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恋の探求と接近遭遇

 授業が終わり、今日も楽しい部活の時間が始まる。

 ボクの名前は四戸流華しのへるか。ミステリー研究部の部長だ。

 ミステリー研とは、世の中の不思議を探求する部活である。平たく言えば、オカルト好きが集まる部活ということだ。

 九十年代辺りまで時代的な背景と共に隆盛を極めたらしいこの部活も、近年はまったく流行らなくなったようで、去年、その年の三年生の引退と共に、部員はボク一人となってしまった。

 今年新入部員が入らなければ廃部という状況であったが、新入生が三人、入ってくれた。

 竜飛好夜たっぴよしやくんに洞内灯希ほらないともきくん、そして、三厩交綾みんまやまあやさん。

 彼らは幼なじみらしい。仲良しな三人にボクも混ぜてもらい、今年の部活は、ボクの三年間で一番楽しいものになっていた。

「それじゃあ、今日も元気に部活動しようか」

 最後に部室へ来たボクが席へ着き、一呼吸置いた後、今日の活動が始まる。

 今日はどんな楽しいことが待っているんだろう。今のボクは、そんな高揚感と共にある。


「そういえば、私達の学年でも、もう何度か決闘が行われたらしいですよ!」

 三厩さんが興奮した様子で語った。入学してまだそんなに経っていない一年生が、この変わった習わしである決闘を続けざまに行ったという事実に、高揚しているようだった。決闘が恋を巡るもの、という興味もあるのだろう。

 しかし、決闘は確かに興味深い。

 ボクは参加したことが無いのだが、入学してすぐの頃など、決闘を行なったという女子に、決闘の様子を取材したりしていた。今思えば、あの子達は恋のいざこざの直後に、ボクに根掘り葉掘り掘り起こされていたんだな。悪いことをしてしまった。

 ボクが気になっていたのは、突如現れる決闘場とその内装の多様さ、絶妙なジャッジを下すという謎のレフェリー、そして、誰が何の為にこのシステムを作ったのか、ということだ。

 これは、オカルト好きなら堪らない、身近にある不思議ではないだろうか。

「君たち、決闘について調べてみないかい?」

 これもまた、ボクらをわくわくさせてくれる事柄だろう。


 三厩さんらの調査で、浅美さんと瞳さんという一年生が決闘したということがわかった。そしてまた、その子達は今ではとても仲が良い、ということもわかったそうだ。

 それならば、多少は訊きやすいかな、と思い、ボクらはその子達がよく遊んでいるという公園へと向かった。


 公園に着くと、それらしき女の子が二人、ブランコを漕いで何やら談笑していた。

 話し掛けるタイミングを窺っていると、二人が寄ってきた子供にブランコを譲った。ボクらはそこで二人に声を掛けることにした。

「こんにちは。浅美さんに瞳さん?」

 はい、と答えた二人に事情を話した所、二人は快く、聞き込みを受け入れてくれた。

 二人に聞いた所によると、やはり、決闘場はよくわからない空間だったらしい。

 そして、レフェリーのジャッジというのは、その瞬間には、えっ?と思っても、後々考えると、何故か納得出来たという。

 しかし、この程度の内容は、既に承知済みだ。やはり、ボク自身で体験してみないと分からないことがあるのかもしれない。

 ボクは二人への質問を早々に切り上げたが、三厩さんは未だ熱心に二人に問い掛けていた。

「嫌でなければ、その時の気持ちとか、教えてくれませんか?」

 遠慮がちながらも突っ込んだ内容を聞きたがっているのは、最早、恋への興味だろう。しかし、その様な質問への二人の返答を聞いて、ボクの中に、レフェリーについての一つの仮説が生まれた。もしかしたら、ジャッジというのは……。


