6:説明回(1)
「カステラ1番♪ 電話は2番♪ 3時のおやつは~♪」
懐かしいCMソングを鼻歌交じりに歌いながら,俺は現在進行形で甲板掃除をしていた。
やっぱり船に乗った新入りがまずやる鉄板と言えば,甲板掃除に砲台磨きだよなー。
そう思いながら掃除をしていると,色んな奴らから声が掛けられる。
「おうマコト。ご機嫌じゃねえか」
「やあマイケル。そっちも元気そうだな」
「あのな何度も言うけど,俺の名前は『マイケル』じゃなくて『マイカル』だってーの!」
「ごめんごめん。わざとです」
「ったく。いい性格してるぜお前」
俺は話しかけてきたマイカルをからかってテヘペロし,マイカルは呆れるように眉を曲げた。
他の船員も気さくな奴らだが,船に乗ってから3日,船員の中でもマイカルともう一人とはよく話すようになった。
「ところでマイカル。ベティーちゃんはまだへそ曲げてる感じか?」
「おいおいマコト。俺だからいいが,間違っても船長の前でその呼び方でお嬢を呼ぶなよ。マジで『深空』まで落とされちまうぞ」
「ん? 『深空』ってなんだ?」
「あん?本当に記憶が飛んじまってる見てえだな。赤ん坊だって知ってるぞそんなこと」
謎の単語が出てきたところで,マイカルが俺に深空について説明してくれた。
「深空ってのはな…………」
マイカルが言うには,深空というのは,この空の遥か下に広がっているだろうとされている空のことらしい。
広がっているだろうというのは,まだ誰もそれを確認し,戻ってきたものがいないからだそうだ。
今俺が見ることができる空は『中空域』と呼ばれる高さの空で,その上が,高空域,超空域となり,下が,低空域,重空域,深空域となっている。
深空に入るには,その前の重空域を潜らなければならないのだが,重空域では気圧が不安定な上に強く,船の機関部である『浮玉』が圧壊してしまうそうだ。
つまり,深空に落とすという意味は,地獄に落とすとほとんど同じ意味で使われているらしい。
「ところで,『浮玉』ってなに?」
「はあ,ったく記憶を無くすってのは相当面倒なんだってことは分かったぜ」
「まあ,宜しく頼むよ」
「分かった分かった」
見事に俺の中で説明キャラにジョブチェンジしたマイカルは,続けて『浮玉』について説明をしてくれた。
「浮玉ってのはあれだ」
マイカルが指さしたのは,船の後方両脇に付けられた球体だった。
浮玉というのは,『浮石』という特殊な鉱石を特殊な技術で加工して作られるもので,物体を浮かす性質がある。
この世界の船には必ずこの浮玉が機関部の専用ユニットに付けられており,そこで調節して前に進んだり,上にあがったり,下にさがったり,左右に旋回することができるとのことだ。
なんというか,……うん。ファンタジーだった。
ひと通り説明を終えたマイカルは,少しダルいように首を回した。
「ふう,結構時間使っちまったな。持ち場に戻んねえと」
「ああ,助かったよ」
「全くだぜ。今日の晩飯少し寄越せよな」
「ちょっ!説明料高すぎだろ!」
「うるせえ。こんなの母ちゃんが子どもに聴かせるぐらい当たり前のことなんだ。むしろもっと寄越せ!」
「頼むよ飯は勘弁してくれ。今度ベティーちゃんの下着くすねたら,お前に最初に見せてやるからよ」
「……………………本当か?」
「……真剣に考えるなよ。冗談だよ」
「ば,バカヤロウ!そんなの分かってるつうの!」
マイカルさん。マジムッツリでした。
「ということで,普段からマイカルがベティーちゃんに色目使ってること船長に……後は分かるよな?」
「ったくお前ってやつは!分かったよ!今回だけはサービスしてやるよ。次からは先に干し肉でも持ってこねえと教えてやらねえからな!」
そう言って,マイカルは自分の持ち場へと戻っていった。
なんだかんだ言って説明はしてくれることを約束してくれたマイカルはやっぱり良い奴だと俺は思った。
プロットなしで設定作っているので,いずれ矛盾が出てくれば指摘していただけるとありがたいです。