プロローグ1 とある女騎士の追憶
貴方は「オーク」という生き物を知っていますか?
オーク族―――種族的に雄しか生まれず、単種では生殖すら不可能な歪な種族。
その性質は凶暴で残忍。
その体質は屈強で強靭。
その欲求は殺戮と破壊、そして陵辱に向いている。
他種族の雌を攫い、家畜のように扱って仲間を増やす。
まさに、悪鬼のような獣。
………どうしたのです?
そんな、不思議そうな顔をして。
私がオークの話をするのは可笑しいですか?
―――女騎士はそう言って、ふわりとした微笑みを浮かべる。
その手には、白い小さな花が抱かれていた―――
この花ですか?
これはプリムラ・シネンシスといって、雪桜とも呼ばれる多年草。
小さな儚い花だけれども………とても素敵な花言葉を持っているのですよ。
私はここへ、この花を供えるために来たのです。
ここには昔、オークたちの集落がありました………今はもう何も残っていないけれど。
もしかしたら
私は貴方にここであったことを話したくて、こんな所まで連れ出したのかもしれない。
聞いてくれますか?
ここに生きていたオークたちの話を。
それは私にとって、苦しい思い出です。
悲しい………思い出でもあります。
それでも―――
私は貴方に話したい。
オークの―――あの悲しい性を持つ生き物たちの話を………
純白の………まるで雪のようだった、若いオークのお話を。