お料理しました。
悠斗を引取った最初の日、悠斗の好物のハンバーグを一緒に作って以来、料理を一緒にするのが私たちの日課になっている。
実母に捨てられる前、悠斗はまともに食事を与えてもらえないことも多かったようで、自分の食事を自分で作れるようになりたいとの欲求は人一倍強いようだ。
さて、今日は何にしようかしら? 野菜炒めとかも悪くないかな。
そんなことを考えながら八百屋さんの前を通りかかると、おばちゃんが声をかけてくる。
「美咲ちゃーん、今日はいいゴーヤーが入ってるよぉ!」
ゴーヤーかぁ。あの苦さは小学生には難易度が高いんじゃないかな、などと思っていると、悠斗が私の服のすそをついついと引っ張る。
「美咲さん、ごおやあって何?」
「あら、悠くんはゴーヤー知らないの?」
うなずく悠斗と一緒に八百屋さんに入ると、なるほど、おばちゃんが勧めるだけあって形のいいゴーヤーが山積みされていた。
「これがゴーヤー。料理に使う瓜の一種ね」
「ふーん。なんかでこぼこしてるね。それに、ちょっと変な匂い。美味しいの?」
「私は好きよ。でも、ちょっと苦いから悠くんにはちょっと早いかも」
私の言葉に悠斗は少し黙ってゴーヤーとにらめっこしていたが、やがて私を見上げて言った。
「……ぼくもごおやあ食べたい」
「ええ? ほんとに食べるの? けっこう苦いわよ?」
「でも、美咲さんが好きならぼくも食べてみたいよ」
「それなら、今日はゴーヤーチャンプルにしましょうか。でも、後で後悔しても知らないわよ」
「うん」
そんなわけで、ゴーヤーとポークランチョンミートの缶詰と卵を買って帰り、悠斗と一緒に料理を始める。
スライスにして水にさらしたゴーヤーと、食べやすい大きさに切ったポークランチョンミートをフライパンで焼き始める。
こんがりと焼けてきた頃合いを見計らって白だしと醤油でちょっと濃い目に味をつけて、溶き卵で卵とじにして完成。
「いただきまーす」
嬉々としてゴーヤーチャンプルを一口食べた悠斗が案の定目を白黒させる。
「どう?」
「苦い」
「ゴーヤー好きにはこの苦さがまた堪らないんだけどね」
そう言いながらパクパクとゴーヤーを食べる私を見て、悠斗は意を決したような表情で再びゴーヤーに箸を伸ばした。