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プロローグ2 それは『オーク』という名の悪鬼

「ヘクセンナハト大陸における知的種族の分類について」

 

 25頁。

 

 オーク/オーク族

 名称   オーク

 分布   ヘクセンナハト大陸全域

 生息地  山岳地帯、森林地帯など

 体長   200~250cm程度

 体重   100~200kg程度

 知的水準 低い

 交流能力 皆無

 種族性質 獰猛、残忍、冷酷

 平均寿命 30年程度



 概要   

 大陸全域に生息する知的種族である。

 広義には知的種族に分類されているが、一般的にオークを知的種族と捉えている者は少ないだろう。

 エルフ、人間等の他知的種族に対してオークは知能が低く、文化や思想、道徳といったものが存在しない。

 オーク族は基本的に山岳地帯や森林地帯に30~50程度の群れで、木の小屋などを作って小規模の集団生活を送っているが、オークには仲間意識という物が無く、社会性も無い。

 学会では、オークを知的種族から除外し、動物として扱うべきであるという考えが主流となっている。


 形態特徴 

 一般的にオークは醜悪な外見をしていると言われる。

 これは人間に限らず、大陸に生息する知的種族共通の見解である。

 黒鉄色の針金のような体毛を全身に纏い、潰れた豚のような顔を持つ彼らは「神の失敗作」「歪な泥人形」などと形容され、基本的にどの種族からも好意を持たれるような外見ではない。 

 人間に比べ巨漢であり、その生命力、筋力には目を見張るものがあるが、逆に繊細な行動や複雑な運動は不得手であり、知能の低さから行動全体が愚鈍な傾向にある。


 特筆事項 

 オーク族を語る上で特筆するべきは、その繁殖方法だろう。

 オーク族は他の知的種族はもとより、動物を含めても例の無い「雄しか生まれない」種族である。

 それでは、どうやって繁殖するのかと言うと他種族の雌を相手として交尾行動を行うのだ。

 オーク族は哺乳類であれば、どんな種族であっても交配が可能であり、オークの精子を体内に送り込まれた雌は例外なくオークの胎児を妊娠する。

 このような生殖行動を取る種族はオーク族以外存在しない。

 もっとも、上記のとおりオークは一般的に醜悪な外見をしており、また知性も粗暴なものである。

 知的種族であれば、彼らとの交配を望む者など存在しない。よってオークが知的種族と交尾をするときは例外なく強制的な姦淫であるとされている。


 その他  

 上記の繁殖方法からも思慮されるとおり、オークは大陸中の全知的種族から忌み嫌われる種族である。

 基本的にオークは野生動物と交配することが多いため、知的種族に被害が出ることは少ないが、それでも年に数回程度、知的種族の女性がオークによって攫われ強制的姦淫―――強姦被害に合う事件が発生している。

 オークに攫われた女性を待ち受ける運命は悲惨そのものであり、オークたちは女性を「家畜」と呼称して自分たちの集落へ監禁。絶え間ない陵辱により妊娠、出産を繰り返させ、群れの個数を増やしていくのである。

 そして、女性が出産の出来ない体になると殺し、食料にしてしまう。

 それはまさに悪鬼の所業と言えるもので、オークが大陸中の知的種族から忌み嫌われ、見つけ次第殺害されるのも無理からぬ話であろう。

 特に生息地が同じ山岳地帯や森林地帯であるエルフ族は被害に合う回数が多く、大陸全土における問題となっている。

 王都騎士団連合はこれらの事態を受け、オークを「A級害獣」に指定。発見次第、駆除するべきであるとする「オーク撲滅運動」を推進している。

 これにより、オークを駆除するごとに報奨金を得ることが出来るようになり、冒険者や傭兵にとってこれは貴重な収入源となっている。




「……………はあっ」


 文献を食い入るように読んでいた彼が、うんざりしたようにため息を漏らす。

 だからさっき「そんな本を読んでも落ち込むだけだよ」と私は言ったのだ。


 彼が読んでいるのは、人間たちが編纂した「ヘクセンナハト大陸における知的種族の分類について」という本だ。

 あの様子だと、おおかたオークの項目でも読んだのだろう。

 彼はもともと繊細な性質たちであるが、今回はいつにも増して落ち込んでしまったようだ。

 

 ………まあ、無理もないけれど。


 あの本は私も読んだ。


 人間たちが書いたオークについての記述………これは兼ね現実の通りだ。

 私が納得いかないのは「その他」の項に記載されていた「基本的にオークは野生動物と交配することが多いため、知的種族に被害が出ることは少ない」という記述。

 

 これには納得がいかない!


 私の有様を見て欲しい、この小屋の中を見て欲しい!

 おそらく、あの本を編纂した人間は、参考資料を片手に記事を書いたに違いない。

 もっと現場へ足を運ぶべきである。


 ………まあ、仕方ないか。

 ここは、人間たちの街から遠く離れているし、森の奥深くだから人間が入るのは難しいだろう。


 それに、あの本にはいいことも書いてあった。

 なんでも王都騎士団連合?という人間の団体が「オーク撲滅運動」となるものを推進しているとのことだ。

 これは素晴らしい、どんどんやってもらいたい。


 オークは悪鬼なんてものじゃない、まさに鬼畜外道。


 彼らから受けた仕打ちを思い返しただけで、私は体が震えてしまう。

 心が張り裂けそうになってしまう。


 そこまで考えて、私は自分の動悸が激しくなり、呼吸がはぁはぁと乱れ始めていることに気付く。


 あ………駄目だ。

 思い出しちゃ駄目、思い出しちゃ駄目。


 いつの間にか、昔のことを思い出してしまっていた私は、心が激しく動揺してしまったらしい。

 呼吸を落ち着かせようと、深呼吸をする。

 ふぅふぅとゆっくり息を吸ったり吐いたりしたところ、何とか私は心の平静を取り戻すことが出来た。

 無駄に嫌なことを思い出しても、いいことなんてない。


 少しナーバスになってしまったようだ、こんな時は彼に優しくしてもらいたい。

 

