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47 地震と決着、そして……。

 ★★★★


  イカサマと接触するのを感じる。

 やつが突き出してきた極上の抜き手が心臓を抉ろうと突き出されたのも記憶に新しい。

 もはや躱すための機動力と気力を失ったオレに出来ることなどない。

 しかし、どうやらオレは悪運が強いらしい。

 交錯する刹那、イカサマの抜き手は心臓から少しだけ右へ逸れたのである。

 それはきっと”あまのじゃくの呪い”による恩恵であるだろう。

 砕けたアバラ骨の上を皮一枚だけ抉っていくだけであった。


 そして、オレはイカサマの抜き手を脇に挟みこむ。

 ガッチリと二度と離さないように、全神経を右脇に注ぎ込んだ。

 決して逃がすことのないように。


「チィッ、そう何度も通じると思うなよッ!」


 イカサマはオレの左手首を掴む。

 そうすることで”あまのじゃくの呪い”そのものを殺そう、という考えであった。

 しかしなかなかどうして鋭い。

 こうされてしまえば”トリックスタン”も使うことができないのである。


「忌々しい呪いをこのまま手首ごとぶち取ってあげるよ」


「こ、これが……最後だ」


「……な、何をしている!?」


  ”あまのじゃくの呪い”が金色に輝きだす。

 毒々しかった呪いの痣から、まるで太陽を間近でみているかのような強烈な輝きである。

 目を凝らさずとも分かる圧倒的な質量と黄金の意志。

 イカサマの手を払いのけるには十分過ぎるパワー。

 これは呪いそのものが持つ特異性なのだろう。

 ヤツにたたき込むのに一秒もかからない。


「ふざけるな、ボクを誰だと思っているんだ! 偽薬・本命を使いこなせる人間なんだぞ! 選ばれし者なんだ! どれほどの希少価値があるかわかるだろう! ボクは人類の宝なんだ! ここで傷でも付いたら人類の大損しーーーー」



「惨殺した人たちに、地獄で詫びろーーーッ!」



 オレの左手はよりいっそう輝きを増す。

 そしてーーー所有者の意志とは関係なく、しかし本人の真心に沿った形を以て。

 イカサマの胸部に、灼熱の一撃を浴びせるのだった。


「あ、熱熱熱、あつうううイィィイィィーーーーッツ!」


 イカサマの胸に大きな星形が刻まれる。

 いままでにない発熱量と呪いの伝わる感触が確かな手応えを持っていた。

 

 身体が水ぶくれのように腫れてくる。

 まるで風船みたいに膨れあがった身体は徐々にではあるが、皮膚を内側から引き裂いていく。

 ここから先は地獄の苦しみであろう。

 イカサマは胸を搔きむしりながら、たまらず部屋を飛び出す。

 ルート内全体に届きそうな奇声を発しながら、奧へと消えていった。

 そして叫び声がなくなったかと思うと、タイヤのパンクするような音が聞こえた気がした。

 もう永遠に聞こえることはないだろう。



   ★★★



「これで、もうーーー」


 誰かが偽薬の長に殺されることはないだろう。

 それだけで、充分に意味がある戦いだったと言える。

 それからヤツの遺体から偽薬・本命を剥ぎ取っておかないといけない。

 あんなものでも、しずるの研究材料くらいにはなるのだろうから。


「もう、いかないとーーー」


 起き上がろうとして、壁にぶつかった。

 どうしてこんなところに壁があるのだろう? さっきまでなかったのに。

 しかも、壁は塗れていた。

 べっとりと嫌な感触が頬を伝い、手にこびりつく。

 壁は重くて動かないうえにぐんぐんと身体を引っ張ってくる。


「あれ、おかしいぞーーー、これって」


 壁から離れようと力を込める。

 何度も、何度も、何度も。

 そして、ようやく思い至った。

 壁じゃなくって、地面だった。

 手の滑付く感触は、オレ自身の出血であった。

 じゃあこの状態は、つまりーーー。


「ああなるほど、地面に倒れて……起き上がれないだけか」


 ーーーそんなことか、と安堵する。

 別に急に変な部屋へ飛ばされたわけではないのだ。

 とりわけおかしな生物に襲われているんじゃないらしい。

 まさか、夢オチであるとも考えづらい。

 ただ、出血多量で倒れただけなのだから。


 むしろ正常だ。

 ここまで無茶を繰り返せば、ぶっ倒れない方がどうかしている。

 どうもおかしな連中に合わせていたせいで、勘が鈍ったのかな。

 いつの間にか、うめき声さえあげられなくなっている。

 でも、やれることはやりきったから。

 後悔はもうないのだ。このまま死なせてくれ。

 もう満足だから、あとは弟のところへ行くだけだ。

 もう、満足…………。




「やっぱり、ダメだ……怖い」


 死ぬのがたまらなく怖い。

 身体の芯から熱が逃げてく感覚が怖すぎて、寒くもないのに鳥肌と汗が噴き出る制御不能な身体が恐ろしくて、避けようのない絶対的な『死』を前にしたら、絶望しかない。

 どんだけきれい事を並べようとも、死にたくない。

 格好良くても死にたくない。

 無様になってでも生き延びたい。

 そう、さっきのハイな状態からでは想像できないほど後ろ向きな発想だ。

 やっぱり、死ぬ直前まで冷静さを続けるのは無理があったのだ。

 現実から、どこか知らない場所へと飛ばされるような感覚。

 それがたまらなく怖かった。


 弟もこんな気持ちで死んでいったのか。

 こんな恐ろしいことの先へと行ったのか。

 行ったら戻ってこれない場所へ。

 だれしも必ず通るであろう場所へ。

 怖いーーー死にたくない。


「怖いんだったら、まだ死んじゃダメだよ」


 そんな格好悪いあえぎに、律儀に答えるひとの姿があった。

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