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43 真贋の交わりを超えたもの。

 ★★★★★



  本間正義だったものーーイカサマと対峙する。

 その姿はすでに富山しずるのシンボルである浴衣を脱ぎ去っている。

 初めて出会ったあのころのパーカーに悪趣味なTシャツを着ていた。


 ーーーいつの間に着替えたのだろう?

 そういえば、浴衣の残骸も見当たらないのはイカサマのヤツがすでに隠したからだろうか。

 なんて考えを張り巡らせながらも間合いを詰める。

 弧を描くよう、徐々に円を小さくしてゆく。

 これに対して、イカサマは余裕でもあるらしくポケットに手をつっこんだままの状態であった。


 ーーーあまりに無防備である。

 こちらの”あまのじゃくの呪い”を甘く見ているのだろうか。

 ならば、好都合である。

 この『あまのじゃくの呪い』はいわば一撃必倒の技だ。

 触れたものに”逆さ天の字”を焼き付け、相手の動きをあべこべにしてしまう呪いなのだ。

 つまり、左手で相手に触れれば、条件を満たす。

 多少のタイムラグがあるけれど、相手に触れてから二秒もあれば発動するのである。

 受呪箇所が神経の集まる重要部位ーー頭部や脊髄などならばまとめてあべこべにできるのだ。

 有効時間は五秒。

 それだけ有れば、戦闘不能へと持ち込める。


「お前はここでぶちのめす!」


  最初に動いたのはオレだった。

 股間へ向かって蹴り上げた前足ーー大きく振りかぶった足を両手でガードするイカサマに対してのフェイント。

 蹴り自体をガードの両手に接触する寸前で止め、思いっきり前へと踏み出す。

 おかげで息のかかるほど近くにまで接近できた。

 そして、イカサマの右手を掴んだ。


 ーーよし、右手もらった。

 完璧なタイミング、おおよそ反撃の瞬間を与えない連携攻撃。

 右手だけでも奪えれば、イカサマといえど混乱する。

 パニック状態の相手の急所へ決死の一撃を叩き込めば、問題なく再起不能だ。

 そして、”呪い”を送りこもうと力を込めたところで気付いた。


 ーーー握ったイカサマの、右手の感触が消えたことに。

 理解が及ばなかった。

 無理もない、たしかにオレの手には”イカサマの手だったもの”がまたあるのだから。

 それは、ゴム手袋に似ている。

 イカサマの手が、ヌルリと日焼けで皮が剥けたかのように取れたのである。

 初見でのショックは、あまりに大きかった。


「ぎゃはは、腕が取れちゃった…………なんてね」


 イカサマの笑い声だけが、ホールに響く。

 途中で石像の影へと姿を隠し、目で追いきれなくなった。

 この石像、ざっと見積もって二メートルはあるから人が隠れるには絶好の場所である。

 そして、真正面の石像の影から姿を現したのは高水義正としてであった。


「お前、変なからだしてるのな」


「驚いたかい? これが偽薬・本命だよ」


 イカサマは面の皮をぐいっと引っ張る。

 すると、まるでゴムかマスクであるかのように伸びたのである。

 まるで怪盗が変装をする時に使う定番の変装マスクのようだ。


「つまり脱皮したのさ、今みたいにゆで卵の殻を剥くようにツルンと取れるんだ。そうすることで脱皮を繰り返し、繰り返し、繰り返して認識した他人へと姿形を変えることができる。情報収集や暗殺にはもってこいの秘薬だとは思わないかい」


「……ひん剥くのに手間がかかりそうだ」


「まだそんなことを言ってるのかい? ボクは今まで数え切れないほどの人に化けてきた。つまりキミとはくぐって来た修羅場の数が違う、経験の差が天と地ほどあるんだよ。キミの思いっきりの良さは買うけれど、それももう憶えたよ」


 やれやれ、厄介な相手だ。

 これじゃあ二秒も掴んでいられるか。

 それ以前に、どうやってあいつに”あまのじゃくの呪い”をぶちこんでやろうか考えていたのにこのままではつかみ取ることさえできないではないか。

 つまり”あまのじゃくの呪い”を使えないのか。


「そして、とっておきの駄目押しをしてあげるよ」


  もう一度、石像の影に隠れる。

 そして、何度か骨がバキバキに砕けるような破壊音が数度だけ響き渡る。

 石像の影でなにが起こっているのか見たくない。

 まるでストリップショーでもしているかのように、イカサマの脱皮は繰り返される。

 徐々に皮が大きくなっていくのは気のせいではない。

 嫌な予感がする。

 この状況において最高の駄目押し。


 動く度に生じる甲冑の摩擦音。

 ゆうに二メートルはあろう見上げるほどの巨体。

 ヒーローを象徴するマント。

 オレの知る中で最高の攻撃力を持つスターのお出ましだった。


「偽薬・本命+ピカイチの鎧『剛柔ごうじゅうスーツ』+”ドクター狩りの達人”イカサマ。百薬の長シリーズをひとりで二つも使ったスペシャルモードだ」


「お前、ピカイチさんの遺品まで荒らしやがって」


「死人に口なし、だよ。そんなことより自分の心配をしたらどうだい? このモードはキミがあれほど追い詰められたミスティを一撃で屠ったピカイチのものなんだぜ」


 あの時、ピカイチさんと初めて出会ったときの事を思い出す。

 難攻不落、堅牢無比の悪性新生物”ミスティ”を彼は一撃で屠ってみせた。

 あまりに芳醇で贅沢な一撃。

 さながら必殺技のような豪快さである。


「どうやら、腹をくくるしかないみたいだ」

 深呼吸して身体のちからを抜ききる。

 この物語のフィナーレは近い。


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