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5.己

 広間の扉が勢いよく開かれた音がした。


 赤いカーペットの敷かれ、白い壁に囲まれる広間に僕はいた。僕がここに来た時にはクラスメイトの半分以上が既に揃っていて、みんなも能力を得たのだろうけど、それで気になったのか積極的に僕の能力を聞きに来た。騒ぎ立てるみんなを宥めて、今に至る。


 開かれた扉からは、白ローブの集団がぞろぞろと表れて壁際に整列していく。白ローブの集団に続いてオーランドが表れて、僕たちを見回した。



「これから、我が国家ウロボロスの国王閣下、ロヴェルト様の王室まで、ここの部屋ごと空間転移魔法で移動します。少々揺れますが、ご了承ください」



 ウロボロス……。さっきはルーズ王国と呼んでいたような……?


 ふと感じた疑問は、鳴動する大気に遮られた。繰り返し感じた転移の感覚。だけど、それはとても大きなものだった。



「到着しました、ここが王室です。国王閣下はこの先です、私に着いてきて下さい」



 気がついた時には、転移は完了していた。歩き始めたオーランドに合わせて、流されるように足を進める。


 転移したからだろうか、見えている物は何も変わっていないはずなのに、不思議と空気が重く感じる。


 装飾が施された柱の間を歩く僕たち。時折、騎士らしき鎧を着た人や、メイドを見掛けた。あまりにもゆっくり歩くので手持ち無沙汰になり、手に持ったままだった勇者の神剣(ブレイブソウル)を眺める。


 僕はこの剣を日本にいた頃に見た覚えがある。と言うより、忌まわしい神の試練に挑むときに持たされた。神の加護を受けた剣なのだそうだ。


 ……僕らを無償で助ける神なんてありはしない。神が助けてくれるなら、あの時、僕は……。


 神の存在を信じていない訳じゃない。そもそも、神を信じているから天王司であることに誇りを持っているんだから。


 僕は神の代行者として、何もしない神の代わりに、人を救い続けなきゃいけないんだ……。



「これから国王閣下がこちらにいらっしゃる。くれぐれも失礼のないようお願いしたい」



 オーランドの声が聞こえ顔を上げると、場所は大きく変わっていた。


 豪奢な装飾が至るところにされた室内には、黄金の玉座が1つだけあった。いわゆる、玉座の間というやつだろうと思う。背後の開かれた扉を見るに、気づかない内にここまで歩いてきたらしい。


 少し待つと、黄金の甲冑を纏った騎士が行進してきた。半分以上の騎士は玉座の近くに立ち止まったけど、残りの騎士は僕たちの前にに2列で並び、向かい合って旗を掲げた。旗の下には人の通れそうなトンネルになっている。その威圧感に気圧されてか、僕の目の前にいたクラスメイトが左右に割れた。その道と僕の間に、何もなくなった。


 足音とともに、その人影は表れた。旗のトンネルを、僕を正面に見据える一人の男。金髪をオールバックに纏め、長いアゴ髭を揺らしながら歩いてくる。


 シワだらけの顔には有無を言わさぬ力強さがあり、分厚い筋肉が威圧感を後押しする。


 男が旗のトンネルを抜けると、その姿を見たクラスメイトたちに緊張が走る。当然だ。先生にも、存在するだけでこれだけの威圧を放てる人はいなかった。



「おお、ロヴェルト国王閣下、ご命令に従い。勇者様がたをお連れしました」



 恭しく頭を下げるオーランドに一瞬だけ目を向けると、僕に視線を戻した。



「やあやあ勇者諸君。この度は我々の力となっていただき感謝する」



 強面の形相からは想像もできないほど声音は明るい。しかし、言外の威圧に、僕に限らずクラスのみんながロヴェルト国王に深く頭を下げた。



「諸君、面を上げよ」



 プレッシャーに押し潰されそうになりながら体を起こすと、僕の目前までロヴェルト国王は迫ってきた。



「きみ、名前をなんと言う」


「はい、天王司アルフと申します」



 緊張のあまり、上ずった声になっていないか心配だ。しかし、そんな思考は関係ないとばかりに、ロヴェルト国王は僕を見つめる。


 深く青い目に、まるで心の奥まで見透かされるような。いや、むしろ心中を引きずり出されるような。そんな奇妙な感覚に襲われる。


 どれだけ時間が経ったのだろうか。僕の目を見ていたロヴェルト国王は、唐突に口を開いた。



「いい目をしているな、決断と覚悟の決まった良い目だ」



 いい目、僕が? しかしそう応える間もなく、僕にしか聞こえないようにロヴェルト国王は言った。



「だが、決して呑まれるなよ」



 たった一言。それは、遠い昔に父から受けた言葉によく似ていた。



「はい、ありがとうございます」



 礼を言い、頭を下げる。昔、僕に稽古をつけてくれた父にしたように。


 頭を上げて、顔を合わせると、ロヴェルト国王は満足した様子でオーランドに向き直った。



「さて、私はこれから会議へ向かう。オーランド、勇者様がたのことはよろしく頼むぞ」


「承りました、国王閣下」



 踵を返し扉へ向かうロヴェルト国王。それを追い、騎士たちも一斉に動き始めた。


 やがて訪れる静寂。重圧から解放されても、誰も声を発さずにいた。



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