 インタビューごっこを終え、ボクらは部室に引き返す為に、学校への道を歩いていた。

 三厩さんは決闘の恋の部分を反芻しては、時折、無意識に洞内くんを見遣っている。洞内くんもまた、恋の話に色めき立つ三厩さんに、同様の視線を送っている。

 この二人は、端から見れば分かりやすい。ちょっと利用するのは気が引けるが、ボクは、ボクらの探求に二人を巻き込むことにした。

「ねぇ、洞内くん。ボクの彼氏になってみないかい?」

 三人が三人とも、大きく動揺した。

「いや、もちろん、本当の彼氏じゃないさ。決闘場に行ってみたくてね。ボクが洞内くんの恋人役、三厩さんが挑戦者役で、形だけの決闘してみないかなって」

 三人は口々に何事か述べたが、要約すると、そういうことなら、ということだった。


 次の日の放課後、形だけの恋人、形だけの挑戦状で不安であったが、決闘場への扉は開いてくれた。

 四人で中へ入ると、部屋中、プラネタリウムの様に天体が広がっていた。

 未知の物への探求を表しているのだろうか。天体の間を、指差し記号が何かを求めて漂っている。

 ボクと三厩さんがリングへ上がると、例のレフェリーがやって来た。

「こんにちわ」

 挨拶してみると、レフェリーはちょっとだけ頭を下げた。話が通じるのかもしれない。

「ここは、いったいどういう仕組みなの?」

 レフェリーは何も答えなかった。これ以上は訊いても無駄らしい。

「対戦方法は、大岡裁きの子争い形式にしよう」

 緊張した面持ちの三厩さんに、ボクから提案した。

「引っ張るやつですか?灯希を?」

 そうだよ、と答えると、三厩さんは同意してくれた。ボクに何か考えがあるらしいことは、部員みんなが察知してくれているようだ。洞内くんをリングへと上げる。

「列王記のソロモン王の話のやつの方がスリリングで良かったかな?」

 冗談で言うと、三厩さんはピンとこない様子だったが、洞内くんは反応してくれた。

「怖いですって……」

 嘘だよ、と伝えると、いつのまにか剣を取り出していたレフェリーが、それを宙へと消してみせた。

 この空間は、本当に面白い。


 レフェリーが、決闘の開始を告げた。

 ボクと三厩さんはそれぞれ洞内くんの腕をとり、遠慮がちに自分の方へと引く。

 ボクがこの対決方法を選んだのは、レフェリーの判定基準を確かめる為である。この対決は、純粋な勝負としてとってもいいし、大岡裁きのような負けるが勝ちの判定をしてもよい。しかしおそらく、レフェリーの基準は、そこではない。

 ボクの予想が正しければ。

「三厩さん。ボクはここに来て、本気で洞内くんを取りにいくよ」

 えっ、と返す三厩さんを見て、引く力を少し強める。

「残りの高校生活、洞内くんとラブラブに過ごすのも悪くない」

 ボクの予想が正しければ、三厩さんが自分の気持ちに気付いたとき。

「部活中、見せつけちゃったらゴメンね?」

 勝負は決まる。

「ダメ!」


 三厩さんが叫んだ瞬間、レフェリーの手が挙がった。

 その瞬間、宙を彷徨っていた指差し記号が、レティクル座を指した。

 最初の第四種接近遭遇。彼女の気付いた気持ちが真の物になるかは誰にも分からないが、信じるかどうかは、彼女次第、ということなのだろう。


「いやー、実に不思議な空間だったね。謎が深まったよ」

 ボクはおどけた調子で言った。

 決闘中にボクの言った言葉は作戦だったんだよ、と説明してもむくれ顔の三厩さんの気を逸らす為に、必死なのだ。

「こんなことまでして、何も分からなかったんですか」

 決闘中、すっかり蚊帳の外になっていた好夜くんまで、少し不機嫌だ。

「いや、ボクとしては、少しだけ分かったことがあったんだけどね」

 決闘後の部活は、今日の反省会へと突入した。


「それじゃ、お疲れさまです」

 部活後、洞内くんと三厩さんはいつものように、一緒に駅へと向かっていった。

 三厩さんは、洞内くんをより意識しているようだった。洞内くんも同様で、お互い、多少ぎこちないところもあるが、前より仲は深まっているようだった。

 ボクは、好夜くんと一緒に帰る。

 彼もまた、今回のことを機会に気付いたことがある様子だった。

「部長、決闘中に言っていたことって……」

 まだ蒸し返すか。

「君は可愛いねぇ」

 好夜くんの頭を撫で回してやると、照れくさそうにしていた。何となく、お互いの気持ちをお互いが感づいている。直接言わなくても、多幸感があった。


 決闘場は、ボクの思った様な場所だった。しかし、赤い糸が蜘蛛の糸に変わる様なこのシステム。みんなのエゴを剥き出させて、何をしようというんだろう。

 でも取り敢えず、部員はみんな、少し素直になったようだった。

この話に出てくるミステリー研究部員は、山羊座の日の登場人物の設定を流用しました。

スターシステムというのをやってみたかったんです。

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