1ー6 出会い④
「グルァァァァァァァ」
「……ッ。今のは…」
聖霊の泉でマナ水を貰い受け、祠へと歩みを進めていた茜の耳に、獣声が届いた。
響いてくるのこの先、祠の方向。
声の主は、恐らく大型の魔獣。
魔獣が生きている中で、咆哮をあげるのは特定の場合しかない。
それは、獲物を狩る時のみ。
(咆哮、それが聞こえてきた方角、そしてタイミング……)
茜の頭の中で、それらはパズルのピースのように組み合わされ、1つの仮定を導き出す。
(恐らく、狙われているのは…人)
その仮定が頭の中に弾き出された瞬間、身体は動き始めていた。
『風よ、我が身に集いて、いと速き道を示せ』
茜の周囲に風が集まり、その身を包む。
感じる重さが遥かに軽くなり、背中からは強い風が吹きつける。
地を蹴れば、風が遥かに早く、より遠くまで茜を運ぶ。
地を蹴り、木の幹を蹴り、枝を蹴り、不自然な軌道を描く弾丸の様に、茜は道を急ぐ。
「グル、ガァァァァァァァァァ」
あと少しで、祠のある開けた場所に辿り着くという所で、咆哮が再び響いた。
募る焦りを感じながら、茜は翔る。
祠の場所に飛び出た矢先、茜は見た。
倒れ伏す少女、彼女を庇う様に立つボロボロの少年、そして彼をまさに襲わんとする巨熊。
『大地よ、我が力を糧に彼の者を護る楯を成せ--ガイアシールド』
言葉にマナを乗せ、その言葉と共に大地に触れる。
茜の見つめる先、少年と巨熊の間に土壁が湧き上がり、熊の爪撃を受け止める。
それと同時に、少年が崩れ落ちた。
茜はそれを確認すると、続けて言葉を紡ぐ。
『大地よ、我が力を糧に、彼の敵を貫く槍を成せ---ガイアランス』
土壁に攻撃を阻まれよろけたレッサーベアーの足元から無数の土槍が伸び、レッサーペアーの体を貫いた。
「ガッフッ……ガァァァ……」
断末魔を上げ、倒れ伏したレッサーベアーを一瞥し、それから少年達の下へ歩みを進める。
幸い少女は気を失っているのみ。
だが少年は、重傷だった。
「これは……急がないと不味いなぁ」
とりあえず止血をし、家へ運ぶ事にする。
『風よ、彼の者達へ集いて、大翼を成せ』
風が倒れた2人を包み、茜にも動かしやすい重さへと軽減する。
そして、茜自身にも先程の言葉を纏わせ、3人(まぁ、2人は抱えられてだが)は茜の家がある大樹へと向かった。