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第30話 始まりの終わり、それは破滅の始まり

 集落の端に位置する家畜小屋と呼ばれる粗末な小屋。

 その入口を、白毛は呆然とした面持ちで開き、中へと入っていく。

 

 白毛は酷い有様だった。

 目から、口から、額から血が流れ、体中に無数の切り傷が出来ている。

 体中はへとへとだ、頭がうまく回らない。

 

 それでも、白毛はよろよろと廊下を進み、とある部屋への扉を開ける。

 部屋の中には菖蒲色の瞳を持ったエルフが膝を抱え俯いて座っていた。

 

「なあ………」


 白毛はエルフに呼びかけるがエルフは俯いたまま反応しない、それでも白毛はぼそりと一方的にエルフへ言葉を放つ。


「母さんは殺したよ、スープにして喰った」


 白毛の言葉に、エルフはゆっくりと頭を向ける。

 その菖蒲色の瞳には怒りも悲しみもなく、ただ蔑みの色だけが浮かんでいた。


「消えろ、オーク。

 私はお前たちなどと話す舌を持たない」


「………だろうな」


 再び、エルフは俯き、今度はもう2度と白毛へ振り向くことはない。

 エルフの拒絶に対して、白毛は特に何の感慨も浮かばなかった。

 オーク族に傷心などという感傷は無い。

 だから白毛は無表情に背を向け、静かにその部屋を後にする。


 ただ―――


 自分が部屋を出たあと、扉の奥からエルフの嗚咽が聞こえたとき、胸に新たな痛みが走るのを白毛は感じていた。



 白毛はプリムラのものであった部屋の扉を開く。

 主を失ったその部屋は酷く広くなったように感じて、白毛は少し困惑する。

 当然であるが、プリムラの部屋に大きな変化は無い。


 狭い部屋に所狭しと並べられた大量の書物。

 寝床に畳まれた羽毛の毛布。

 そして、窓際に飾られた白い花。


 全て、自分が外から持ち込んだものだ。


 白毛は白い花を手に取る。

 プリムラ・シネンシス、雪桜とも呼ばれる多年草。

 自分が母の為に摘んで来た花で、母が本当は大嫌いだったらしい花。

 白毛はそれをプリムラがいつも座っていた場所に置く。

 そして、その対面に自らも腰を下ろすと、花に向かって静かに語りかける。


「母さん………母さんの望みは俺が幸せになることだって言ってたけど………。

 ごめん、たぶん俺には母さんの望みを叶えることが出来そうにないよ。

 だって、俺は母さんがいないとこんなに苦しいんだ。

 耐えられないほど、つらいんだ」


 それは懺悔であったのだろうか。

 白毛は物言わぬ花に対し、とうとうと語り続ける。


「母さん、俺はどうすれば貴女を幸せに出来たのだろう?

 群れを皆殺しにすれば良かったのか?

 それとも、俺が死ねば良かったのか?

 わからない、わからないんだよ、母さん」


 白毛は拳を握り締める、歯を食いしばる。

 彼を支配するのは悔恨と慙愧、絶望と空虚。

 自分の中を支配するそれに、白毛はもはや自我を保つことが困難になっていた。


「俺は何を迷っていたんだろう?

 群れと母さんのどちらを取るか? そんなもの考えるまでもなかったじゃないか。

 俺は馬鹿で愚かな、痴れ者だ」


「ごめん、母さん。

 俺は自分の望みや在り方を理解できていなかった。

 ごめん………ごめんなさい」


『何を謝る必要がある、純白のオークくん。

 君はオークとして立派な選択をしたのだよ?』


「!?」


 ひたすら謝罪を続ける白毛の心の中で、不意に異物の声がする。

 その声は白毛を煽るかのように、心の中で勝手に声を上げ続けた。


『君は群れと母親を天秤にかけ、群れの方を取ったのだ。

 おめでとう、これで君も一人前のオークとなった。

 君はこれからも群れの力となり、更に勢力を広げていくだろう』


「ち、違う! 俺は―――」


『違わないよ、オークさん。

 君が母親を選んでいたなら、逃げることなどいつでも出来た筈だ。

 それこそ、あの菖蒲色のエルフが言っていたようにね。

 君は聡明なオークだ、いつかこんな日が来ることだって予想できただろう?

