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46 煙霧(えんむ)の先にあるもの

 ★★★★



  たったの一撃で逆転されてしまった。

 殴られた勢いで背後にある石像をなぎ倒しても、即死に至ることはなかったらしい。

 これもすべての動きを逆転させる”あまのじゃくの呪い”ーーーそれをイカサマの脊髄にたたき込んだ”トリック・スタン”のおかげである。。

 しかし、それでもなお強力すぎる拳打であった。

 呼吸をするのもしんどくなってくる。

 興奮状態が続いているのか、ビックリするほど痛みがない。

 意識は覚醒しているけれど、肝心の身体が思い通りに動かなかった。


「キミには驚かされたよーーーまさかここまで、苦戦させられるとは思わなかった」


「…………あう、」


「神経を誤作動させる呪いがこれほど強力だなんて……夢にも思わなかった。こんな恐ろしい呪いはこの世に残してはおけないよ」


 仰向けに寝転がるオレの傍らにたたずむイカサマは言う。

 どうやら、立っているのもやっとの状態であるらしい。

 それでもピカイチの『剛柔スーツ』の頭部は棘のデザインが施されているので、そこで思いっきり急所(たとえば首なんか)を狙われたらひとたまりもない。

 事実、イカサマもそのつもりでいる。


「”あまのじゃくの呪い”もし火薬・肘鉄がトリックスターとぶつかっていたならば、負けないにしろ使い物にならなくされていたかもしれないよ。そして、偽薬・本命の特性が『脱皮』でなかったなら勝負は決していただろうね」


「し、しぬのは……」


「まだ喋る元気があるのかい? もう立ち上がることもできないだろうに」


 確かにその通りである。

 足は今の一発で言うことを聞かなくなり、肋骨は完全に砕けてしまった。

 せっかく出口に近づいてたのに、反対側へと吹っ飛ばされた。

 これでは、もう逃げることさえできない。

 それでも喋らずにはいられなかった。

 最後くらい喋らせてほしかった。。


「……死ぬのは仕方ないことだ。オレは人間を殺しているから、覚悟していたぜ」


「……、……」


「だけど、オレは未来を託された人間だ。いろんな人の意志を受け継いでここにいる。お前みたいに他人の面をしてのうのうと生きてる人間にわからんとは思うがよ」


 息を詰まらせ、思わず咳き込む。

 肺から出た血が抑えた掌にべったりとくっついた。


「オレの弟は、クラスの奴らを庇って死んだ。薬中の暴漢を羽交い締めにして、死んだあとも絶対に離さなかったと聞いたぜ。そんなすげぇ弟の兄貴なんだよ」


 ゆえに、背負っているものが違う。

 はかなく散っていった、弟の遺志を継いでいる。


「だから、せめてオレもひとりくらい守らないとなぁ」


 ーーーあの世の弟に、あわせる顔がないぜ。



  不思議と、オレは立ち上がっていた。

 人間は死ぬ直前ーー息絶える数十秒前にはむしろ元気になる、と聞いたことがある。

 まるで蝋燭の火が最後のろうを燃やしきろうと猛るように。

 すべてを知ったところで、思ったよりも全然怖くない。


「オレが憑かれた”あまのじゃくの呪い”は引き金だッ! ひねくれたオレに真心を取り戻してくれた”変わるキッカケ”だったッ!」


  だから、決して無意味じゃない。

 この呪いは、充分に尽くしてくれたのだ。


 イカサマは、瞬時に動き出す。

 もう目で追うような真似はしない。

 逃げることも、さして意味はないのだから。

 その代わり、オレは思いっきり吠えた。

 天国にいる弟にも聞こえるように、声を張り上げた。


「しずるーーーッッ! オレを蝕むこの呪いッ! つかってくれーーーーッ!」



 しずるの泣きじゃくる声が、聞こえた気がした。



 ★★★




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