育った環境の違いを実感しました。
私が最寄り駅に着いた時、それまでちょっと小康状態になっていた雨がバケツをひっくり返したような大雨になって、私は駅舎でちょっとげんなりした。
ロータリーを隔てた駅前商店街はアーケードになっているからそこまで行けば濡れないけど、そこまで約100㍍。傘は持っているけど、こんな大雨ではほとんど役に立たない。
悠斗は新しい合羽と長靴で学校に行ったけど、ちゃんと帰って来れるかしら。
そんなことを思いながらふと気付けば、ロータリーの真ん中にある噴水池の傍に見覚えのある合羽姿の男の子がいて水の中を熱心に覗き込んでいた。
……噂をすれば、ね。あの子、あんなところで何やってるのかしら?
悠斗は、池の縁にしゃがんだまま微動だにしない。
……悠斗ったら、沈んでる小銭を拾う算段でもしてるのかしら? でも、全然動かないし。
結局、好奇心に負けて傘を差して噴水まで歩いて行って、悠斗の後ろから声を掛けた。
「悠くん、何してんの?」
「ひゃっ!? あ、美咲さんだ。あのね、ここにエビがいるんだよ!」
「はぁ?」
想定の斜め上をいく返答。
なに、もしかして誰かが買ったお弁当に入ってたエビフライを捨てたとか?
「いったいどういうこと?」
悠斗の背中越しに水の中を覗き込んで、思わず笑ってしまった。
ああ、確かにエビだわ。でも、都会っ子はこれを見たことがないんだ。
赤い甲羅に覆われたエビとカニの合いの子のような姿。勇ましく振りかざした特徴的な大きな鋏。
「ザリガニよ」
「ざりがに?」
「そ。昔、食用蛙のエサとしてアメリカから連れてこられたエビでね、飼育場から逃げ出したのが今では日本中に広がったの」
「美味しいの?」
その発言が出てくるあたりが悠斗らしい。
「食べれないことないけど、やっぱり普通のエビがずっと美味しいわよ。そうね、じゃあ今日はエビフライにしま しょうか」
「このざりがにで?」
「違う違うっ! お魚屋さんで普通のエビを買って、この子はこのままそっとしておきましょ」
「……わかった」
幾分名残惜しそうに池から離れる悠斗と手をつなぐ。
「悠くん、今日は学校で何があった?」
「あ、あのねあのね」
悠斗はザリガニのことをすっかり忘れたかのように今日の学校での出来事を話し始めた。