第六話 安息日
時計塔のまわりは、何時にもまして騒がしかった。
通りを闊歩する大人たちの靴音も、今日ばかりは少年達が発する雑音にかき消されてしまう。
頭上から降り注ぐ羽を手で払いながら、パーシバルは本の頁を繰る。
約束の十分前には目的地にたどり着くのが、彼のポリシーだ。
「パーシー!」
聞き覚えのある声に、パーシバルは腕時計を確認する。
珍しく時間通りに現れたジェラルドに向けて、手を振った。
「よかった!来てくれたんだ」
「……うん」
力強く両手を握られ、パーシバルははにかみ俯いた。
内気な少年の居場所は、ジェラルドの傍をおいて他にない。
彼の弾けるような笑顔を見るだけで、もう少しだけ前に進もうと決意を新たにできる。
「さ、早くユニフスタワーに行こう」
「待って。……ごめん、僕、やっぱり」
「行きたく、ないのか?」
ジェラルドの空色の目が不安げに揺れる。
パーシバルは、慌てて首を横に振った。誘いを断るために、来たわけではない。
「違う……!人が多いの……苦手だから」
「わかった。じゃあ、時間をずらそう。……何して時間を潰そうか」
「とりあえず、此処から離れたい……」
喧騒に顔をしかめるパーシバルの右手を、ジェラルドが握りしめる。
そのまま紅い翼を広げると思いきや、半ばパーシバルを引っ張るように通りを歩き始めた。
子ども達は真っ青な空の道を自由に飛び交っている。
地上を歩くのは大人だけだ。
二つの小さな足音が、大通りの喧騒の中に溶けて消えた。
「どこへ行くの、ジェリー」
少年達は大通りの角を曲がり、薄暗い路地裏に入る。
軒並み連なる店は、ほとんど大人向けの専門店だった。
中にはショットバーもあり、明るいうちは扉を閉ざしている。
「秘密」
ジェラルドは、口端を上げ、意地の悪い笑みを浮かべた。
少年は、パーシバルとともに歩くことを誇りに思っていた。
空を飛んでいるだけでは、見えないものがたくさんある。
それを教えてくれたのは、片翼の友だった。
「教えてくれたって、いいじゃないか」
パーシバルは、大通りの施設かカフェで時間を潰すのだと思い込んでいた。
立ち入り禁止の店に入れば罰則を受けてしまう。
休日でも、生徒たちの行動を見張る教師は大勢いるのだ。
ただでさえ素行の悪いジェラルドは、すでにブラックリスト入りを果たしている。
「ジェリー、いい加減にして……」
友の足が、ぴたりと止まる。
塗装が剥げ、灰色のコンクリートが剥き出しになった古いビルだった。
看板もなく、何に使われているのかもわからない。
コンクリートに入った亀裂を、濁った水が伝っていた。
「この地下だ。行こう、パーシー」
「こんなところに、何があるんだよ」
「映画館」
ジェラルドが指差した先に、色褪せたポスターがあった。
パーシバルは、掠れた文字を読み取り、苦笑する。
静まり返ったビルの入り口で、地下へ続くエレベーターが二人を出迎えた。