引き取りました。
私は悠斗の手を引いて最寄り駅で電車を降りた。
申請していた私の里親としての資格に行政からの認可が下りたので、早速、児童相談所から悠斗を引取ってきたのだ。
養子縁組ではなく養育里親として、これから悠斗が自立できる年齢になるまで面倒を見ることになる。
当初、悠斗は私のことを小母さんと呼んでいたが、『オバサン』という響きに思いのほかショックを受けてしまったので、今は『美咲さん』と呼ぶようにと言ってある。
普段からよく利用する駅前商店街の入り口で、私は悠斗に訊いた。
「さて、今日から悠斗くんは私の家族になるんだから、今晩はささやかだけどお祝いしよっか? 何が食べたい?」
悠斗は何か言いたそうにしていたが、結局首を横に振った。
「…… なんでもいい、です」
「悠斗くん、なんでもいいは相談のクズよ」
思わずちょっと強くなってしまった私の声に悠斗がびくっと怯えたような表情になる。
あー、やっちまったかなと反省しつつ、私はしゃがんで悠斗と目線の高さを合わせて、穏やかにゆっくりと諭すように続けた。
「私は悠斗くんがどんな食べ物が好きなのかまだ分からないし、それも含めて悠斗くんのことをもっと知りたいと思ってるし、私のことも悠斗くんに知ってもらいたいって思ってるの。だから、なんでもいいなんて言わないで私に悠斗くんのこと、教えて? ね?」
悠斗は泣きそうな顔になって、それでも小さくうなずいた。
「じゃあ、美咲さんに教えて? 悠斗くんが好きな食べ物はなにかな?」
「…… ぼ、ボク、ハンバーグが好きです」
私は悠斗の頭をそっと撫でた。
「よく出来ました。私もハンバーグ大好きなのよ。じゃあ、今からお肉屋さんでミンチ買っていって一緒にハンバーグ作ろっか?」
「はい」
今度はさっきよりも大きくうなずいて、悠斗が私の手をそっと握り返してくる。
たぶん、悠斗が心に負った傷は大きく深く、こんなことはこれからも何度もあるのだろう。
だから、私達はそれを一つ一つ二人で一緒に乗り越えていこう。
今日、わたしは悠斗の里親になった。




