1-5 出会い③
あれから、どれくらい時間が経っただろうか。
一刻、半刻、いや一分すら経っていないのでないか。
圧倒的な膂力を以て、振り下ろされる爪撃。
組み合えば……いや、組み合う間もなくカイトが押し負けるのは明白だった。
紙一重で爪をいなし、避け、受け流す。
一撃一撃を丁寧に見切り、やり過ごす。
神経が焼き切れるような、精神が擦り切れるような……そんな極限状態下でカイトは、レッサーベアーと対峙していた。
自分一人なら、とうの昔に、それこそ遭遇するより先に逃げていただろう。
しかし、今は。
そう、今は背中に大切な幼なじみが居る。
彼女を置いて、逃げられない。
どうにか、彼女だけでも……。
その為には、レッサーベアーを倒せずとも敗走させねば。
カイトは、反撃の隙を狙っていた。
この状態を一変させるその時を。
「グル、ガァァァァァァ」
目の前の獲物が、なかなか倒れない。
これさえ倒せれば、獲物が二匹。
なかなか無い豪華な獲物だ。
一匹は、最初に仕留めた。
もう一匹はしとめ損ねたが、すぐ殺せると思っていた。
忌々しい事に、この小さな存在は生意気にも死ななかった。
哮声にも怯まず、固い針で威嚇してくる。
忌々しい。
ああ、忌々しい。
「グル、ガァァァァァァ」
一際大きな獣声を轟かせて、レッサーベアーが爪を振り下ろす。
---その大きな身体ごと---
今までにない大振り。
カイトの待ちに待った瞬間だった。
バックステップで、ギリギリ範囲の外へ。
そして、倒れた巨体へ身体ごと剣を突き込む。
鉄剣の切っ先は、真っ直ぐレッサーベアーの頭部へ吸い込まれ---その腕に阻まれた。
「なっ、クソッ」
離脱する間もなく、弾き飛ばされる身体。
振り払われた爪に、引っかかれたか。
わき腹に燃えるような感覚が走る。
身体が落ちた先、隣には大事な彼女が倒れていた。
せめて、この身を楯にしても彼女を……。
カイトは、うずくまったまま止まりそうな身体を叱咤して、リーサの下へ。
そして、リーサを守るように立ちふさがった。
掠れていく視界。
赤いぼんやりとした存在が、迫ってくる。
だんだんと迫ってくる鋭い爪。
自分へと向かう爪を認識しながら、カイトは同時に、別の存在も視界に収めていた。
朧気だが、何となく人に思える。
「…助け…かな……」
恐らく自分は、助からない。
せめて、あの人がリーサを。
そう願った時、彼の視界が真っ黒に染まった。