 そう思って彼に目を向けたが、彼は私に目もくれず、再びあの本を読み返しているようだ。

 何度読み直したって、書いてある内容は変わらないのに………そんな本より私のことを見て欲しい。

 いつまでたっても目を向けない彼に業を煮やした私は、そっと彼の背後に回ると、ばっと後ろからその頭に抱きついた。


「えい!」


「うわっ」


 私に抱きつかれた彼は驚いた様子で何やら慌てていたが、抱きついたのが私だというのは見当がついているらしい。

 困ったような声音で口を尖らせる。


「母さん、急に驚かさないでよ」


「あなたがお母さんに構ってくれないからだよ!」


 私がぐいぐいと抱きしめた腕に力を込めると、彼は諦めたような様子で


「まったく………どっちが子供なんだか」


などとため息をついて見せる。

 彼のそんな冷めた態度に、今度は私が口を尖らせる。


「あなたが7歳の癖に大人び過ぎているんだよぅ!

 もっとお母さんに甘えなさい!」


「無茶言わないでよ………俺と母さんじゃ、年齢の重ね方が違うんだからさ」


 やれやれ、といった様子で彼が呆れたように口を開く。その言葉どおり、彼はあっという間に大人になった。

 私はいま56歳だけれど、精神年齢という面で、何だか追い抜かれてしまっているような気がする。


「じゃあ、お母さんが甘える!」


「はいはい………どうぞお好きに」


 諦めたようにそう話す彼を抱きしめたまま、私はその頭に頬ずりをする。

 彼の体毛は確かに針金のようで、ちょっとチクチクするけれど………彼の体は温かいし、何だか安心してしまうのだ。

 それにしても「潰れた豚のような顔」とは酷いじゃないか。

 他の「彼ら」はともかくとして、私の彼はなかなかの男前だと思う―――唯の親馬鹿かもしれないけれど。


 そうやって、私はしばらくの間、彼の頭に頬ずりをしていたが、突然胸の奥に違和感を感じ咳き込んでしまった。

 

「うっ………けほっ」


 どうやらはしゃぎすぎてしまったようだ。

 咳は治まらず、むしろ激しさを増してげほげほと私は咳き込んでしまう。


「母さん!?」

 

 彼は先程とは違う、真剣に慌てた様子で私を抱きかかえると、そっと私を寝床へ横たわらせ、背中を優しく摩ってくれた。

 

「母さん………大丈夫?」


「大丈夫だよ、そんな顔しないで………」


 心配そうな表情で私の顔を覗きこむ彼に、私は笑顔を浮かべて答える。

 本当に大丈夫なのだ………ただ、この小屋は寒いし、死んだ仲間が腐ったままになっていたりするから、体が弱い私は時折体調を崩してしまう。


 私は大丈夫だと言ったのに、彼はますます心配そうな顔で私の手を握る。

 私は咳もだいぶ落ち着いてきたので、重ねて心配しないように伝えるが、心配性の彼は相変わらず不安そうな面持ちだ。

 

 私はそんな彼に少しだけ微笑むと、気分を変えようと窓の外へ目を向けた。

 この部屋には私の掌ほどの小さな窓しかないけれど、それが私の把握できる外の世界の全てだった。


 窓の外では草木が枯れ始め、寂しい風が吹いているようだ。

 そんな景色を目に映し、私はぽつりと口を開く。


「もうすぐ………雪、降るかもね」


「そうだね。秋ももうすぐ終わりだし、そしたら長い冬だ」


 彼もまた、私と同じように窓の外へ目を向ける。

 その目は遠く、窓の外よりももっと遠くを見つめているかのようだ。

 最近になって彼は、よくそんな目をするようになった。

 私だけを見つめていた瞳は、もっと遠くの、もっと大きなものを見つめているかのようで、何だか寂しくなってしまう。


「ねえ、冬が終わって春が来たら、また花を摘んできてくれる?」


 私は何だか彼が遠くへ行ってしまいそうな気がして、ついわがままを言ってしまう。

 彼が花なんてものに興味を示すはずがないのに。

 駄目だな………彼が側に居てくれても、体調を崩した途端、私は心細くなってしまうのだ。

 でも、そんな私のわがままに対して、彼は目を細め優しく微笑んだ。


「いいよ、春になったらと言わず、すぐに摘んでくるさ。

 冬でも咲いている花を本で見つけたんだ。

 ここらへんに生えているかはわからないけれど………きっと見つけてくるよ」


 彼はそう言って、悪戯っぽく微笑むと私の頭を撫でる。

 これでは本当にどちらが親かわからないな………。

 

―――でも、いいや。


 彼に頭を撫でられると、私は、

 

 何だか、幸せ、な―――


 そんなことを思いながら、私はまどろみ、そのまま眠りの世界へと落ちていった。 

プロローグはこの2編で終了です。

ここまでどこか曖昧な形で話が進んでいましたが、次からこのお話の第1話が始まります。



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