1ー3 出会い①
茜は、気の向くままに樹海を歩く。
果実を着けている木を見つけては、自分の分と祠へ持って行く分を取らせて貰う。
『木よ、恵みを』
木々に語りかければ、よく熟れた果実が手元に落ちてくる。
「これだけあれば、十分よね!!」
集めた果実は、既に数十個。
半分を祠に置いてくるにしても、茜の手元に残る分は、2~3日食べる分には十分である。
「あとは、泉の水を分けて貰いに行きましょうか」
そう言って、1つ深呼吸。
自分の声に、マナを込める。
『風よ、道を示したまえ』
ヒュウと穏やかな風が茜の背中を押す。
このまま、風に吹かれて進めば精霊の泉に辿り着くだろう。
柔らかな日差しが差し始めた静かな樹海を、茜はのんびり進む。
「カイト、はいお茶」
「ん、おおサンキュ!」
カイトとリーサは、祠の脇で休憩中。
道中は、何事もなくやっと重い荷物を降ろした所である。
「いやぁ、ホンットなんも無かったわね~。
森に入るから、魔獣とエンカウントするか期待してたんだけど」
「あのな、この荷物背負って魔獣に遭ったら、確実に終わるぞ」
「分かってるわよ、そんな事。
縄張りの間を、上手くすり抜けて来たんでしょ?
………カッコいい姿見たかったのに」
「うん、何か言ったか?」
「な、何でもないわよ!!」
そう言って、ついと顔を逸らすリーサ。
若干頬に赤みが差してるが、歩き疲れて上気してるだけだろうとカイトは判断。
……朴念仁なのである。
「さて、もうそろそろ戻るかい?」
「え~、あと少し休んでも良いじゃない」
「う~ん、でも魔獣も活発化し始めるし……」
「大丈夫よ、それにカイトが居るじゃない」
そう言われれば、頷かざるを得ないのが男の性である。
「分かったよ、あと少しだけな」
その答えを聞き、上機嫌で口元を緩めるリーサ。
静かな森の中、誰にも邪魔されず、想い人と切り株に背中合わせで腰掛け、一時を過ごす。
まさに至福の一時だった。
---無粋な侵入者が現れる、その時までは---