21:ハイリスクハイリターン
俺とベティーは、途中色々話しながら歩いて、半焼したバン・シップメーカーズの前までやってきた。
その建物の前には、壁に背を預けているモナカがいた。
モナカはこちらに気づくと大きく手を振ってきた。
「お~い。マコト~!」
そう呼ばれて俺も手を振り返す。
それを見ると、モナカは小走りでこちらに近づいてきた。
「マコト。おはよう!」
「おはようモナカ!元気がいいな!」
「当たり前だよ!なんたって今日は絶対に勝たないと行けないからね!」
「そうだな。頑張ろうぜ!」
「うん!」
モナカは歳相応の元気の良さを取り戻していた。
うんうん。今のモナカになら「【f】いいね!」のボタンを押してやれるな。
「ちょっとマコト。この子は?」
クイクイと俺の服を引っ張って、ベティーが俺にそう聞いてきた。
「ああ、昨日言っただろ?こいつはモナカ。俺の恩人。モナカ、こいつはベティー。こいつも俺の恩人」
「お、恩人だなんて。ボクの方こそマコトに助けてもらったから。あ、ベティーさん初めましてボクはモナカ」
「初めましてモナカ。私はベティーよろしくね」
そう言って、ベティーとモナカは握手する。
「ん?あれ、あんた……」
「なんですか?」
握手をして、ベティーは何かを気にしたような素振りを見せた。
「ん、ん~ん。なんでもない。気のせいだと思うわ」
しかし、すぐにその考えを振り払って、ベティーはモナカから手を離した。
「よし。それじゃあ自己紹介も済んだところで、早速レースの準備をしますか!」
「うん!」
「ちょっと待ってよ。レースって?私何も聞いてないんだけど」
「あ、ああそういえば、言ってなかったな。今日俺達はスカイレースに参加するんだよ」
俺があっけらかんとそう言うと、ベティーは驚いたような表情を作る。
「ええ!? ちょっと、大丈夫なの?」
「まあまあ、取り敢えず中に入ろうよ。実際に見てもらったほうが早いと思うし」
「そうだな」
そうモナカに言われて、俺たちは機体が置いてある資材庫に向かった。
俺は機体を覆ってある布を取り外した。
目の前に現れた機体は、前方は流線型のフォルムで、ミツ◯カ自動車のオ◯チを小さくしたような形。
ウィングは機体両側面に幅制限ギリギリのラインで後方に伸びた形になっている。
操縦席は複座式にし、オープンカーのように開いている。
機体後方と下腹部に浮玉が付けられており、後方部の浮玉は機体から3分の1ほど外に露出している。
「どうだベティーなかなか格好いいだろ?」
「正直驚いたわ」
ベティーも空に生きる者の性なのか、興味津々といった感じで機体を眺めている。
「あ、そうだモナカ。スカイレースに参加する手続きとか俺わかんないんだが」
「大丈夫。それは僕の方がやっておくから、でもそれより、操縦者をどうしよう。僕はメカニック担当だし」
「なに言ってんだよ。俺がやるに決まってるだろ?」
「え?マコト。操縦とかわかるの?」
「まあ何とかなるだろ」
「え、えぇ~」
「大丈夫大丈夫」
モナカは心配そうに俺を見てくる。
まあ、車とバイクは運転したことあるし大丈夫だろう。
「まあ今から探しても間に合わないからいいけどさ。でも一回も試運転してないし、途中で故障とかしたら」
「おいおい、あの設計図はそんなポンコツが出来上がるように描いてあったのかよ」
俺がそう言うと、モナカはムッとした表情になる。
「そんなわけないだろ!」
「じゃあ、メカニックが自分が作ったものを信じてやらないでどうするよ。大丈夫だコイツは俺たちの期待に答えてくれるさ」
そう言って俺は俺たちが作った機体をポンポンと叩く。
モナカは、ポカンとした表情の後、目を真剣なものに変える。
「うん。そうだよね」
「ああ、そうだ」
そうして、俺とモナカはお互いに頷きあった。
ちなみに、ベティーは蚊帳の外であった。
俺はレースが始まるまでにやることがあったので、機体の登録等々の事務手続きをモナカとベティーに押し付けて、スカイレース会場に来た。
会場内は色々な人々でごった返し、熱気に溢れていた。
俺はその熱気にのまれながら、ある一角を目指していた。
「さあさあ!張った張った!今日の一番人気は、ヴィライン社製『フォーダー355』だよー!操縦者は、去年の覇者!『ゼプラー』だ!」
スカイレースのスッタフだろう男が、高台の上からメガホンを使ってそう叫んでいた。
その男の後ろには、行列が出来ていて、そこにいるやつらは全員、いわゆる馬券を買いに来た奴らだ。
そして、俺もその列に並んだ。
「お!おい。マコトじゃないか!」
「ん?おお、あんたは確かスポッグ」
並び始めて、別の列の横にいたのがスポッグだった。
「なんだよなんだよ。この前はそんなに乗り気には見えなかったのにな」
「はは、ちょっと俺も興味が湧いてな」
「いいねいいね。男なら、ドカンと一攫千金を目指さないとな」
スポッグは豪快に俺の肩を叩いて笑う。
そうしていると、周りからは、色々な声が聞こえてくる。
「おいおい、聞いたかよ。有力候補のアールワーカー社が棄権だってよ」
「そう言うなら、優勝候補のセルゲッティも怪我して、辞退したそうだぞ」
「今年はやっぱりヴィライン社のゼプラーで決まりだろうな」
