50 呪いの真相
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富山シブキは”富山しずる”の過去について語った。
いまとなっては医科薬学部門において世界的権威を持つ富山グループも、かつて倒産の危機に直面したことがあるらしい。
研究職は常に膨大な資金提供のもとで成り立っている。
富山グループも例外ではなく、多額の負債を抱え込んだまま打開策を見いだせずに時間だけが過ぎていた。
そこで、富山しずるが声をあげた。
彼女は生まれつき身体が弱かったが、それは独特な遺伝子配列のタンパク質を持っているためであった。新種のタンパク質は”輸血された血中内で形状を整形する”というものである。
「私の身体を使ってよ。それだけの価値はあると思うから」
つまり、彼女の血漿は血管細胞に直で癒着し、新しい血管として機能するというものであった。
オレにはよく分からないけれど、とてつもない発見であったらしい。
血管を破損する前に彼女の血液を注入すれば、まったく新しい血管へと生まれ変わるのだから。
ありていに言ってしまえば不老不死の薬である。
定期的に相当量を打ち続けなければならない、という条件付きではあるけれども夢ではない段階まで駆け上がったのである。
富山しずるは自らモルモットになる覚悟を決めた。
彼女の細胞は”シズル細胞”と呼ばれ、瞬く間に研究は軌道に乗り、全世界にセンセーショナルを巻き起こした。
人類の夢、不老不死の可能性。
血液型を選ばずに、移植する必要もない再生医療に世界中が湧いた。
富山グループの躍進により、彼女は犠牲になったのだ。
そして、しずるのおかげでノーベル賞を受賞し、一躍スターになったのである。
脚光を浴びるやいなや、国が総力を挙げて資金提供に乗り出した。
いままでの態度は一転、手のひらを返すようにとはまさにこのことだろう。
そして”シズル細胞”のおかげで富山グループは救われたのである。
しかし、嬉しいことは続かなかった。
彼女の細胞は、病魔に冒された特定の人の体内に入ることで未曾有の毒へと変形する事実が発見された。
その途端に臨床実験は中止になり、”シズル細胞”は実現不可の烙印を押されたのである。
この問題をクリアするために、富山グループは彼女からさらに搾取した。
彼女自身の限界を無視して、様々な実験を試みた。
この頃は、あまりに酷い扱いをする研究チームとシブキさんが喧嘩になったけれども、搾取される富山しずるは笑顔で間に入ったらしい。
「やめてあげて、あたしは大丈夫だから」
だれの目からみても、明らかに無理をしていた。
その無理は、彼女の身体から寿命を徐々に吸い出していった。
彼女はおぼろげながら気付いていただろう。
あと数年と持たずに、この身体は朽ちてしまうと感じていただろう。
けれど、富山グループのために文字通り身を粉にして働いたそうだ。
そして、運命の日が訪れる。
研究中の”シズル細胞”を泥棒が盗み出した。
まだ副作用の原因は分かっていないにも関わらず、もう寿命が近い”だれか”が待ちきれずに手が出たのだろう。
何事も起きないよう切に願ったけれど、思いは届かなかった。
むしろ最悪の形で発見されたと言ってもよい。
それが、オレの弟が刺されたあの暴漢事件である。
しずるが言った”犯人を狂わせた薬”とは彼女の”シズル細胞”のことであった。
この事実を彼女は知らされなかったけれど、しずるは天の邪鬼によって聞かされたのだ。
そこで氷見ゆうのすけの”呪い”のことを聞いて、”百薬の長”による奇跡も知ることができた、
彼女にとって絶望でしかない状況で、こう言ってのけた。
「彼にかける呪いを、あたしにかけて欲しい」
しかし、ひねくれ者の天の邪鬼は頷かなかった。
富山しずるも話していくうちに”逆さ言葉”を理解していき、ついに”呪いの半分”で手を打つことになったのだ。
結果的に、氷見ゆうのすけに降りかかる”即死級の呪い”を半減させたのである。
「お前にとっておきの呪いをかけてやる」
天の邪鬼はそういうと、彼女の舌に焼き印を押した。
『飛』と『鳴』が入ったデザインの烙印ーーー『鳴かず飛ばずの呪い』である。
この呪いを受けた者は今後一切の活躍を評価されず、泣くことも跳躍することも封じられてしまう代物である。
致命的な三重苦が彼女を襲った。
けれど、そのおかげで彼女は研究対象から外されていったのである。
”シズル細胞”の培養にも成功していたので彼女は用済みとなったらしい。
それから、自由になった彼女は”百薬の長”を探すために心血を注いだ。
他人を呪わば穴二つ。
この世で自分を呪ってくれた少年を助けるために、希望を持ったのである。
以上が、シブキさんの知る”呪いの真実”であった。
話を聞き終わると、オレは泣いた。
いままで押さえつけていた涙腺のタガが外れてしまったのだ。
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