 しかし、君は最後の最後まで逃げ出すことをしなかった………それどころか、母親をないがしろにして、騎士団との戦争を優先していたではないか。

 君は母親の生よりも、仲間たちからの信頼を選んだのだよ』

 

「黙れ………黙れ! 何だ、何なんだお前は!?」


 白毛の心の中で嘲笑するかのように『声』が響き渡る。

 それは、唯の幻聴であったのかもしれない。

 壊れかけの白毛が生んだ、妄想でしかなかったのかもしれない。

 しかし、その声はどこか真実味を帯び、幻想では無いと感じれられるものだった。


『私は君、君の心が呼んだ運命を代弁する者」


「運命を………代弁する者?」


 『声』は、調子を落とし憐れむような声音で語り続ける。


『オークくん、君は哀れなオークだ。

 君の母親の死は君が選んだ必然だが、オークに生まれた時点で君の絶望もまた必然だったのかもしれない。

 君はオークとして生きるには、やや博愛に過ぎた」


 最初は『声』が心に響くだけだった。

 しかし、次第にその声は心を超えて、白毛の鼓膜を揺らすようになり、またそれと同期するように視覚や嗅覚などにも影響を及ぼし始めていた。

 

 白毛の眼前、ちょうど白い花が置かれていた位置に、黒い影が陽炎のようにゆらゆらと揺れている。

 それは少しずつ人型を模りはじめ、その頭と思われる場所に、夕陽のように赤く、剣のように鋭い目が二つ浮かび、その下に口のような穴が開いている。

 そして、その穴が歪むと、地底から響くようなくぐもった声が直接白毛の耳に直接語りかけるようになった。


『そして、私と君の出会いもまた、運命が選んだ必然だったのだろう。

 初めまして、純白のオークくん。

 私の名は『フェイト』という。

 私は君を救済するために、意識の海を越え、君の下へやってきたのだ』


 フェイトと名乗る黒い影は、仰々しい所作で礼をしてみせる。

 そして、その紅い瞳で白毛を見つめると、棒のように細く長い腕を伸ばし、白毛の頬へ触れた。


「救済………だと?」


 白毛は自らの頬へ当てられた黒い手へ目をやりながら、問いかける。

 その手は冷たく、鋼のように無機質だった。

 

 白毛の問いかけに対し、フェイトは剣のような鋭い目を更に細め、口に剣のような歯を浮かべて答える。


『私なら君の悲痛を救済出来る。君は救われることが出来るんだ。

 さあ、純白のオークくん、君の望み―――願いを言ってみたまえ。

 どんな願いでも、叶えてあげよう。

 もっとも―――』


『そうすることで、君はもう『君』ではなくなってしまうがね』


「願い?」


『そのとおり。私は運命の代弁者。君の運命に変革を与えよう。

 過去、私によって願いを叶え、その運命を大きく変えた者たちが多数いる。

 ある者は世界の幸福を願い、またある者は世界の破滅を願った。

 オークくん、君は何を願うのかな?」


 フェイトの瞳が爛々とした光を放つ。

 それはプリムラや白毛と同じ紅色であったが、もっと禍々しい何かを感じさせるものだった。

 フェイトは棒のように長く、冷たい手を白毛に差し伸べて、口を開く。


『さあ、白毛。

 お前の願いは何だ?

 願いを叶えたいと望むなら、私の手を取るがいい。

 それで、お前は救われる』


「俺の―――」


 白毛の口から、意図しないままに言葉が漏れる。

 それは、白毛が思っていた以上に彼が求めていたことだったのかもしれない。


「俺の………望み

 俺の望みは奴らの―――オーク共の破滅だ!

 奴らを一匹残らず、この世界から消し去ってやる!!」


 白毛の言葉に、フェイトは可笑しそうに震えながら、自らの頭に手を触れる。


『おやおや………おかしな事を言うものだ。

 彼らは君にとってかけがいのない者たちでは無かったのか?