……どうやら、憶測でしかないがヴィラインの被害に会ったのは俺たちだけじゃないようだ。
「ヴィライン社はあまりいい噂は聞かねえな」
スポッグがそう言って話しかけてくる。
「何か噂されてるのか?」
「ああ、公にはなってないが、有力な対戦者をうまいこと処理してるって話だ」
「そうか」
「下手に実績がある分、そこまでするかって意見もあって、信憑性は眉唾ものだけどな」
そう話している間も列は前へと動いていく。
「スポッグはどこに賭けるんだ?」
「ん?俺か?まあ、ヴィライン社のオッズは1.1倍だから賭けても大したことないしな。現在2番人気のオッズ2.3倍のラット社のチューネが妥当だろうな」
なんだろうそのちゅーちゅー五月蝿そうなレーサーは。
「なあ、バン・シップメーカーズ社のオッズ分かるか?」
「ああ、あそこか。一昨日の火事は話題になったからな。辞退すると思っていたが、今回も出場するみたいだ。まあ、元々中堅どころだったこともあるし、それに加えて火事だからな。オッズ自体は67.3倍の過去最高額だよ」
「なるほどね」
良い値だ。
「おい、そういうマコトはどこに賭けるんだよ」
「ん?俺か?」
俺がそう言うと、俺の列がスポッグより早く動き、俺が購入する番が来た。
「ようこそ。本日はヴィライン社製『フォーダー355』が一番人気となっておりますが、いかがなさいますか?」
受付嬢がそう聞いてくた。
俺は自分の懐から、革袋を取り出し、ドンと受付に乗せてこう言った。
「バン・シップメーカーズ社製『アバン3』一点買いだ」
俺がそう告げると、周囲に静寂が波のように広がった。
そして、一息入れて、ざわざわと一気に騒がしくなった。
「おいおいマジかよあいつ」
「バン・シップメーカーズって一昨日の火事起こしたところだろ?」
「あいつ頭がおかしいんじゃないか?」
そんなざわめきが聞こえてくる。
目の前にいる受付嬢もポカンとして、信じられないものを見ているようだ。
「あ、あの。お客様? こちらを全額ですか?」
「そう言ったはずだが? 売れないのか?」
「い、いえ。只今金額を確認致しますので少々お待ちください」
そう言って、受付嬢は皮袋を開いて、金額を確認していく。
「お、おいおい!マコト!お前正気か?」
隣にいるスポッグが大慌てで聞いてくる。
「ああ、至って正気だぜ」
「とてもそうには見えないんだがな」
「お前が言ったんだぜスポッグ。男ならドカンと一攫千金って」
「おいおい、それは方便だろ。本当にやるなんて、バカかもしくは大バカかだぞ!? 金をドブに捨てるきかよ!」
どこぞのゲームプロデューサーのようなことをスポッグは言う。
「どうしたんだスポッグ? 男なら夢を買い。宵越しの金は残さねえ。当然だぜ」
俺は少し挑発的にスポッグにそう言った。
スポッグはグッと苦虫を強く噛んだような顔をする。
「確認が終わりました。占めて332,670ノバックになります。本当に宜しいのですか?」
「ああ、頼む」
俺がそう言うと、周囲が大いに盛り上がった。
「あいつ本当に買いやがったぞ!」
「すげえ大バカもいたもんだ!」
「おいおい、誰かあいつが破産するか大勝ちするか賭けないか?」
「馬鹿野郎!そんなわかりきった賭けできるかよ!はははは!」
大半が俺をバカにする声であった。
俺は受付嬢に証明書をもらいその場を後にした。
「おい!おいマコト!」
モナカたちに合流しようと歩いていると、後ろから声を掛けられた。
それは息を切らせて走ってきたことが分かるスポッグだった。
「俺も、はあ、はあ、買ったからな……」
「え?何を?」
「バン・シップメーカーズだよ! これで文句は言わせねえぜ!」
「……あんたも、十分バカじゃないか」
「へ、へへ。これで負けたら俺はここで野垂れ死に確定だ。へへへ」
スポッグは恐怖でなのか武者震いなのか分からないが膝が笑っていた。
「安心しろよスポッグ。今日はその証明書が大金に化けるぜ。それが、シュタインズ・ゲートの選択だ」
「……へ、ははは。なんだそりゃあ」
スポッグはまだガクガク震えながら笑っていた。
そんなスポッグのためにも、もちろんモナカのためにも、俺は一層気を引き締めて、その場を後にした。
ネタ説明
・【f】いいね!→某ソーシャル・ネットワークのボタン。このボタンを押すと良い事があるかどうかは分からないが、少なくとも設置した人は喜ぶのではなかろうか?
・ミツ◯カ自動車→国産の高級車を扱うメーカー。その中でもオ◯チは厨二病心をくすぐる自動車。
・『アバン3』→決してスラッシュなんかはしない。
・金をドブに~→一時期超有名になったゲーム業界業界人。今はどうしているかは知らない。
・シュタインズ・ゲートの選択→この言葉には意味は無い。某ゲームで主人公が好むセリフ。未プレイの人は是非やるべき。
今日中に更新間に合いました。
私から1つ言えることは、悪銭身につかずです。
……この小説は関係なく、幾度と無く私は色々手を出してきましたが、正直一回も勝ったことがないんです。ビギナーズラックさえないという始末。みなさんも気をつけましょう。
謝辞
お気に入り登録が100件を越えました。
本当にありがとうございます。
では次回。




