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エピローグ ―――永続する愛情

「はあ………何で私はこんなところに来ちゃったんだろうねえ?」


 王都の遥か南西に位置する、名も無き大きな森。

 アイリスはその森の中を進みつつ、ため息をつく。

 その手には、白い小さな花が握られていた。


 アイリスがオークたちから解放されて、すでに半年が経過していた。

 他のエルフの仲間たちとは違い、アイリスは故郷の側に所在する人間族の村『シルバー村』へとその身を寄せることにした。

 そのことを知ったエルフの仲間たちはアイリスへ困惑を浮かべたものだ。

 いかに故郷から近いとはいえ、彼の地はエルフたちにとって、オークに陵辱を受けた忌まわしき地である。

 出来る限り近づきたくないと思うのが、当然のことであった。


 それでも、アイリスはシルバー村へと身を寄せることにした。

 理由については、実のところ彼女自身にも良くわかっていない。

 ただ………アイリスは何事も無かったかのように、今後の人生を生きていけるほど器用なエルフではなかったのかもしれない。

 

 シルバー村の村民たちは純朴な性質で、エルフであるアイリスを快く受け入れてくれた。

 村民たちにとっても、知能が高く、豊富な知識を持っているエルフが村に加わるのはありがたいことであったのだろう。

 

 季節が冬から春へ、そして夏へと変わり、アイリスが村にいることが当たり前になったある日のこと、彼女は村の外れに一輪の花が咲いているのを見つける。

 それは彼女にとって少しだけ特別な、白い花。

 アイリスはその花を摘むと、一つの決心を固める。

 かってオークたちの集落があった場所を訪れてみよう、と思ったのだ。


 シルバー村から街道沿いに10数キロメートル向かい、そこから森の中に入って更に数キロメートル進んだ先に『それ』はある。

 かって、アイリスが監禁され、終わり無き悪夢のような思いをさせられた、忌まわしきオーク族の集落跡。

 今やその場所は更地となっていた。

 大小様々な小屋が並んでいた集落の中心部には、焦げた木材が残っているのみであり、オークたちが盛んに宴会を開いていた広場にも雑草が生い茂っている。


「本当………なーんも無くなってるねぇ」


 真夏の強い日差しの中、アイリスは額の汗を拭きつつそう独りごちる。

 偶に焼け落ちた小屋の跡が残っている以外、知的種族が住んでいた痕跡は無い。

 この地に200匹を超えるオークたちが居住していたなど、嘘のようだ。


 アイリスは菖蒲色の瞳に少しだけ緊張を混じらせると、集落の端の方向へ目を向ける。

 その方向には、かって『家畜小屋』と呼ばれていた、大きな小屋があったのだ。


 あの小屋も、同じように焼け落ちているのだろうか?


 気がつけばアイリスは、家畜小屋のあった場所へと、その足を進めていったのだった。

 

 鬱蒼と茂った木々を掻き分けるようにして、アイリスは山道を進んでいく。

 元から陰惨な雰囲気を持った森であるが、この道は特に木々が重なり暗澹とした空気を纏っている。さきほどからさんさんと降り注いでいた陽射しも、この道には届かない。

 アイリスの頬を一筋の汗が伝う。

 それは先ほどとは違う、冷たい汗。

 家畜小屋へと進めば進むほど、彼女の心臓は動悸を強め、体が強張っていく。

 何故、自分はこんな思いまでして、あの場所を目指しているのだろう?

 そんな疑問を心の片隅に持ちながらも、アイリスは何かに憑かれたように家畜小屋へと、黙々と進んでいくのだった。


 視界を遮るほどの高い茂みを越えた先に、『それ』はある。

 ボロボロの木材によって、ようやく建っているような、古びた汚い小屋。

 家畜小屋と呼ばれたその小屋は今も変わらず、この地に残っていたのだった。


「うそ………?」


 小屋を目に映し、アイリスは困惑の声を上げる。

 だって、その小屋の周りには、夏だというのに純白の雪に包まれていたのだから………。

 


 アイリスはふらふらとした足取りで小屋へと近づいていく。

 鬱蒼とした森であるが、木々の間から木漏れ日がさし、小屋と純白の雪を暖かな光で照らしている。

 近づいてよく見てみれば、その純白は雪などではなく、咲き誇る花であるということに気付く。

 それはアイリスが手に持っているのと同じ、白い花であった。


 何故、ここに花が咲いているのだろう?

 自分がこの小屋に監禁されていた時、この場所に花など咲いていなかった筈だ。

 そんな疑問と共に、アイリスは一面の花を眺め続ける。


 木漏れ日に照らされるその花は、やっぱり雪のようで………あの白いエルフや、白いオークの面影を感じさせるものだった。


「………アンタは、今もここにいるんだね」


 そう呟くアイリスの言葉は誰に向けられたものだったのか………。

 ただ、アイリスは手に持っていた白い花を、自分の胸にそっと抱きしめる。


 プリムラ・シネンシス………雪桜ゆきざくらとも呼ばれる多年草。


 その、花言葉は―――

 これで『オークとエルフと女騎士』の話はお終いです。

 全体的に鬱屈としたお話でしたが、ここまでおつきあい頂き誠にありがとうございます。


 このお話は『勇者と魔王、それと俺の話』というシリーズの第1章となっており、同一の世界観でいくつかのお話を書いていく予定です。

 

 第2章からは、同一の世界観で、主人公と舞台を変えて

 『貴族と妖精と男魔術師の話』というお話を書いていきます。


 少し雰囲気は変わってしまいますが、更におつきあい願えれば幸いです。


※ おまけとして第2章のプロローグを最後に投稿させて頂きます。

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