 母を殺してさえ、手に入れたかった仲間たちの破滅を、君は望むと言うのかい?』


「違う………」


「違う、とは?」


「俺はオーク共などの仲間では無い。

 奴らの思想、哲学は冒涜に満ちている。その存在さえも許すことの出来ない邪悪な種族だ。俺の母さんを傷つけ、怪我した必罰すべき悪鬼たちだ!

 そうだ………そうだよ。

 母さんを殺したのは奴らだ。奴らのせいで、母さんは死んだんだ………」


『ほほう、なるほど』


 白毛の言葉は次第に理屈を失い、支離滅裂なモノへと変わっていくが、当の白毛はその事実に気付いていない。

 フェイトはそんな白毛の様子に対し、愉快そうな笑い声を上げる。


「それが、君の願いかな?

 ならば、言葉にしてはっきりと願うがいい。

 白毛、お前の願いは何だ?」


「俺は願う………オークたちの破滅を、その死を、その崩壊を。

 フェイト! 俺の願いは、オーク共の鏖殺おうさつだ!」


 白毛は瞳に燃えるような赤を映しながらそう叫ぶと、目の前の黒い手を掴む。

 その瞬間、部屋の中を轟々と風が流れ始める。

 白毛がフェイトへ目をむけると『ソレ』は最早人型の体を成してはいなかった。

 漆黒の巨躯に禍々しい羽を生やし、眩しいほどに紅い光を明滅させている。


 それは『悪魔』と呼んで相違ない、圧倒的な異物であった。


『願ったな? 願ったね?

 いいだろう、たったいまこの瞬間を持って、君は君ではなくなった』


 轟々と騒ぎ立てる風の合間を縫うように、フェイトの歓喜の声が白毛の周りで木霊する。

 それと同時に、白毛の体を耐え難い激痛が襲う。


「がっ………」


 想像を絶する激痛に、白毛が声すら発せられないまま、その場に倒れ付す。


 白毛の紅い瞳がその色を変えていく。

 それは元の紅よりも、更に深く、濃い、赤。

 白毛の体毛が、これまでの色素が抜けた結果による白から、純白に染め上げたような銀白色へと変貌をとげていく。


 絶え間なく続く激痛の中、朦朧とした白毛の意識の中に、フェイトが言葉を刻んでいく。


『これで君は魔人………いや、獣に過ぎない君は魔獣と呼ぶべきかな?

