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第二話 カケタハグルマ

あらすじ


 10年前、ある村で再び起こってしまった神かくし。


 その日を境に、小さな少年の心には大きな傷を植え付けて時は突き進む。


 そして、物語はサビつきながら回り出す。

 陽は既に西に傾き、穏やかな風がふく。村人が活動し始める時間の喧騒とは異なるざわめき声に村は包まれていた。




「おい!瑠璃るりちゃんが見つかったらしいぞ!お地蔵様のそばだ!!!」



「お前、あの子か!さかき瑠璃るりちゃん!10年前神かくしにあったあっていう!!」



「そうだ!そうだ!あの子やっと帰ってこられたんだ!!」



「そうか!……もう10年だもんなぁ。だが時間ときが経てば帰ってくるって分かっててもよぅ。突然人が居なくなるんだ。心に穴ぁ空けちまうには充分すぎるって話だ。…………陸斗くんはあれからどうしてんだ?」



「あぁ……瑠璃ちゃんが神かくしにあった時からあいつ、なにか抜けちまったようになっちまってるのは知ってるだろう?最低限学校にこそ行ってるらしいがそれ以外に家は出ないし家族ともあんまり喋ってねぇらしい」



「そ、そうか……だ、だが瑠璃ちゃんも帰ってきたんだ!きっと陸斗くんだって元気になるさ」



「だよな……。見つかってよかったなぁ……」






 神かくしが起きて10年。


 長い時が経ち人々の関心は少しずつ風化していった中、少女は目を覚ます。





「瑠璃!瑠璃!」


「あぁ、奥さん!体を揺すったらいけないよ」


「でも!でも!!!!」



 瑠璃の母親は、普段のお淑やかな姿からは想像もできないほどには血相を変えて、止める村長の言葉を聞かず、瑠璃の体に縋り付きながら名前を呼び続けていた。


 

 この10年で顔はやつれ、少し老けたように見られた。


 でも……、それでも母親の優しさは変わらず、どこまでも心地よく、母親の声は少女の耳に運ばれていく。



 ───誰か呼ぶ声が聞こえる。お母さんの声?お母さんが私を呼んでる…。瑠璃……。瑠璃……?瑠璃か……あぁ、懐かしい。とっても懐かしい私の名前。返事してあげないと───


「ぉ母……さん、声、大きぃ……」



 お地蔵様の前で痩せこけた身体を丸めて蹲る少女は、少しずつ目を開けながら、掠れるような小さな声でそう言った。



「瑠璃ぃ!!!!!」


 母は優しく瑠璃を抱きしめ頭を撫でる。離せばどこかへ飛んでいくような気がした。少女は枯れているという表現が正しいような、そんな姿だったから少女を抱きしめる腕に力が入ってしまったのも無理はない。



 「そんなにっ、抱きしめては、瑠璃が苦しそうだよ、母さん」



 声がした方を振り向くとそこには肩で呼吸をし、息を切らした父の姿があった。



「お父さん……?」


 


「あぁ、父さんだ。瑠璃が見つかったと聞いて仕事を放り出してきた。瑠璃……帰ってきてよかった。ずっと待っていたんだよ。本当に……本当に……」



 歯を食いしばって何かを我慢するかのような表情をした父の口から、これ以上の言葉が出てくることは無かった。だが家族の10年越しの再会は成されることとなった。







 少し時間を遡り陸斗の家。



「陸斗、瑠璃ちゃん見つかったって」



 母親は、自分の部屋で寝転がる陸斗の後ろ姿に静かに伝えた。



「村長さんのお孫さんの舞郁まいかちゃんがうちまで来て教えてくれたのよ。息切らして走って来てくれたらしくてね。今はリビングで待っててもらってる」



「そう」



 小さく反応した陸斗はこちらに上体を向けながらあまり抑揚のない返事を寄越した。普段は返事もほとんどしないのにわざわざこちらを向いた。



 そんな陸斗の姿に、母親は驚きに目を見開いた。だがそれも一瞬のことで直ぐに落ち着きを取り戻した。



「お母さん、今から舞郁ちゃんと一緒に瑠璃ちゃんに会いに行ってくる。陸斗はどうする?辛いなら待っててもいい。けど、来るならその服、着替えて。くたびれた服で外に出ちゃだめだから」




 瑠璃ちゃんに会うことを理由に外へ出ることへの期待と、多分、それ以上に出る気はないのだろうと思う気持ちと、そんな思いを抱えて母親は陸斗に声をかけていた。そして下に降り、外へ出る支度をしながらリビングで待たせている舞郁に少し苦笑いをしながら話していく。



