かの生き物だった。
爆発のせいで、要所要所が無くなっていて元がなんだったのか分からない。
「ブルルル!」
「来るかな?」
最後だし、生命凍結を使うのは止めて、普通に戦ってみよう。
氷魔刀を作り出して、構える。
「ブルルル!!」
「うおっ!?」
『ドンッ!』という爆発音とともに、爆裂黒牛が飛んできた。
ギリギリで、身体を捻って避ける。まさか、弾丸やミサイルのように飛んでくるとは思わなかった。
しかし、攻撃方法が分ければ対処は簡単。
爆裂黒牛が飛んで来るのを、集中して待つ。
「ブルルル!!!」
再びの『ドンッ!』という音とともに、爆裂黒牛が迫ってくる。
一拍おいてから、【思考加速】で動きを見切る。
飛び退くように避けて、避け様に首に刀を突き刺して、直ぐに抜く。
【思考加速】を切って直ぐに、『ズザザザザ』と、何かが地面に引き摺られる音がした。
振り向くと、爆裂黒牛が倒れていた。死んでいるのを確認出来たので、空間収納に仕舞う。
これでターゲットは全て回収し終わったので、数日前に試して習得した転移で、神牙様の元に戻る。
「お、トーマくんお帰り~」
「トーマさん! お帰りなさい!」
「随分早かったわね」
「グルゥ!」
皆にただいまと言って、寝そべっている神牙様の前に、狩って来た獲物を出す。
「見事。見事。流石はアーリティシア様に選ばれただけはある。よし、これよりソナタを牙選者と認めよう」
《称号、〈牙選者〉を得ました》
《神牙の加護を与えられました》
よっし、これで本当の牙選者だな。
「ほほほ。今宵は宴だ。トーマよ、この獲物で美味いものを作ってくれ」
「お任せくださいよ」
そんなこんなで、その後は宴ということになり、俺達は朝まで騒いで楽しんだ。