3:大空から足の着くところへ
「ドナドナドーナードーナ~♪ 俺は連れてかれるよー」
鳥さんに拉致られてから早10分ぐらい。
俺は予期せぬ大空へのフライトを強いられている。
最初はバタバタ暴れていたんだが,暴れると鳥さんが俺の体を掴む力を強くして無茶苦茶痛かったので,今は売られる仔牛の如くされるがままになっている。
まさか,こんな展開で人生の幕を閉じるとは思わなかった。
ああ,せめて人生最後ぐらい九連宝燈で和了たかった。
まあ,和了ったらそれで人生終了なんだが……。
「鳥さん鳥さん!ちょっと降ろしてくれませんかね!」
「ギュ---!!(ちょっと黙っとれや!)」
「はい。すいませんでした」
どうやらお話が通じる鳥さんではなかったらしい。
はあ……。
俺は死の宣告を受けて,メキメキ頭の数字(あると仮定して)が減っている感覚が酷かった。
どうせ,あれだろ。ひな鳥に口移しであげちゃう系だろ?
どうせならせめて痛くしないで欲しいな。
そんなことを考えて,軽く欝になっていると,後方から奇妙な音がした。
あえて表現するなら,ぶぼぉおおって感じだ。
鳥さんも音に気づいたのか。
飛び方が急に荒くなった。
俺は何事かと後ろを振り向くと,雲の隙間から鳥さんよりデカイ何かがやってきた。
それは,船だった。
ただ水に浮かぶ船とは違い,マストは無く,代わりに船の両脇に人工の羽があり,船の後方両脇に謎の球体が装備された空飛ぶ船だった。
鳥さんは焦ったように体を右へ左へと傾けて逃げるように空を泳ぐ。
船は風を切り,雲を蹴散らし,空気を切り開くように威風堂々と突き進んでいる。
そして,船が真横に来た時,鳥さんは風を乱され,風圧でフラフラとゆらぎ,羽をバタバタを忙しく動かした。
捕まえられている俺からすれば,「おえぇ吐きそう」ってことになっている。
船の甲板に人影が見えた。
どうやら何人か人がいるらしい。
何やら騒がしくしている。そして,すぐに船の側面にある窓のような穴から何やら大砲みたいのが,見え…………え,ちょwwまっww
俺が慌てふためいた直後,大砲みたいなものが火を拭き,直後無数の網が俺と鳥さんに襲いかかってきた。
そして,無抵抗に捕まえられた。
あ,ちょっと,鳥さん暴れないで,潰れるっす。
「久々の大物だな!」
「ああ,これで島に帰るまでの食料の心配は無くなったな」
「肉じゃああ!生肉じゃああ!」
「お前興奮しすぎだから」
網がずるずると引き上げられている最中,何やら甲板から野太い声がひしめき合っている。
というか,何喋ってるかわかるし,ここは異世界じゃなかったのか?
「早く引き上げようぜ」
「今日の料理当番は誰だっけか?」
「その前にまずはトドメをささんとな」
「そしたら,皮剥ぎは俺がやろう」
「じゃあ血抜きは俺に任せろ」
よいさ!よいさ!と網がどんどんと引き上げられていく。
なんだか飢えた方々が沢山いらっしゃるようだ。
まさか,俺までついでに食わないよね?
そして,鳥さんと俺は甲板まで引き上げられた。
「おっしゃああ!全員槍を持てぇ!」
「うおおおおおお!」
え,ちょっと待って,俺に気づいてない!?
やばいやばいよ。なんだか飢えたおっちゃんたちが片手に槍を持って,今にも突き刺そうとしてるよ!
「ま,待ってくれーー!刺さんといてー!」
俺は,振り絞って大声を上げた。
その声に気づいてくれたのか,急に周りが静かになった。
「あん?なんだ?」
「うお!? 人がいるぞ!」
「おお,本当だ。どうしたんだこいつ」
「うほっよく見ると,いい男」
ちょ,最後のやつ。俺はノンケだから勘弁して下さい。
「なんの騒ぎだぁ!?」
「あ,船長。それにお嬢。それが,人が釣れたんでさあ」
「ああん?人だあ?」
「え,なになに?どうしたの?」
船内から,やたら割腹のいい髭面のおっさんと三つ編みのツインテールをしたキラキラと反射した綺麗な金髪の小柄な女の子が現れた。
女の子は網に掛かった俺のそばまで来て,しゃがみこちらを観察するように見てきた。
「……や,やあ」
俺が気さくに挨拶すると,女の子は目を細め,THEジト目でこう言った。
「なに,こいつ? 食えないし,捨てちゃえば?」
……誰か俺を助けて下さい。
追記2012年8月28日
ネタ説明
・ドナドナ~→売られていく仔牛の歌。童謡。
・九連宝燈→出る確率が極めて低い役満。和了ると死ぬを言われている。
・死の宣告→パーティ全員が死の宣告になったことがあるのは作者のトラウマの1つ。