クズがふんぞり返る話
少女から必要なデータを取り出す処理は、クズの想像と反してグロテスクなモノであった。
クズに情報処理装置を取りつけたケースでは、生きている者を対象としていたのだが、今回のケースでは死んでいるモノが対象であるため、施行される側への配慮が微塵も見られなかった。クズに対しては、献血でもするような高待遇であったのに対して、少女の亡骸に対しては、匙で茹で蟹の味噌でも掘り出す様にグチョグチョと施された。
データを取り出す作業に際しても、謎の声は姿を現さず、情報処理装置を介してクズに指令を出して行わせた。
とは言っても、少女の頭をパカッとかちわり、脳ミソをほじくる様にしてケーブルをセットしただけである。これらは、全て老執事から受け取ったボディバッグの中に入っていたグッズを用いた。
いくら亡骸に排泄物を浴びせてしまうほどの衝動に駆られる、憎い憎い相手とはいえ、その死体を外観が分からなくなってしまうほどに弄くるのは、クズとしてもよい気分ではなかった。それでも、クズはその仕事を厭らしいモノを扱う様にして成し遂げた。これは、謎の声に対する服従心からではなく、偏に、これ以上危なっかしい輩と対峙したくないという、自らの可愛さによるモノであった。
「ハッハッハ、どんなゾンビ映画よりも、クルだろう? だが、例えば医療の現場では、例えば生物科の研究ラボ内では、明日の君の夢を悪夢にするくらいのグロさは日常茶飯事ってトコロさ」
このような場面でも、謎の声は、軽く冗談を投げつける。
「それでも、そうした日常を過ごす人々がいるおかげで、我々はゾンビ映画にガクガクブルブルと震える日常を送ることが出来るんだけどね。現に、君がそうやって彼女の脳ミソから情報を抽出してくれたおかげで、私たちは無事に目的を達せようとしているから」
この発言に、クズは腹が立った。だがそれは、倫理的なコトに対する怒りではなく、もっと単純な怒りであった。
「ちょっと待て。確かに俺は、こうして脳ミソをグチョグチョと混ぜくるのは気持ち悪いと思うし、いい趣味とは言えないと思う。だけど、俺はゾンビ映画で震えるほど落ちぶれちゃいねえよ! むしろ、近所のレンタルビデオ屋で積極的にレンタルして、ソレをツマミに一杯やって爆睡した夜だってあるくらいに、こっち系に対する免疫は持ち合わせてる!」
鼻息荒く言い切るクズに、謎の声は一瞬だけたじろんだが、
「ハッハッハ、そりゃあ、ちょうどいい。それなら今夜もぐっすり眠っておくれよ」
と、笑った。
これに対して、馬鹿にされていることに気づかぬクズは、
「ウム、わかりゃあいいんだよ」
と、満足気に納得した。
「まあ、それはそれとして」
クズがふんぞり返っているのを横に置いておき、謎の声は話題を転換した。
「君が頑張ってケーブルを繋いでくれたおかげで、どうやら彼女の脳内のデータが少しずつ解析されているようだ」
「フーン、そうか」
少しつまらなそうな顔をしながら、クズが相槌を打つ。
「アア、チョコッと解析しただけでも、敵を貶めるには事足る程度の情報は出てきたよ。まあ、君に口頭で伝えたトコロで容易に理解は出来まいから、後から直接、纏めたデータを頭の中に送り込むよ」
謎の声のその言葉に対して、クズは
「わかった」
と、呟くが、それから少し考えた後、
「ン? そう言えば、後はアジトの場所を掴んでチョチョっとノーパソを奪還するんじゃなかったっけ?」
と、首を捻った。その問いに、謎の声は思わず噴き出した。
「ハッハッハ、君もなかなか脳ミソを使う様になったね。足を早くしたければ馬糞を踏むといいと言うが、頭をよくしたければ誰かの脳ミソを踏めばいいのかな? ハッハッハッハッハ」
続けて、
「だがね、最善手っていうのは、情報と状況で刻一刻と変化するモノなんだよ。そして今、その両者がバッと変化した。まあ、決してチンタラと計画を引き延ばすわけではなし。ただ、これだけオイシイ材料があるというのに、アジトの位置だけを引きだしたのでは勿体ないというコトさ」
「オイシイ材料?」
「アア、自分をウィルスとしてデータを保護する様な慎重な慎重な私としてみれば、彼女の様に敵の前に姿を見せざるを得ない脳ミソの中に、これだけの情報を詰めておくなんてのは、ヨッポド甘ちゃんだね」
貴重なデータを易々と盗まれてしまった謎の声の方が甘いとも言えるが、それでもクズはその言葉を真に受けて、
「なんだ、そんなに甘々な相手なら、さっきの話じゃないけど、ホントに俺も今夜はぐっすり眠れそうだよ」
と、抜かした。




