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恋の文選と手書き派

 小さな頃から、綺麗な子だと言われていた。僕の顔を見に来る親戚達は、みんな僕を可愛がってくれた。

 小学生になると、女子からかっこいいと言われるようになった。私の物だという自分への確認行為や他の女子とのやり取りは、今思えば、可愛らしかった。

 中学生になると、付き合うだなんだと始まった。初めて彼女が出来た時、単純に嬉しくはあったが、それ以上の感情が芽生えることは、無かった。

 その子とは、告白してくれたから、付き合った。しかし、

「私のことが、見えてないんだね」

 と言われ、初めての恋愛ごっこは、三ヶ月程で終わってしまった。

 勝手に僕に憧れ、勝手に僕に見切りをつけた彼女を、僕は許せなかった。それは、単純な負けず嫌いなのかもしれないし、本当は、彼女を好きになっていたのかもしれない。今となっては分からないが、その時の僕は、徹底的に女子に優しくなろう、と思った。

 それからの僕は、輪をかけてモテた。僕を捨てた彼女への当てつけの優しさに騙される女子を、いつしか僕は、くだらない存在だと思いはじめていった。顔が良いから近付き、優しいから勘違いし、みんなに優しいと傷つく。自己完結の輪っかに、ちょっと良い物をぶら下げたい、そんな虚栄心で近付く奴らに、心底うんざりしていた。

 そして、くだらない輪っかに毒された僕は、いつしか恋という物を忘れた。そんな時、とある高校の噂を耳にした。

 その高校は、男子を巡って、女子が感情をぶつけ合うらしい。

 それを聞いた僕は、その学校への進学を決意した。かわいこぶって近付いてくる女子達の、醜い心根を暴いてやろうと思ったからだ。


「次の体育、バスケだってよ。一緒のチームになろうぜ」

 高校へ入学して、少し経った。仲の良い男子もそれなりに居る。正直、顔で見てこない男子と居る方が、気が楽だ。

「僕の足を引っ張らないでくれよな」

 僕の憎まれ口に、なんだとー、と冗談で小突いて返してくれる。友達とのやり取りは、ストレスフリーだ。どうして異性だと、愛だ恋だと綺麗ぶって、醜さを隠して近付いてくるのか。そんな奴らの鼻を明かしてやる。

 女子の方はというと、最初はやはり、女子同士敬遠し合っているようだった。しかし、優しく接していくだけで、段々と気持ちを強く出し始める子も出てきた。今日は噂を聞いた上級生も教室を覗いて、廊下で黄色い声をあげていた。そろそろ、嵐が来るだろう。


「私と、付き合ってくれませんか」

 その日、ついに僕は告白された。

「君みたいな可愛い子、僕で良かったら」

 彼女は、嬉しい、と、涙を拭って答えた。僕には、可愛さ演出にしか見えなかった。


 次の日、教室でその子と親し気にすると、女子がざわついた。

「え、何?お前ら付き合いだしたの?」

「そうだよ。昨日、彼女の方から告白してくれたんだ」

 モテて良いなー、という男友達の軽口を余所に、会話を聞いた女子に、彼女への敵意が生まれるのを感じた。それ見ろ、それがお前らの正体だ。

 その日の放課後から、堰を切ったように、決闘が始まった。


 次々と決闘が行なわれ、次々と学校での彼女が変わった。

 決闘場の内装や決闘の内容は、挑戦者によってまちまちであったが、内装に関しては、観客が居ることが多かった。見知らぬ大勢の観客の前で、勝利者は僕にキスをする。これはきっと、虚栄心の現れだろう。くだらない。

「あの、お弁当作ってきたの」

「待って。学校での彼女は私なんだから、そういうことしないでもらえる?」

 つまらない意地の張り合い。そしてそれを見た他の女子は焚き付けられる。そうして、連鎖的に決闘が続く。醜さが露呈されるたび、僕は疲れる反面、やっぱりな、とほくそ笑んでいた。

 ある日、僕に、気になる人が出来た。


「君、何を読んでいるの?」

 学校の図書室で本を読んでいた女子に話し掛けながら、その子の隣に腰掛けた。

「……?ポォですけど」

 その子は、僕の初めての彼女に似ていた。

「へぇ。僕もその作家、好きなんだ。どの作品が好きとか、あるかい?」

 僕は少しだけ、顔を近付ける。

「ちょっと……」

 彼女は困惑したように、体をちょっと遠ざけた。この子はもう少しゆっくり攻めた方が良いかな?