「舞郁ちゃん。おばさんもう少ししたら瑠璃ちゃんの所に行くから、舞郁ちゃんも一緒に来てくれない?」



「分かりました。あ、お茶ありがとうございます。美味しかったです」


 しっかりと躾られているのか、舞郁は礼儀正しく大人しい女の子だ。



「お茶くらいいくらでも出すわ。それより伝えに来てくれてありがとね。村から少しだけ離れたところに家があるせいで騒ぎに気づかなくて……」



「仕方ないですよ。私もお母さんに言われるまで気づきませんでした。あ……、陸斗お兄ちゃんはどう……するんですか?」



 不安な表情を浮かべた舞郁の言葉に陸斗の母親は少し困ったような笑みを浮かべ、2階に目線を向ける。



「陸斗、今自分の部屋にいるの。多分着替えて……てくれたらいいんだけど……。呼びに行こうと思っててね。舞郁ちゃんもう少し待っててくれる?」



 これを機に外に出ることが増えれば陸斗の気分転換になるかもしれない。何より瑠璃と会えるのだから必ず変化があるはずだと、淡い期待をする。



「分かりました。ここで待ってますね」



「それじゃあね」



 陸斗の母親は舞郁に一言声をかけ、廊下へ続く扉に手をかけ────



 「お母さん、準備できたけどもう行くの?」



「え?」



 取手に手をかけ自分で扉を開けて目の前に立っていたのは陸斗だった。服は普段来ているような草臥れたものでは無い。乱れていた髪型までは直せなかったのだろう。寝癖がそのままになっていた。話しかけられた母親は腑抜けた声を漏らし動揺を隠せないままに陸斗に話しかける。



「り、陸斗、もう降りてきてたの?だ、大丈夫?ちゃと服は着れた?顔洗った?寝癖そのままじゃない!」



 もう子供相手にするやり取りのようだが、ずっと無気力という言葉が似合うような生活しか送ってこなかった息子が学校以外に外へ出ようとしている。母親がこうなるのも無理はないのだ。



「帽子被っていくから寝癖はいいよ。それより…後ろの、誰?さっき言ってた舞郁ちゃん?」



「そ、そう。今から一緒に行こうと思ってね。……それじゃ舞郁ちゃん、おばさんも陸斗も準備出来たし行こっか、瑠璃ちゃんの所に」


 

「分かりました、行きましょう」




 3人は家から少し歩く……と言っても5分ほどの場所なのだが、お地蔵様の場所、瑠璃ちゃんが見つかった所まで歩いていく。母親も舞郁も、少し陸斗から距離を開けて歩いていた。決して2人が陸斗を避けている訳では無い。単純に陸斗の歩みが早いのだ。何かに急かされているような、急がないといけない、そんな気持ちに突き動かされ、それは表情にもよく表れていた。ならば何故走り出さないのか。



 後ろの2人を置いていかないように?

違う。


 筋力が衰えて?

違う。



 答えは簡単であった。瑠璃に会いたい気持ちと同じくらい、会いたくない。顔を見ればあの時のことを思い出してしまうから。瑠璃になんと声をかければわからないから。この気持ち陸斗本人が気づくことは無い。




 お地蔵様までもう少し。





 榊親子が再開を喜び合う中、村からお地蔵様へ続く道を村の方からこちらへ来る3人の姿が村長たちの目に映った。陸斗の姿を見た村人達は驚きの表情に包まれていた。


 学校へ行っているため村人が陸斗を見ることはあるが、登下校している陸斗に元気はない、見るに堪えないものだった。だが、こちらに向かう陸斗は緊迫した表情で肩で息をしながら走ってこちらに向かってきていた。



「あ、ありゃあ栖原さいばらさんとこの親子と舞郁ちゃんか。ちゃんと呼んできてくれて何より」



「村長さん、舞郁ちゃんに頼んでたのか?」



「そうだ。栖原さんの家は少し離れておる。もしかしたら気づいていないかもしれないと思ってな。それに陸斗くんもきっと会いたがっているはずだからの」



 走り出した陸斗は母親や舞郁より早くお地蔵様の前に到着する。そんな彼が一番に目にしたのは両親と再開を分かち合う瑠璃の後ろ姿だった。息切れのせいなのか、瑠璃を目の当たりにしあの時を思い出したからなのか……。落ち着く暇なんてものはなく、上がる呼吸を整えられないまま溢れ出した10年分の想いは、頬を伝う涙と小さな呟きに変わった。



 

「瑠璃…ちゃん……ごめんなさい……」




 6歳の少年が抱えるにはあまりにも重すぎる後悔の想い出は16歳になっても色褪せることなく渦巻いていた。10年後また会えるから、なんて大人の言葉を聞き入れる余裕はない。心の傷(トラウマ)を時間が解決してくれることも無い。だから謝罪の言葉を、ただ『ごめんなさい』を言えた少年の心は少しは救われたのかもしれない。




「ごめんなさい、どうして私を知っているの?あなたは……誰?」





 陸斗が───少年が苦しみから解放される未来はまだ、ない。

 お久しぶりです。お芋の人です。


 遥か彼方に投稿した「何処ヘ至レリ」ですがやっとこさで第二話を投稿することができました。


 まぁ基本的には私の怠慢なのですが……。


 それはさておき今回はいつもよりすこーしだけ長いものになってますので無理せずぼちぼち読んであげてください。恐らく次を出せるのはだいぶ先になると思いますがお付き合いしていただけると幸いです。

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