 とにかく、君は摂理を超えたモノへと変幻した。

 喜びたまえ、胸を張りたまえ。

 君の運命は、いま、まさに、始まりを迎えたのだ。

 君という生き物の結末に、私は期待しているよ』





 街道に居を構える「比類なき勇気の騎士団」拠点。

 その作戦本部に、ブラウン、ブルー、ヴァイスそしてロッセの4人が集っていた。


 ロッセからの報告はこうだ。

 オークの規模は200名程度、その200匹は高い統率のもとに動いており、彼らは獣の集まりではなく、1個の組織として捉えるべきだということ。

 一匹、一匹の知能は高く、通常のオークのような愚昧な行動は取らない。1人の屈強な戦士として見るべきであるということ。

 特にギザギザに耳が裂けたオークは戦闘力という面で抜きん出ており、その力は一流の剣士すら凌ぐレベルに達しているということ。

 そしてなによりも警戒するべきは、彼らを指揮している白色のオーク。

 白色の体毛に赤い瞳を持ったこのオークは、高い知能と確かな戦術知識を持ち、あの誘引作戦についてもこのオークが計画したことではないかとのことであった。


 ロッセの報告を聞いた3名は三者三様の表情を浮かべる。


「ギザ耳オークの他に、白色オークか………。

 また、妙なのが出てきたな」


「自分は、白色のオークを最も警戒するべきだと考える。

 あれからは他のオークと比べて異質なものを感じた」


 ブルーのぼやくような声に対し、ロッセが頷く。


「純白のオーク、か」


 騎士たちは一様に真剣な表情を浮かべ、まだ見ぬ白いオークに思いを馳せる。 


 そんな中、ヴァイスは天幕の外がぼんやりと光っていることに気付く。

 おかしい、今日は空を雲が覆っており星など出ていなかった筈だ。

 不思議に思ったヴァイスは、そっと天幕を上げ外に目をやると同時に「うわぁ」という声を上げた。


「どうした、ヴァイス?」


 ヴァイスが、彼女としては珍しく少女のようなあどけない声を上げたことから、ブラウンが目をやると、ヴァイスはやや興奮した様子で


「団長、雪です、雪が積もっています!」


と仲間たちに呼びかける。


 ヴァイスの言葉に、3人が天幕から外へ出、冬の夜空を見上げる。

 暗澹とした雲が覆っていた筈の空は晴れ渡り、空には大きな白い月が浮いている。そしていつの間に降ったのか、雪が騎士団拠点を真っ白に染めていた。

 月から放たれる蒼白色の光を、積もった雪がやんわりと照らし返し、寒風吹きすさぶ冬の夜でありながら、暖かな光が騎士団拠点を覆っている。

 それは幻想的な光景で、騎士団の面々は暫し呆けたようにその白色を見つめ続けた。


「綺麗だな………」


 ブルーが何気なくそう呟く―――そう、呟いた途端、恥ずかしそうに顔を紅潮させた。


「って、らしくねぇな。なに言ってんだ、俺は」


「ほほう、今日の特攻隊長殿はいささか感傷的なようだ」


「からかうな! 殺すぞ!?」


 すぐにぎゃーぎゃーと騒ぎ始めたブラウンとブルーを尻目に、ヴァイスが冬の夜空を見つめ続けていると、ロッセが近づき、いつものぼそりとした口調で口を開く。


「ヴァイス隊長、少し話がある」

「私ですか?」


 ヴァイスは不思議そうな表情で、外から目線を外し、ロッセへ目を向ける。


「先も話したことだが、ギザ耳のオーク。奴は途方もない戦闘力を持っている。

 自分とチェスナット隊長、2人掛かりであっても奴を仕留めるには至らなかった」


「貴方とチェスナットでも………」


 ヴァイスの知るチェスナットという騎士は、剣術には秀でていないものの、仲間を援護する能力に長けた強力な騎士であり、またロッセは自分の知らない流麗な2刀の剣を操る、変幻自在の騎士である。

 その2人が挑み、敗れ去ったというギザ耳のオークとは一体何者なのだろうか。


「卓越した剣術、人間を遥かに超える屈強な肉体。これだけでも十分に驚異的だが、何よりも奴を強者たらしめいているのはその不屈の闘志だ。

 どんな逆境に陥っても、奴は決して勝負をあきらめない」


 ロッセはいつもの無表情で言葉を続けるが、その言葉の端々から無念の意が伝わってくる。思えば彼は常に隊長であるチェスナットに尽くす、忠義者であった。


「奴を打ち倒すことが出来る者―――それはヴァイス隊長。貴方しかいないと、自分は考える」


「私、ですか?」


 ロッセの言葉に、ヴァイスは少しだけ驚きの表情を浮かべた。


「ああ、奴の不屈。それに対抗できるのは、同じく不屈の精神を持った貴方だけだ。

 それに貴方の剣術は、やや力任せな所がある奴の剣術に対して非常に相性がいい」


 ロッセは真っ直ぐにヴァイスへ視線を向ける。


「チェスナット隊長や仲間たちの無念、どうか晴らしてくれないだろうか。

 貴方に託すの筋違いであるとわかってはいるが、自分には奴を打ち倒す力がない………この通りだ」


 ロッセはヴァイスに対して深々と頭を下げる。その瞳には懇願するような光を纏わせていた。


「………頭を上げて下さい。ロッセ」


 ヴァイスはそんなロッセの肩に手を当てると、彼を見上げ凛とした瞳で持って答える。


「貴方の願い、貴方の思い。確かにこのヴァイス・ゴルトーが承りました。

 約束します。私はきっと、オークたちを打ち倒してみせましょう」


「………すまない」


 力強く答えるヴァイスを見つめながら、ロッセが無表情なまま一筋の涙を流す。

 壊滅した『比類なき勇気の騎士団』工兵部隊。

 ロッセはその、たった一人の生き残りであったのだ。


  


 ―――月が出ている。


 白毛は夜空を見上げ、そんな感想を抱く。

 先程まで暗澹とした雲が覆っていた空は晴れ渡り、大きな月が禍々しい光を放っていた。


 月とはあんな風に紅いモノであっただろうか?


