1ー4 出会い②
それに気付けた事は、幸運だったのだろう。
リーサと話している間に生まれた、僅かな違和感。
そう、森が静かすぎるのだ。
小鳥の囀りすらも聞こえない異常な静けさ。
そして、その静寂の中微かに聞こえる地響き。
それは次第に大きさを増していて、近付いてくる脅威の存在を物語る。
「………」
地響きが止むのとカイトが剣を構えたのは同時だった。
後ろではリーサが、油断無く短弓を構えている。
張り詰めた緊張感の中、カイトは必死に思考する。
生憎、祠の周囲は切り開かれていて、今から隠れてやり過ごそうにも場所が無い。
せめて、リーサだけは安全な場所に……。
カイトが思考に没頭したのは、僅か数瞬。
しかし、襲撃者はその隙を的確に突いてくる。
「……カイトッ!!」
突き飛ばされる身体、鋭利な何かが身体を掠める、風切り音、悲鳴、そして何かが堅いものに当たる音。
倒れた身体を起こして、悲鳴が聞こえた方を見やる。
目線の先には、木の根元に血を流して倒れているリーサ。
駆け寄ろうとした瞬間、背筋に悪寒が走る。
その直感に従って、転げる様に回避。
その刹那、今まで身体があった所を鋭利な爪が抉る。
……そう、爪。
その瞬間、カイトは初めて襲撃者の姿を視認した。
赤い体毛、赤い瞳、そして赤黒く血濡れた爪。
「グルァァァァァ」
仕留め切れなかった苛立ちを露わに、雄叫びを上げる樹海の暴君。
「……レッサーベアー」
背中には、傷つき気絶した少女。
彼女を抱えて逃げ切れる相手でも、まして見逃してくれる存在でもない。
カイトの頭に見捨てて逃げるという選択肢は、元より存在しない。
「やってやるよ!!」
覚悟を決め、剣を握りしめた。