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クズが頭を抱える話

 夕方になり、老執事が入室して来ても、クズにはその日の内に行われる作戦がどうにも現実味のないモノに感ぜられた。それは、それまでの人生の内でも群を抜いて荒唐無稽な事柄であるということもあったが、それ以上にどんなに無茶苦茶でも計画がチットモ練られていないということによった。

 例えば、小学校で催されるような遠足でも、大抵「旅のしおり」という計画書が発行される。その中には、大雑把なルートや持ち物、注意事項なぞがツラツラと書き綴ってあり、それを児童や親が見ることにより、遠足に対して現実味を覚え、安心することが出来る。

 しかし、今回の様なチットモ練られていない計画では、それがどの様に起こるのかが微塵も想像できない。そうなれば、クズの頭の中ではこの計画が現実に起こる事象だ、という認識が鈍る。そして、いくらそれまで怠けていたクズでも、

(あー、何か執事の爺さん来たけど、俺、どうすればいいんだろうか)

 と、少々の焦りと不安を覚える。

 老執事側からしてみれば、そんな計画は脳内の情報処理装置を用いることによって刹那に共有することが出来る為、計画不足よりはクズがどれ程戦力になるかの方が不安であった。しかし、それもいざとなれば情報処理装置でクズの行動を縛ってしまえば済む話なので、老執事の腹の中は既に作戦の中にドップリと浸かっていた。なので明らかにクズが落ち着きがない様子で襟足やサカムケを弄っていても、寧ろウルサくなくて丁度いいくらいの心構えで放っていた。

 クズは益々焦った。それは、老執事が入室してから何にもアクションを起こそうとしないというコトに加え、感情の薄い老執事の表情をよく見ると、薄っすらと難しそうに何かを考えているように見えたからである。

(え? 何を考えてんの? まさか、完全に無策? え? いやいや、確かに情報が少ないとは言ってたけど。それでも何かあるだろう。首謀者が直前になって考え始めるってどういうことだ?)

 老執事が熟考するのを見て、クズが考える。

(まあ確かに、ゲームとかのキャラでも知的タイプと肉体タイプがいるけれども)

(それぞれが丁度よくバランスをとってこそじゃないか)

(まあ、チュートリアルとかだったら割と肉体タイプだけでも十分だけど)

(いやいや、これっていきなり実戦だろう、てか、実質いきなりラスボス的な感じじゃん)

(あー、でもあれか。ノーパソの機械の声がなんやかんやで頭脳労働は請け負ってくれるのか)

 クズは襟足を弄っていた左手の指をそのまま根元まで絡ませ、うなじの辺りの少し柔らかくなった頭皮をポリポリと掻いた。

 それから暫くの無言の後、脳内の整理に一段落ついた老執事がクズに聞こえるようにに大きめの鼻息を吐きだすと、

「では、今から今日の作戦について話します。昨日の様に直接脳内に情報を送信するので、少々お待ちください」

 と言いながら、右手で軽く目を覆った。それに対し

「ん」

 と、クズが返事を返すか返さないかの間に、クズの脳内は老執事から送られてくる情報で頭の中が埋まった。

 作戦自体は、老執事が前方を見てクズが後方に目を向ける、といった非常に単純なモノであった。それ以外の情報として、特に敵の拠点と思われる地点までの地図と行動パターンごとのルート、誰かに見つかってしまった場合の対処法と万が一唾液をコントロールする場面が来た場合の行動、それから老執事が行動不能になった、もしくは老執事と連絡が取れなくなってしまった場合の行動を一遍に脳内に叩きこまれた。

 頭に違和感があるわけではなかったのだが、その情報量の多さにクズは思わず頭を抱えた。それは、まるで二桁の掛け算を暗算で解いている時の、あるいは例え話が分かりにくい人の話を無理矢理理解しようとする時の、頭の中がプカプカと上下する様な感覚であった。

 とりあえず全ての情報を頭の中に整理し終え、不図老執事の方を見ると、

「何か質問はありますか?」

 と問うてきたので、

「ん、何も無いけど、さっきみたいに脳ミソ会話の情報が多い時にドッと疲れるのはどうにかならんのか?」

 と、訊いた。それに老執事は

「ハイ、では、次からは情報は小出しにして少しでも負担がかからないように致します」

 と答えた。

 そして老執事が「他には?」と言いたげに少し首を傾けてきたので、クズは軽く右掌を老執事に向けた。

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