崩壊のはじまり
ダダダダダッ、バーン。
「はぁはぁはぁはぁはぁ、真菜、無事か、はぁはぁはぁ?」
『もう、お父さん焦りすぎ!先生がびっくりしちゃってるよ。』
保健室に着くと、20代くらいの白衣を着た女性が目をまん丸にして、固まっていた。
「いや、しかしだな…。おまえが倒れたって聞いて父さんどんなに心配したと。」
『言い訳しないの!ほら、先生にいうことあるでしょ!』
腰に手をつけて怒っている真菜は可愛い。頭を撫でてやりたい。
『お父さん!!』
「ああ、悪い。えーと…」
『瑞穂先生だよ。諏訪瑞穂先生。』
「すみません。諏訪先生。急に押しかけてしまって。娘がお世話になっております。」
【ふふっ、いいんですよ。こちらこそいつもお世話になっております。】
可愛い。笑顔になるとえくぼが可愛い。そんなことを考えていると、耳を引っ張られた。
「痛い痛い。真菜離しなさい。」
『嫌!』
「本当に痛いから離しなさい。」
『うー。お父さんの浮気者!お母さんにいいつけるからねっ!』
「うっ、それはまずい。真菜、帰りにアイス買ってやるから。お母さんには内緒にしてくれ。」
『うー。チョコとストロベリーのダブルね。』
「ふと(ぎろっ)…しょうがない。内緒だからな。」
『うん。わーい。アイス♪アイス♪』
【くすくすっ。仲がよろしいんですね。】
諏訪先生はにこやかに微笑んでいた。
「ごほん。すみません。ご迷惑をお掛けした上で、騒いでしまって。」
【いえいえ。大丈夫ですよ。】
「それで、倒れたって何があったんですか?」
話を聞いてみると、体育の時間中、いきなり真菜が倒れたらしい。すぐに保健室に運び、電話をくれたようだ。電話をしたらすぐに気がついたのでそれ程心配することはないかもしれないが、病院に連れていくように勧められた。諏訪先生に再度お礼を言い、その後授業を終えてやってきた担任の先生にお礼を言い、念のために近くの大学の付属病院に連れて行った。しかし、異常はみつからず、ただの過労でしょうと言われ、真菜を連れて家に帰った。
【ただいま。愛理大丈夫?お父さんからは話を聞いたけど本当になんともない?】
『うん。大丈夫だよ。ちょっと疲れちゃったみたい。』
【そう?ならいいけど。あんまり無理しちゃ駄目よ。】
『うん。わかった。ねぇ、それでね。お母さん。お父さんたらね…。』
「ま、真菜、お腹空かないか?今日は好きなもの食べに連れて行ってやるぞ。」
『えっ、いいの?わーい。何を食べようかな?』
危ない危ない。アイスだけじゃ足りなかったか。
【あ、あなた、後で話を聞かせてね】
そこには凄みのある笑顔を浮かべた妻の笑顔があった。
「は、はい。」
俺はただ頷くしかできなかった。
その日俺は洗いざらい妻にその日あったことを白状させられた。特に気にした風でもなかったが、若い子っていいわよね。私も若い子探そうかしらという妻の一人ごとが怖かった。
その後1ヶ月に1度、2度、3度と真菜は倒れるようになり、そしていつしか学校に通えなくなってしまった。




