表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

向上心

作者: 神宮司亮介

 向上心がないので、僕は大学を卒業してもバイト先で働いていた。お昼になれば、厨房でひたすらハンバーガーを作るだけの仕事だ。

 友達は向上心があるので、最近流行りのIT企業へ就職した。そして同期の中では優秀な方らしい。

 でも、世の中には仕事のないやつがいる。そいつらよりは給料を貰っているし、そいつらよりは向上心があるのかもしれない。


 それからしばらくして、僕はバイトながらマネージャーという職位へ昇格した。ここまで来ると向上心があるように見えるが、別に何の目標もない。ただそつなくこなしているうちに、そこまで上り詰めていただけだ。

 そしてこのことを友達に話すと、彼は酷く羨ましがった。というのも、友達は最近仕事で大きなミスをしてしまったらしく、同期にも追い抜かされている状況らしい。向上心があればそれくらい逆転できそうなものだが。


 それからまたしばらくして、僕は正社員登用の話を頂いた。普段の接客態度や調理スキルが評価されたらしい。必死にやっていたつもりではなくて、怒られたくないからそつなくこなせるように心がけていただけなのだが。評価してもらえることは、嬉しいけれども。そのことを電話で友達に話すと、彼は以前の失敗が尾を引いてか、職場でかなり邪険に扱われてしまっているらしいことを聞いた。そういえば、彼は調子が良いときは仲間もついて来ていたが、その分悪く言われることも多かった。頑固になりすぎるところがあったので、そのせいかもしれない。かといって、彼くらい向上心のある人だったら、失敗位巻き返せるはずだ。


 それから。僕は正社員になった。これからは現場の経験を活かして、店舗の運営や商品の企画にも携わることが出来るらしい。ダラダラと人生が続くと思っていたのに、何となく仕事をしているだけでもかなり良い縁に出会うことがあるんだなあと感心したものである。そのことをメールで友達に送ると、会ってくれないかと言われた。

 ついに、彼は職場を首になったらしい。どうやら彼は自尊心を傷付けられるのが嫌で、小さな失敗を隠していたらしい。それが明るみに出て、ついに仕事を辞めさせられることになってしまったそうだ。向上心があるのに勿体ない。

 そう思っていたところで、僕は思った。

 僕が居なければ、厨房に欠員が出る。誰かやる気のあるアルバイトを雇わなければいけない。

「ねえ、君は向上心があるんだよね」

 僕は訊ねた。彼はうんともすんとも答えない。

「じゃあさ」

 うちの店で、働かない? 向上心があるなら、きっと大丈夫だよ。そうつけ加えて、僕は言った。


 彼はそれから、連絡を寄越さなかった。あの一件で、プライドを傷付けられてしまったらしい。

 かくいう僕は、新商品の開発が上手く行き、評価されることとなった。向上心はないけど、自分のことを満足させるためにどうすればいいかは常に考えていた。

 そんな自己中心的な僕に対して、周りはこう評価してくれる。

「君って、向上心があるよね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