1:ここはどこ?私は俺。
さて,今の状況を考察しよう。
俺が今立っているのは,大地。まあ,それは驚くところではない。
むしろ驚いているのは,さっきまで家の中にいたはずなんだが,いつの間にか屋外にいる。
若年性健忘症とか幻覚が見えるような病気を患っていないならば,家の外に出れば閑静な住宅が立ち並ぶ路地に立っているはずだ。
しかし,辺りを見渡してもあるのは草,木,花と,なんともまあ自然豊かな風景が広がっている。
「一体ここはどこだ?」
茫然自失とはこういうことを言うのだろうか。
まるで夢でも見ているかのような感覚さえする。
取り敢えず,セオリーに則り,自分の頬をつねってみた。
「まあまあ痛ひ……」
痛覚はしっかりあるようなので,現実なんだろう。
「どうしたもんかねえ」
俺はガシガシと頭を掻く。
正直いって考えても分からん。
厨二脳を働かせるなら,どこぞの組織が俺を眠らせて,この場所に連れてきたとか,実は隠れた能力が発現し,テレポートしたとか,そういった妄想は考えられるが,現実的じゃない。
誰が好き好んで,友人との麻雀でボロ負けして不貞腐れて3日ほど我が家で引きこもっていた大学生を拉致るだろうか。
……まあ,幸いにもTシャツ,半ズボン,室内用のスリッパは脱がされていないので,人としての最低限の尊厳?マナー?は問題なさそうだ。
「考えても仕方ないか」
本当のところ,発狂してわめき散らせるならそうしたいが,周囲の様子では誰もいないし,虚しいだけだろう。
取り敢えず,俺は歩くことにした。
俺が今歩いているところは,膝の高さぐらいの青く茂った草,チラホラと色づいている花々,体を包む少し冷えた心地良い風,その風に運ばれてきた澄んだ空気,視界の遠くの方で「メェ~」と鳴いていそうな白いモコモコしてそうな動物,一言で言い表すなら,THE草原であった。
大学では授業をパージ(エスケープ)したり,友人とは雀荘漬け,家に帰れば,唐揚げ・たばこ・酒三昧。そんな怠けに怠け,たるみきった俺の体にはこの大自然は心地いいものであると同時に,過酷な環境だった。
「はあ,はあ,はあ,べ,べつに発情してるわけじゃないんだからね!」
無駄にツンデレ風に言ってみたが,誰かが聞いているわけでもなく,ようは気を紛らすためだ。
「ふー,ふー,ふー,う,生まれるぅ~」
足からズキズキと痛みが生まれる。
歩き始めてまだ,30分ぐらいだろうが,舗装されていない道なき道がこんなにも足に負担がかかるとは思わなかった。まあ,スリッパということも関係しているとは思う。
フラフラしながらも,俺はようやく小さな池と小さい森,小池さんと小森さんを見つけた。
「休憩……しよう」
生水は体に良くないが,喉は渇き,幸い小池さんの水も底が見えるほどに澄んでいた。
俺はそのまま顔から池に突っ込み,水を飲んだ。
「…………ぷっはあ!生き返るー」
水はよく冷えていて美味かった。
水面に映る自分の顔を見てみる。
一重だが二重だが微妙なアイライン,太くもなく細過ぎない眉,高いわけでもなく低くもない鼻,黄色人種にしては白いほうだろう肌色,引き締まってはいないがだらしなくもない顎……うん,相変わらずのイケメンだぜ!
