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クズが首を絞められる話

「フム、絞殺か。確かにそれならば、凶器がなくとも殺害することが出来るが……」

 少女がクズの首に沿わせた華奢な手に力を込める一方で、謎の声は語る。

「例え君がプロフェッショナルな殺し屋だとして、絞殺とは時間がかかる殺害方法なんだよ。まあ、ここで紐すら使わない絞殺をチョイスするあたり、恐らく君はプロフェッショナルではなかろうて。確かに、人が意識をなくすには首の血管を止めちゃえばいいんだけど、そっからが長いんだよ。絞殺は。特に素人はね」

 少女は耳に飛び込んでくる謎の声を、意識的に脳内で解さない様にして、クズの首をグイグイと押さえつける。

「ハッハッハ、それにね、いくら彼が私の味方ではないとて、眼前で十割の確率で妨げられる殺人を見逃す私ではないんだよ。ハッハッハ、君の膝にくっついているソレ、彼の口から飛び出してきたソレ、ハッハッハ、こんなこと言っちゃうと私と彼の共同戦線を暴露しているようなものだけど、とにかく、君の膝にあるソレ、実は最強の殺人リングなんだ」

 まるでアメリカンジョークでも飛ばすような軽快な口調で、少女に脅しを掛ける。少女の方も、流石に聞き流すわけにもいかず、

「フフ、フフ、ともあれ、これで人質として成立したってわけネ」

 と、強がりを見せながら、クズの首から手を外した。

「ハッハッハ、自分の膝に得体の知れないモノを付けていてもその余裕か。将来、君は大物になるかもね」

 茶化す謎の声に対して、少女はそれまでの激昂を感じさせぬどころか、返ってニヤニヤとしながら語り始めた。

「フフ、フフ、アナタは大人みたいだから、自分に不利にならない立ち回りをしているみたいだけどね、ワタシは違う。フフ、フフ、きっとアナタの欲しいモノはワタシが持っているモノ。まあ、そもそもこうして対峙している以上はそこまで視野に入っているのかもね。フフ、フフ、どう? 興奮してこない? こうしてサ、自分が必死になって隠しているモノを相手はペラペラと喋っちゃうの。どう? 興奮してこない?」

 それまでは少女の上から言葉を発していた謎の声は、少し落ち着いたトーンで返す。

「さあね。私は大人だから、君の考えは分からない」

「そう、残念」

 少女は微塵も残念がらずにそう言うと、鼻息を荒げながら続ける。

「フフ、あのね、ワタシはアナタを殺したいノ。撲殺がイイワ。ネ? ワタシ、撲殺って大好き。だって、言葉の響き? イントネーション? 『サツ』っていう言葉に一番ピッタリだと思うの『ボク』って。撲殺撲殺撲殺撲殺、ホラ、素敵デショ?」

 ウットリと語る少女に、謎の声はたじろぐ。

「フフ、それにね、これって人間としての性だと思うノ。イライラすると、人を殴り殺したくなるデショ? パンチングゲームってのがいい例ネ。アレが人気な内は、人類はまだまだ大丈夫。フフ、フフフフ、ワタシに殺されなサイ!」

 少女が笑顔でそう言うと、突然ピッピッピと、歯切れの悪い笛の音が三度なった。

 その笛の音に少女が振り向くと、そこには白髪頭に色の薄れた警察帽を被った、ガリガリの駐在が駆けてきた。

「お嬢ちゃん、そこで何を? 近所の人から、変な人がいるって電話があったんだけどね」

 ハキハキとしているが、穏やかな声色で少女に問い掛けると、キョロキョロと周囲の状況を確認し始めた。

「エ? ア? ハイ」

 不意をつかれた少女は、オドオドとしながら答える。

 そこに、倒れているクズを見つけた駐在は、笑い皺がくっきりと生えている細い目をパッと開いて、胸ポケットからメモ帳を取り出した。

「彼は、お嬢ちゃんの知り合い?」

「イ、イエ。たまたま通りかかった時に、倒れてたんで。ン? って思ったんですけど……全然知らない人です」

「フムフム、知らない人か。じゃあ、この辺りで他に変わった人を見なかった?」

「エット、ワ、わからないです」

 駐在は、首を傾げ、右手に持ったボールペンのノック部分でモミアゲの部分を軽く掻く。

「じゃあ、その右足にくっついてる定規はなんだい?」

 少女は少しだけ右の頬骨をピクリと動かした。

「エ、エット、ファッションです。エット、好きなモデルさんが、エット、こういう奇抜な格好をしてて……」

「ナルホド。最近のファッションはよく分からんなあ。ああ。気分を害したならゴメンよう」

「イエ、イエ」

「じゃあ、とりあえずそこに倒れている彼を引き取るから。お譲ちゃんは、特に関係ないかもしれないけど、発見者ってことで、後から事情徴収をすることになると思うんだけど、いいかい?」

「イヤイヤ、それは困るナ」

 そう言って少女は、定規の付いた右足で、メモ書きをしている駐在に飛びひざ蹴りをかました。

 すると、たった一五センチの長さの定規が、駐在の服を貫通し、腹部にグサリと刺さった。少女は倒れぬように駐在の両肩を持ち、

「ゴメンなさい、多分その変な人ってワタシのことネ」

 と耳元で呟いた。

 少女はジュポッと定規を抜くと、

「アーア、汚れちゃった」

 と、不服そうにして、駐在を左足で蹴り倒した。倒れた駐在は、クズと同様に

「ア、ア、ア」

 ピクンピクンと悶え、小便と腹からの流血を垂れ流しながら、腹部を痛がった。

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