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少女は成長する

作者: 陽川文実

 午後四時二十分頃。私は母と国営公園のひまわり畑に足を踏み入れた。

 高台からも全体像が判らない、広々とした一面に広がるのは、緑。おや、緑? 非常に残念なことだが、ひまわりは既に皆一様に頭を垂れて、日の光を背に項垂れていた。入り口付近の一部だけはどうやら種類が違うようで、まだ元気いっぱいに黄色い花弁を拡げている。

 私はその一部に近寄った。見上げるほど背の高いひまわり。母は西洋ひまわりかもと言っていた。やわい風にさわさわと揺れる度に、私の目には夕方の柔らかくなった日光が刺さる。そうか、太陽を隠せるくらい、ひまわりの花は大きいのか。頭垂れた花達はもっと大きい。これが一面に咲いていたら、きっと、見上げても太陽なんて見えないだろう。私は暖かな陰にぽつりと佇む自分を想像した。

 しゃんと背を正したひまわりのすぐ隣には、先ほどから言うように項垂れたひまわりもまたある。たわわに実った種で頭が重くなったのだろう。そう思ったら、彼らがただ項垂れているようには見えなくなってきた。彼らが自身の子を守る母親に見えてきたのだ。彼ら──いや、もう彼女らと呼称するほうが正しい気がする。彼女らは、数多くの自身の子を抱え、それを守るために背を丸めている。私にはそう見えた。枯れたひまわりが皆同じように頭を下に向けているのは、我が子を日の光から、虫から、鳥から、とにかくありとあらゆる物から護っている、母の大きな愛情故なのだと。私は今は枯れて力無いひまわり達が、途端に力強く見えた。咲き誇る過去よりも、もしかしたら強く輝いているのかもしれない。今、母の姿にも見えるひまわり達は、皆種を落とすまでの短い時間を精一杯生きている。

 私は少し離れて母たちを見渡した。目の前に広がる緑が、急激に黄色く変化したような気がした。もし、一面に黄色い大輪が咲き誇っていたら。皆一様に太陽を目指して頭を高く擡げている、そのひまわりが見える全てを埋め尽くしていたら。

 私はもの恐ろしい感じがした。力強く根を張り茎を太らせ葉を拡げ、そうしてビビットイエローの大輪で満開の笑みの如く太陽を見上げる様に恐怖を感じた。何故と問うても自身の心は応えない。ただただ何処か恐ろしいのだとしか返さない。私はほとほと困り果てた。何故と解らないのでは文字に記せないではないか。文字しろとの先生からのお達しを破る訳にはいかないというのに。

 そのうち、ひまわりの妙に優しげなのが怖いのかと思った。力強く元気な黄色い花は、赤とは違い視覚に刺さらない。大輪に抱えるのは希望だ。ひまわりは母だ。無償の愛を我が子に注ぐ母だ。一面に広がるのは希望? 黄色? 優しい愛?

 ひまわりは笑っているようだった。遠くを見つめて、希望を、夢を追う少女のように。

 ひまわり畑をあとにするとき、私は自身の心に晴れ晴れとひまわりの大輪が咲いているのを感じた。

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