顎に鉄砲の形にした右手を添えてキメ顔をする。
……自分で思っていて悲しくなったので,俺は立ち上がった。
フツメンですフツメン。
取り敢えず,水分補給が出来たので,食えそうなものがないか俺は小森さんの中に入っていった。
ちょっと表現がいやらしいと思ったのは,きっと俺がオヤジ思考の体現者だからだろう。
少しでもこの過酷な現実から気を紛らわすため,さっきからどうでもいい思考を巡らしております。
取り敢えず,森の中に入った俺はスネークさながらに気配を消し(たつもり),Falloutよろしく遺憾なくスニーキングスキル(10)を発揮して森を散策し始めた。
しばらく,森の中を歩き,リンゴにしか見えない果実がなっている木を見つけた。
しかし,実はうまい具合に俺の身長より高いところにあり,ジャンプしても届かない。
しかも残念ながら都会っ子の俺には木登りスキルはない(キリッ
……ふぅ。
どうやら俺の旅もここまでのようだな。
なんかもうどうでもよくなり,トボトボと歩き始めると目の前に奇妙なものを見つけた。
それは切り株に突き刺さった斧であった。
俺は斧に近づいた。
斧を見ると,如何にも使い古されたもので,刃の部分なんかはあちこち欠けていた。
伝説の武器なんてことは99%ありえないといった感じだ。
せめて所有者はいないかと思い,耳をすませ,辺りを見回す。
…………誰もいないな。
よし,ラッキーもらっちゃえ♪
……助けがないという絶望を隠すために,俺は斧を手に持った。
「意外と重いんだな」
しかし,今の時代に斧とは,ここはアルプスの奥地とかなのだろうか?
取り敢えず,斧を肩に乗せて先ほどの果実のなる木まで戻ってきた。
「せーの!」
俺は思い切って斧を振る。
ミシと音が鳴り,木の幹に斧の刃が入った。
俺は木に足を掛け,斧を引きぬいて,もう一度振る。
刃は先程より深く入った。
そんな風に6回ほど繰り返すと,木は傾き,足で傾いた方へ蹴りだすと,木は見事に倒れた。
俺の中で少し感慨深いものがあった。
木を切り倒すとかちょっと新鮮だったからだ。
倒れた木から果実をもぎり取り,Tシャツの裾で軽く拭き,齧り付いた。
「………………」
感想を述べると,歯ごたえは間違いなくリンゴのシャリシャリとした感じなのだが,味は俺が知る中で一番近いのはバナナであった。
シャリシャリしているのに,バナナのようなじっとりとした甘さ。
一噛み一噛みするたびにバナナの感触やリンゴの味も脳内で再生され,味覚のゲシュタルト崩壊が起きていた。
腹を満たせれば良いと考え,俺はその果実を食べていった。
食べ終わった俺は,Tシャツを俺は脱ぎ,余った果実を包んで斧に掛けた。
大自然に肌を晒すこの感覚は少し快感であったとだけ覚えておこう。
食料と武器(?)を手に入れた俺は,再び森の中を歩き始めた。
次なる目標は,衣食住から考えれば「住」の部分,つまり今日の寝床探しだ。
正直,楽しかったが斧を振ったことで,俺の体力は尽きかけていた。明日は筋肉痛は間違い無いだろう。
そのためにも,今日の寝床は安心して寝れる場所が欲しかった。
そして,俺は今日の寝床を見つけ…………ることは出来なかった。
日が夕焼け色にすでになっていた。
まだ夜までは時間がありそうだが,長くはないだろう。
さて,こういう風に上手くいっていない時に心配事は立て続けに起きるものである。
ワォオオーーーン
はい,来た!
遠吠え頂きました!
てか,こんな森の中で寝たら間違いなく明日の朝には,オレオマエマルカジリされて,骨だけになってる自信があるね!
「うんヤバイ!どうしよう!」
声に出しても状況は変わらないね。
俺は,ない知恵を振り絞って考えた。
そして,考えぬいて思いついたこと,それは……
「寝床が無ければ作ればいいのさ!」
minecraftで鍛えた俺の建築技術を駆使すれば,たとえ緑の悪魔(キノコじゃなくて匠)がいようとも崩壊しない小屋を作れるさ!
こうなりゃ現実的な思考なんて無視だ無視。
まずこの状況になったことが,非現実的なんだから,とことんやってやる。
俺は「ヒャッハー!」と空元気を雑巾を絞るように出して伐採を始めた。
そして,いよいよ日が暮れそうという時に,目の前には伐採された丸太が並んでいた。
というか火事場の馬鹿力ってすごいな。
丸太とか絶対運べないと思っていたが,意外に1,2本頑張って運んだ後は慣れたせいか比較的簡単に運び出せた。
後は組み立てるだけだが,果たして間に合うだろうか。
小屋を作るのが先か,骨になるのが先か……こ,これがDEAD OR ALIVEってやつか――!
