実家に行きました。
一応、設定では美咲が普段住んでいるのは名古屋で
実家は伊勢です。
悠斗の里親になったことを、実家の兄に電話で報告したのがGWに入る直前の4月末だった。
私が悠斗を引取るまでの経緯を聞いた兄は、長い沈黙の後で「そうか」とだけ言い、「近いうちに一度その子を連れて帰って来い」と付け加えた。
平日の音楽番組担当の私にとって、特番への差し替えとなる祝祭日は都合がつきやすく、急な話だったがGWに帰省することになった。
東京の弟も私に合わせて帰省することになり、数年ぶりに実家で兄と弟に再会した。
悠斗の件を事前に聞かされていなかった弟は「姉ちゃんらしい」と呆れつつもそれでも反対はしなかった。
「また結婚が遠のいたな」といらんことを付け足すのだけは忘れなかったが。私はもう結婚することなんて考えてないからいいんだよ、と舌を出してやった。
そして、私と悠斗が帰る日、兄たちは駅まで見送りに来てくれていた。
悠斗は兄の二人の子供、同い年の長女と二つ下の長男とすっかり打ち解けた様子で、子供同士で別れを惜しんでいる。
「兄ちゃん、色々おおきにね」
地元だとついつい方言になってしまう。
「おう。しかし、お前も茨の道を選んだもんやな。これから大変やぞ」
と、子供たちの方に目を向けたまま兄が言う。
「父さんたちが生きとったら反対したやろかね?」
「どうかな。普通やったら娘が30過ぎても結婚しとらんかったら心配やろうし、それでいて里子を育てるなんて話になったら反対したやろけどな、お前の場合、元々結婚そのものが難しいから案外賛成したかもな」
「兄ちゃんは反対せんかったね」
「お前はもう自立した大人やし、お前がちゃんと考えて決めたことや。俺が口出す話やない」
突き放すような言い方だが、それだけ私を信頼してくれていることが分かるから、私は神妙に頷いた。
「うん。うち頑張るよ」
「せやけど、困った時はいつでも頼ってきてええからな。今のご時世、都会で一人で子供を育てるのは大変や。やれるだけ頑張って、それでも無理やと思ったら意地張らんと戻って来や。貧乏農家やが、食い物だけには困らんからな」
「……ふふ。兄ちゃん、ますます父さんに似てきたね」
「お前も親父らが亡くなってからは全然戻って来んようになったが、ここがお前らの実家であることは変わらんのやぞ。下手な遠慮なんかせんといつでも頼ってこいや」
「そうやね。これからはちょくちょく帰ってくるよ。悠斗と一緒に」
顔を上げれば、初夏の空をゆったりと泳ぐ鯉幟が目に入る。
お父さん鯉、お母さん鯉、子供鯉と昔誰かから教えられた。
でも、今の私には兄鯉と妹鯉と弟鯉の方が しっくりくる気がした。




