03『デート』
それから二時間後。
俺は鶴ヶ谷に連れられて、学校の近くにある喫茶店に来ていた。二人、向かい合うように窓際の席に座り、俺の前にはチーズケーキ、鶴ヶ谷の前にはパフェが置かれている。
鶴ヶ谷の前に置かれたパフェはそれなりに大きく、俺のなかでそれは二人以上で食べるものなのではないだろうかと言う疑問がさっきから渦巻いている。鶴ヶ谷が余りにも幸せそうな顔でパフェを頬張っているから口に出せないのだが。
「ごめんね、どうしてもここのカップル限定パフェが食べてみたかったんだ」
パフェを順調に食べ進めつつ鶴ヶ谷は言う。パフェは既に残り三分の二程までに来ていた。中々食べるペースが早い。やはり女子は甘いものに目がないのか。かくいう俺も、順調にチーズケーキを食べ進めているわけなのだが。
「ん? どうしたのかな? パフェを見つめちゃったりしちゃってさ。あ、もしかして食べたいとか?」
別にパフェを食べたいわけではない。そんな物欲しそうな目で見つめてなんていないはずだ。
しかし、鶴ヶ谷は「はい、あーん?」なんて言ってパフェを掬ったスプーンをこちらに向けてくる。きっと鶴ヶ谷は本気でそんな行動に出ているわけではないだろう。そんなことは分かってる。だから、ここで乗っかってパフェを食べようと身を乗り出したってただの恥ずかしいやつになるだけだ。しかし、カップルとしてこのパフェを注文したのだ。それがなんの理由になるのかは分からないが、でも、少しぐらいそんな恥ずかしい奴になったっていいだろう。
つまり。
つまり、ここまでズラズラと言い訳を並べた俺は、鶴ヶ谷の夢の『あーん』を実現したいという下心の化身なのだった。
「あーん……なんちゃ――」
「……御馳走様」
『なんちゃって』と言われる前に身を乗りだし差し出されたスプーンを口に入れる俺。あっさりと夢の『あーん』は成功したのだった。
「…………」
「…………」
軽く目を見開いて、信じられないものを見るような目で俺を見る鶴ヶ谷。スプーンを差し出した手が微動だにしない。どうしたのだろうか。もしかして怒っているのだろうか。または、俺のことを気持ち悪いと思っているのだろうか。
俺は俺で、恥ずかしさと後悔で押し潰されそうになっている。どうしてあんなことしてしまったんたろう。いや、念願だったからやったのだが。一応平然を装っているつもりではあるが、もし顔が赤くなっていたらどうしようか。恥ずかしいことこの上ない。しかし、既に顔が熱いような気がする。いや、顔だけではない、身体全体が熱い。なんて分かりやすい男なんだ、俺は。
「君って、たまに本当に行動が読めないよね」
「……ごめん」
呆れたように言う鶴ヶ谷に思わず俺は謝罪の言葉を口にする。なんなんだ、このいたたまれない空気は。くそ、本能のままに行動するんじゃあなかった。
「……まあ、その、なんだ」俺はなんとかこの空気を変えようと話題を探す。しかし頭のなかはパフェていっぱいだった。「そのパフェ、結構美味いな」
「そうだね。……ふふ、美味しい」
鶴ヶ谷は気を取り直すようにパフェを口に運んで、幸せそうに笑った。そのとびきりの笑顔に思わず俺の顔が綻んだ。