「あー、こんな所に居たー!」

 話の持って行き方を考えていると、学校での現彼女に見付かった。今日はここまでか。

「図書室ではお静かに」

 現彼女は怒られていた。


 それ以来、僕は足繁く図書室へと通った。しかし、今までのどんな方法を使っても、その子との距離が縮まったような感覚はなかった。

「やっぱりここに居た!」

 その時の学校での彼女の乱入とともに、僕らの時間は終わる。

 ある日、いつも会話にのって来ない彼女の方から、話し掛けてきた。

「いつも、違う女の子が迎えに来るんですね」

「あぁ、学校のルールがあるからね。本当の僕は、一途なんだけど」

 そういうと、彼女は僕の方を向いて言った。

「あんまり、女の子をわかった気にならない方が良いですよ」

 それは、僕の心に重くのしかかった。僕はすっかり、彼女を振り向かせるにはどうすればいいか、分からなくなってしまっていたからだ。


 僕は彼女に、この気持ちを打ち明けるべきか、打ち明けるにはどのような布石を打つべきか、悩んだ。

 気持ちを打ち明けると決めた日、僕は図書室で、意を決して彼女に言った。

「放課後、柳の木の下に来てください」

 僕の気持ちが明らかになったようで気恥ずかしくなり、学校での彼女が来る前に、僕は図書室を後にした。


 放課後、柳の木の下で待っていると、彼女がやって来た。僕に最早作戦はなく、ただ、思いの丈を伝えた。

「僕は、あなたのことが好きです」

 すると彼女は、静かに答えた。

「ごめんなさい、その気持ちをお受けすることは出来ません」

 やはり、ダメだった。わかっていたことなのに、何故か涙が溢れ出てしまった。

「だけど、みくびってパターン化した対応より、良いと思います。今度は、周りの純粋な気持ちも分かろうとしてあげてください。それに応えるかは、純粋な自分の心に、従ってあげてください」

 そう言われた瞬間、僕は決闘場に居た。

 放課後だったのがいけなかったのだろう。決闘が行なわれるため、呼び出されてしまったのだ。

 現彼女と挑戦者がリングにあがり、決闘が始まった。

 対決方法は、両者が交互に僕の良い所を言っていき、最初に詰まった方が負け、というものだった。

 バカげている。だけど、二人とも、真剣だった。

 綺麗な言葉が並んでいく。それを僕は、恥じ入るように聞いていた。いつの間にか、僕は女子を見限っていた。綺麗ごとを並べて近付く女子を、軽蔑していた。だけど、僕自身が感じた恋心は、やっぱり綺麗な物だった。相手に届くかは分からない。しかし、純粋なその気持ちは、尊いものだと感じることが出来た。

「イケメン!」

 両者が敢えて言わないようにしていたことを、片方が言った。その言葉は、僕の一番嫌いな言葉だった。だけど今は、顔で寄ってきたんだろうと断定して、鼻を明かしてやろうと思い上がっていた自分が、恥ずかしかった。


 片方が言葉に詰まり、勝者が決まった。

 すると、決闘場に無数に置かれていた石膏像が勝負について口々に意見を述べはじめた。喧々諤々とし始めると、決闘のクロッキーをしていた観客達が、石膏像のデッサンへ戻った。石膏像のうち、ソクラテスの胸像がこちらを向いてニヤニヤとしていたが、ソクラテスを描いていた男性に元の形に戻された。

 決闘場を出ると、僕は学校での彼女に別れを告げた。

「どうして!?」

 泣きながら訴える彼女には悪いと思ったが、純粋な気持ちに従った結果だった。同様に、プライベートの彼女にも、別れを告げた。


「俺さぁ、初めての彼女が出来たんだ」

 ある休み時間に、仲の良い男友達に言われた。

「おー、おめでとう」

 祝福の言葉を贈ると、彼は嬉しそうに恋人のことを語った。どうやら、恋人とは僕が恋したあの子のことであるようだった。

「それでさ、俺こういうの初めてだから、どうすれば彼女が喜んでくれるのかわからなくて。お前モテるから、そういうの教えて欲しいんだよ」

「純粋に、彼女の為と思うことをすればいいんじゃないかな」

 彼は、うーん、と首を捻った。

 僕に教えられることは、何もない。それに気付かせてくれた彼女なら、きっと彼の綺麗な思いも伝わっているんだろう。

 僕は少しの悔しさを覚えながらも、彼らの幸せを願い、綺麗な世界への希望を新たにした。

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