と,そんなことを考えている時間が勿体無いので俺は丸太をキャンプファイヤーのように重ね始めた。
そして,日も完全に暮れて目の前には俺の身長より少しだけ高いキャンプファイヤーが出来た。
正直,こんなもので野生動物から身を守れるかは定かではないが,無駄に達成感だけはあった。
取り敢えずよじ登って斧を片手に中に入り座り込んだ。
丸太と丸太の間は割りと隙間があるので,三匹のコブタの家の耐久度で表すなら,
藁の家<俺の家(?)<<木の家<<<<レンガの家
といった感じだろう。
ふう,お経でも唱えとくかな。
せめて,この丸太を加工して,木の小屋にできたらなあ
そう思いながら,俺は丸太に手を置いた。
――――ッ
「………………」
俺は信じられない物を見た。
手に触れた丸太が一瞬で木製の壁になり,俺が思い描いたものに近い小屋の中に座っていた。
そう例えるなら,
「なんということでしょう。あの隙間だらけのみすぼらしい小屋とも呼べない丸太の組み合わせが,美しく加工された木製の山小屋のようになっているではありませんか」
といった感じだ。
あまりの出来事に現実逃避をしてしまった。
取り敢えず,かなり狭いが大人三人ぐらいは川の字のように横になれるぐらいのスペースとなった小屋の中を見回す。
狐にでもつままれたのではないかと本気で思う。
小屋の隅にわずかに残ったようなとても短い丸太があった。
俺は試しにそれに触れてこう言った。
「美少女になれ!」
………………
……やめてそんな(木)目で俺を見ないで。
しかし,どうやら想像が現実になるようなどこぞのライトノベルやサンデーでやっていた漫画みたいになるわけではないらしい。
もう一度,やってみた。
「高級中華になれ!」
ぐぅうぅぅうぅ
俺の腹がなっただけだった。
取り敢えず,昼間採った果実を囓りながら考えてみる。
さっきオレはなんて考えただろうか?
確か,丸太がせめて木の小屋になればとか思ったよな。
ん?そう言えば,加工してとか思ったっけ?
……まさかな。
俺は短くなった丸太に手を置き,考えた。
(この丸太を加工して椅子になれば……)
――――ッ
「おおおお!」
なんと,丸太が木の椅子になってしまった。
これはつまり,元々の素材から作れるものは即作成可能であるということだろうか?
もしそうなら,
これは――!!
しょぼい。
なんてしょぼい能力なのだろうか。
せめて,魔法無限に撃てるとか,どんな攻撃も効かないとか,美少女限定で魅了できるとか,美少女メイドロボを作れるとか,美少女獣耳を召喚できるとか,そういったチート能力が欲しいかったのに。
こんなに場所に連れてこられて,せめて身体強化(フィジカルブースト)ぐらいはデフォルトでつけとけよ!
悔しい……悔しいのう。
そして,俺は作り上げた椅子に座り,
「真っ白に燃え尽きたぜ……」
と言い残し,長い一日を眠りとともに幕を閉じた。
久々の投稿なので,誤字脱字等ございましたらお教え下さい。
追記2012年8月28日
ネタ説明
・小池さんと小森さん→単なる言葉遊びだが,小池さんはラーメン好きの方,小森さんは絶望してる先生に出てくる引きこもりちゃんをイメージしてました。
・スネーク~→大ヒットゲームの主人公,今はビックボスとか呼ばれてような希ガス。
・スニーキング(10)→作者は3しかまともにやったことがない。ちなみに10はとても低いので,まず敵に見つかる。
・minecraft→作者がとってもハマってるゲーム。2000円ぐらいで買えるからオススメ。購入手順はVプリカを使えば簡単に買える。
・なんという事でしょう~→ビフォア・アフター。個人的にはそれでいいのかとよく思う。
・想像を現実に変える能力→サンデーのやつは,うえき◯法則って漫画で確か出てきた。