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クズが説明される話

「先ず初めに、私が君を改造した、とは言っても、弄った部分は一つだけだ」

 と、機械の声が言うと、その言葉に反応して

「ここか?」

 と、クズは舌をベロベロと動かした。

「ウム。まあ、多分起きた時から喉が異常に渇いたり、味が感知できなかったり、何かしらの異常があったと思う。まあ、本当は声も出せないかと思っていたのだがね。出せて何よりだよ」

「やっぱり、俺の味覚は狂ってたんだな……」

「ああ、でもまあ、その内治るだろう。こっちの見積もりだと、喋ることすら怪しいと思っていたんだが、こうして会話ができている」

「そうか……よかった……よかった……」

 クズは、鼻から大きな息を吐き出しながら、自らの感覚が永遠に失われていなかったことに胸を撫で下ろした。

「でも、舌なんか改造してどうするんだ? 何というか、普通は腕とか足とかそれこそ脳ミソとかを弄くり回すモンじゃないの?」

「フム、いいトコロに目を付けてくれた。確かに腕とか足、それに脳を改造した方が単純な戦闘力だけを見れば強いと言えるだろう。が、今回の一番の目的は、敵を倒すことよりも私のノーパソを取り戻すことなんだよ。つまり、単純な戦闘力よりも、様々な場面に応用の効く能力の方が勝手がいいわけだ。(まあ、あんまり大きな部位を改造するのは面倒だってのもあるけどね)」

「フムフム」

 クズが頷く。

「そこで、私が改造したのは唾液腺だ。君は舌のみを改造したと思っているようだけどね」

「唾液腺?」

「そう、唾液腺。あまり詳しく話すと君が混乱してしまうだろうから簡潔に話すが、主に改造したのは、もちろん君の舌だ」

「まあ、そうだろうな」

「しかし、唾液腺というのは、舌というよりは舌の下と耳の穴の下、それから喉の手前についているモノが主なのだよ」

 クズは首を傾ける。

「まあつまり、君の頭部の鼻から下は全て弄くったということだ」

「え?」

 クズが目を見開く。

「(あとはその辺を司る脳の一部もちょっとだけ弄くらせてもらったけどまあそれは置いといて)簡単に言えば顎のラインの整形手術のようなイメージを持ってもらえればいい」

「ああ、整形手術か、なるほどなるほど」

 冷静に聞くと実に的を得ていない説明なのだが、「整形」という聞きなれたワードに、クズは納得してしまった。

「ハッハッハ、それが君の武器になる」

「武器?」

「そうだ、武器。まあ、ここまでの説明で何となくわかってしまったかもしれないが、君の武器は唾液だ」

「唾液が、武器?」

「ウム。涙は女の武器、という言葉を聞いたことがあるだろう? それをヒントにさせてもらった。もちろん、女性の涙のように、異性の感情に訴えかけることによって自分の立場を有利にする、とかそういうことじゃない」

 機械の声は意気揚々と語る。

「先ず、君は私が発明したある液体を唾液腺に含むことによって唾液を造り出すことが出来る。今、それを彼に持ってきてもらう」

 というと、老執事はエレベーターから降りて真っ先に目に入った巨大な試験管の中に入った液体を、小さなグリフィンビーカーに注いで持って来た。

「それを口に含むと、君の口内が反応して、上顎と舌の裏側で吸収するんだ。まあ、試しに口に含んでみな」

 と、機械の声が言うと、老執事がクズにビーカーを差し出した。

 だが、そのコポコポと気泡を吐き出す液体に、クズは口に含むことを躊躇した。そこに、

「ハッハッハ、怪しいのは見た目だけだって。ああ、そう言えば、それにも一応味が付いているはずだよ。飲み込むんじゃなくて吸収するのなら、感知できるんじゃないかなあ」

 と、機械の声が話しかける。

 その一言に、クズはその液体を口に近付ける。

「さ、一気に。グイッと! イッキ! イッキ! イッキ!」

 まるでアルコールハラスメントのような機械の掛け声に、首を傾げ、右目をヒクヒクとさせつつも、クズはその液体を半分だけ口に含んだ。

 するとクズの口の中は、安っぽいサイダー味の飴玉を噛みしめた時のようにキメの細かい泡と甘ったるさで一杯に溢れたかと思うと、刹那に甘さだけを残して泡が消えてしまった。

「あれ? 泡消えた? てか、甘え!」

 クズはその僅かの間の出来事に適当な感想を出そうと考えていると、

「ハッハッハ、美味しかったかい?」

 と、機械の声が問うた。

「なんか、駄菓子屋を思い出した」

「ハッハッハ、幼心を忘れないことはいいことだ。まあ、それで君の中に唾液の基がストックされたわけだ。今回はビーカーに半分だけだったが、マックスだと五百ミリリットル、ペットボトル一本分くらいはストックできるようになっている」

「それが多いのかどうかはちょっと分からないが、ペットボトル丸一本分の唾液ってのはちょっと気持ち悪いな」

「ハッハッハ、まあ君が口に含むのはあくまでも基だから、その辺は割り切ってくれ。で、話を戻すと、君はその唾液の基を使って、口内で粘度・硬度・量を調整して、臨機応変な唾液を生成することが出来る」

「つまり?」

「唾液をコントロールできるってことだ」

 クズは怪しいモノを見る目でビーカーに半分残った液体を見つめる。そして、

「いや、仮に唾液をコントロールできたとして、それって別に何にも使えなくないか?」

 と、ビーカーを揺らした。

「話は最後まで聞きなって。いやまあ、それだけでも十分便利だってのを前提として、君の唾液のコントロール能力は口内に限った話ではない。実はコントローラを使うことで、ある一定の範囲以内なら体外でもある程度自由に唾液を動かすことが出来るのだよ」

「コントローラ?」

「ああ。百聞は一見にしかず。習うより慣れろ。上の階に広い部屋があるから、今からそこで試してみるといい。詳しい操作方法は彼も知っているから」

 機械の声がそう言ったのでクズが老執事の方を振り向くと、老執事は

「では」

 と言い、右腕差し出してをエレベーターの方に向け、クズを促した。

 

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