 白毛はそんな疑問を抱くが、そんなことはもうどうでもいいことだ。

 ずさり、ずさりと、白毛は無機質に輝く新雪を踏みつけ、群れの集落を目指す。

 先程まで、狂いそうなほど自らを襲っていた悲痛は、もう無い。

 ただ、胸の奥から湧き上がる衝動に突き動かされるようにして、白毛は歩みを進めていた。


 急がなければ。


 夜も未明を過ぎ、もうすぐ陽が昇ってしまいそうだ。

 急がなければいけない、一刻も早くこの衝動を、願いを果たさなければ―――


 そうすれば、自分はきっと救われる。


 吹きすさぶ寒風も、踏みしめる雪の冷たさも、白毛には感じられなかった。

 心は平穏、実に満ち足りている。

 体調も良好、さきほど自傷は消え、痛みも無い。

 

 白毛が早足で進んでいると、オークたちの集落が視界に入ってきた。それと同時に彼を呼ぶ声がする。


「おい白毛、大丈夫か?」


 集落の側には、ギザ耳が心配そうな面持ちで、佇んでいた。


 夜明けも近いというのに、ずっと自分を待っていたのだろうか?

 愚かな奴だ、と白毛は思う。


「ああ、心配をかけてすまなかったな。ギザ耳。

 もう大丈夫だ」


「それならいいんだけどよ………」


 ギザ耳は白毛に対して多くを聞かなかった。

 ギザ耳はオークであるが、それでも白毛の親友なのだ。何が彼に変化をもたらしたのかはわからないが、それでも白毛が深く傷ついていたことは察していた。

 白毛はそんなギザ耳にいつもの笑顔を浮かべて答える。


「そんなことより、ギザ耳。もう休んでくれ。

 大詰めとはいえ、騎士団との戦争はまだまだ続いている。ギザ耳には万全の調子を保ってもらいたいんだ」


「あ、ああ………」


 白毛は一見するといつもと変わらないように見える。

 いつもの、人の良さそうな笑顔も、少し口うるさいところも、いつもの白毛そのものだ。

 しかし、ギザ耳はどうしても、白毛から何か違和感を感じてしまうのだ。

 ここにいる白毛は、自分の知っている『オーク』の白毛なのだろうか、と。



 この世界には、一つの伝説がある。

 いや、それは伝説と呼ぶにはあまりにも新しく、歴史にも刻まれた事実の物語であった。



 世界の破滅を願った、一人の男の物語。

 後世の人々は、その男を『魔王』と呼ぶ。


 その男は、白い髪に紅い瞳を持った異形の姿で、

 超常的な力を有していた。



 その白髪に触れたものは、心が狂い、怪物となる。

 その紅眼に映ったものは、運命が狂い、破滅を招く。


 その男は、2人の英雄に滅ぼされるまで、

 願うがまま、望むがままに世界を絶望に導いたと言われている。


 ガリッと白毛は奥歯を噛み締める。

 彼は自分の中から沸き起こる衝動を懸命に堪えていた。


(薄汚いオーク共、貴様らを一匹残らず破滅させてやる) 


 彼の真紅の瞳は光を映さず、ただ虚無のみをその瞳孔に宿している。

 もし、当時を知る者が白毛を見たら、驚愕と恐怖に打ち震えたことだろう。

 それは、今から約200年前『魔王』と呼ばれた男と、全く同じ瞳であったのだ。

 長らく休止しておりましたが、ようやく再開の目処がつきました。

 第31話については10月3日の午後7時ころ、投稿予定です。

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