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エンディング トリガー・ハッピーエンド。

 ★★★★


  シブキさんの語りを一晩中聞いていたら、夜も更けていた。

 もうすぐ夜明けも近いところをみるとかれこれ六時間は話していたのかもしれない。

 富山しずるのこと。

 百薬の長のこと。

 そして、呪いの真相のこと。

 すべてを聞いて、ついにふたりとも沈黙してしまった。


「キミはこれからどうするんだ? 呪いが解けたのだから年相応に高校へ通うもいいだろう。まだ時期的にも間に合うだろうから」


「やりたいことを見つけました」


「ほうそれは興味深いな。聞かせておくれよ」


「シブキさんの傘下にある百薬の長を探すチームに入りたいです」


  シブキさんは口をあんぐりと開けている。

 驚くのも無理はない、死ぬほどの思いをしたにもかかわらずまた他のルートへと潜ろうと言い始めたのだから。

 自分でも内心驚いているーーここまで前向きに目標を立てたのは生まれて初めてかもしれない。


「い、いいのか? まだ傷も癒えてないのにそんな決断をしてしまって……。私が言うのもなんだが、いまから高校受験よりハードだぞ」


「はい、さしあたってシブキさんにお願いがあります」


「聞くだけ聞いてあげよう」


「しずるの使った”血飛沫”と”紙吹雪”をください」



  シブキさんは困ったように頭をかき始めた。

 しずるの遺品であるこれらは富山グループの所持品である。いわずもがな相当高価な代物であり、はいそうですか、と他人に渡せる代物でもない。

 それでも、お願いするしかなかった。


「どうしても、というのなら譲ろう。私のあげたブロークンハーツは壊れてしまったらしいし、なによりしずるが喜ぶだろうからそうしてあげたい」


「恩に着ます」


「やれやれ、これでまた報告書を改ざんしなければならなくなった。この事はくれぐれも他言無用で頼むぞ」


 そう言って、シブキさんは椅子から立ち上がる。

 もう用はない、と言わんばかりに背を向けて歩き出した。

 後ろ姿もみとれてしまうほど格好良かった。


「あ、そういえば」


「ん? まだなにかあったか?」


「結局、最初のあの電話の意味って何だったんですか?」


「最初の電話?」


 シブキさんは怪訝そうにオレを見据える。

 必死に記憶の中からオレの話している電話の内容を思い出しているのか、指を鼻の前に当てて、明後日の方向を向いていた。

 どうやら演技でもないらしい。


「ほら、あの『キミは本当に私の妹と一緒にいるのか』って意味深に問いを残したじゃないですか。あれのおかげで最初の部屋では命拾いしたんですけど、意味が分からないんですよ」


「ん? んんんん? 何を言ってるのかさっぱり分からん」


 なんとも歯車が一致しない気持ちが悪い感覚に陥る。

「一体いつの電話のことだ?」とスマートフォンの着信履歴を調べ始めたけれど、やはり答えが見つからないようで、彼女はオレがからかっているのでは、と疑うような眼差しを送っていた。


「はっきりと言うが、私は上陸前にキミへ電話などしていない」


「へ? でも確かに履歴があるんですけれど」


「……キミは騙されている。その番号は私の携帯電話ではない。なぜなら、キミの携帯電話には『富山シブキ』が二件も登録してあるからだ。この偽物の私からかかってきたのだろう」


「誰がそんな真似をするんですか」


「そんなこと私が知るものか。間違いないのは、これをやったヤツは確実に直接キミのスマートフォンに触れて、私の名前でアドレス登録していることだ。私に扮して発言したかった人物だ」


 ひとりだけ、心当たりがあった。

 この携帯電話に触れられる位置にいながら、電話の最中には姿を現さなかった人物がひとりだけ。

 つまり、富山しずるか。


「なるほど、そもそも私はしずるのことを『私の妹』などとよそよそしい言葉で濁さないしな。私の忠告ならばキミは言うことを聞くと考えたわけだ。本当にかわいいしずる」


  いつまでも愛しているよ、とシブキさんは呟いた。

 その声も、彼女の歩くヒールのカツカツと響く音にかき消されて、よく聞こえなかった。

 シブキさんはオレなんかよりしずるとの付き合いは長いし、目に入れても痛くないほど溺愛していたのだから本当は泣き喚きたいのだろう。

 しずるの悪戯さえ、彼女には愛おしいのだ。


 ★★★★



 富山シブキが病室から去って、オレだけが取り残された。

 そして、シブキさんがわざわざ寄越してくれたバックから真っ赤な銃・血飛沫を取り出す。

 オレの手のひらよりちょっとだけ小さい銃に、富山しずるの面影を感じていた。

 彼女の血の臭いはもうしないけれど、確かに彼女のものだと実感できる。


 不器用に左手で血飛沫を持ってみた。

 想像よりもズッシリと手応えのある銃の重みに彼女の凄味と尊敬の念を感じる。

 けれど、もう泣き出すことはなかった。

 彼女の残したトリガー・ハッピーエンド。

 幸せだと散っていった彼女に、目を閉じて問いかける。


 ーーーなあ、聞こえてるか。しずる。

 お前の思いは無駄にはしない、百薬の長を見つけてやる。

 そして、この世から呪いで泣く人たちをひとり残らず救ってみせる。

 途中でくじけるかもしれない、野垂れ死ぬかもしれないけれどやってやる。

 ーーーこれから、精一杯に生きてよ、とお前は願った。

 ならばどれだけ格好悪くなろうとも、お前との約束は破らない。


「さあ、行こうか。しずる」


 ーーーだって、右手の誓いは絶対だもんな。



                     ~END~


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