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霊媒師と決断

妻から真菜の通っている諏訪先生から話があると聞いたあの日。

多分、私は信じたかったのだと思います。

家に帰る毎に衰弱している真菜、そしてそれ以上にやつれていく愛理の姿を見てどんな方法でもいいから助かる方法があればいいと。

その代償がたとえ、どれほど重かろうと。


「率直に申し上げます。真菜さんの病気の原因はあるものが欠けていることが原因です。」

『どういうことです?真菜は生まれてから倒れるまでずっと健康だったんですよ。いきなりそんなこといわれても正直信じられないのですが…』

「そうでしょうね。一般の方は普通信じられないでしょう。それでも、まずは話を聞いて頂けないでしょうか。」

『……わかりました』

「真菜さんに欠けているもの、それは霊力といわれるものを周りから取り込む力です。一般的に霊力とは目に見えず、科学的な根拠がないため一般的にはないものとされています。実際、詐欺の手段としてよく使われるため、ほとんどの方は霊力という言葉を詐欺と同じ意味として考えている方もいらっしゃいます。ですが、その霊力は実際に存在し、生きていく中で無意識の内に日々使われているのです。そして周りから日々取り込まれているのです。ですが、真奈さんは使うだけで取り込めないため、現在体に霊力がほとんど残っておらず、体を維持できなくなっています。残念ですが、早晩真菜さんは亡くなるでしょう。」


また、この話か。いい加減私はうんざりしていました。他にも何人もの霊媒師といわれる人たちにあってきましたが、みんな金目当ての詐欺師ばかりだったのです。


『そうですか。それでいくら必要なんです?いくら払えば真菜は助かるのですか?』

「そうですね。必要な金額は諸経費として10万程頂ければ問題ありません。但し、他に必要なものがあります。」

『随分と安いんですね。以前霊媒師と名乗った人は1000万以上のお金を要求したというのに。それで必要なものとは?』

「その方法は……その前に話をしなければなりません。三上さん、あなたは以前大きな事故に会いましたね。そしてあなたはだけ奇跡的に助かった。」

「ええ、そうですがそれが何か」


まだ、私が中学二年の時、旅行に行く途中で私達家族は交通事故に巻き込まれました。

きっかけは対向車線のトラックの運転手の居眠り運転だったと事故の後に警察官に言われました。

高速道路を走行中のトラックは対向車線に突っ込み、走行中の乗用車に激突、その後ろを走行中だった車が次々にぶつかり、大惨事となったと。

その事故で私だけが助かり、私は家族を失いました。妹はまだ小学生でした。

既に祖父祖母はなくなっており、唯一の肉親である叔父が引き取ってくれました。両親が保険をかけていてくれたらしく、お金に不自由することはありませんでしたが、それが不幸中の幸いだったのかどうかは別の話です。


「……それがなんだというのですか?」

『辛い事を思い出させてしまい、申し訳ありません。その時にあなたが助かったのはあなたが普通の人よりも霊力が高かったためだったと考えられます。そのため、本来であれば死ぬはずだったあなたの体は一命をとりとめた。そして、それが真菜さんを救う方法になるのです』

「……わかりました。正直半分も理解できませんが、真菜を救えるのであれば何でもします。私は何をすればいいのかですか?」


私はいつの間にかこの女性を信じるようになっていました。理由は分かりません。ただ、女性の目がすごく真剣だったからかもしれません。


『……三上さん、あなたは真菜さんのためであれば死ねますか?』

「ええ、もちろんです」

『わかりました。方法を教えます。その方法とは三上さん、あなたの霊力を取り込む力を真菜さんに移譲させるのです。移譲させる方法は私が知っています。ですが、三上さん、あなたは……あなたは必ず死にます。また、この方法をとれるのは一親等内で適合したものだけ、検査の結果駄目であれば今話した内容は忘れてもらいます』


半信半疑のままでしたが、真菜が助かればと考え、検査を受けました。

結果は、…移譲は可能とでました。

そこで一度家に帰り、妻と相談することにしました。

まだ、私の頭の中は混乱の最中で一度誰かと相談したかったのです。


◆◆◆◆◆◆


「愛理、ただいま」

『あなた、お帰りなさい。遅かったのね。どうだったの?』

「ああ、長くなる。お茶を入れてくれないか?」

『わかったわ。ちょっと待ってて』

妻がお茶を入れてくれている間に私は先ほどあった事を整理していました。

そして、妻になるべく冷静に分かりやすく伝えました。


『そう…。そうだったの。ねぇ、あなた大丈夫よ。きっともっといい方法が見つかるわ。今までもなんとかやってこれたじゃない。大丈夫よ』

「そ、そうだな。一緒に探そう。家族みんなが幸せになれる方法があるはずだ」

私はまだ混乱したのでしょう。いや、愛理の言葉を信じたかったのかもしれません。叶うはずもない願いを。


◆◆◆数日後◆◆◆


その日家に帰ると真っ暗なままでした。

買い物にいっているのかなと思い、鍵を開けると鍵はあいたまま。

不思議に思い、玄関を開け、リビングに行くと妻が倒れてました。

急いで救急車を呼びます。真菜をそのままにしておくわけにもいかず、真菜も一緒に連れて車で着いて行きました。真菜が泣いています。私のせいだと泣く真菜を慰めることしかその時の私にはできませんでした。

診断の結果、妻が倒れたのは過労とストレスによるものと分かりました。


もう妻は限界でした。

そして、私はその日ある決断をし、手紙を書きました。

人生で最後となる手紙を。最後のラブレターを。

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