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42 左手に握られた真心。

 ★★★



  富山しずるがすべての元凶であった。

 彼女が天の邪鬼を生み出したのは別段驚くに値しない。

 百薬の長シリーズに対抗する”限定武装”も彼女によって造られたものだからであろう。

 それでも、彼女が”呪い”を生み出したのはビックリした。

 この呪いは”俺が向けた呪いの代償”ではなく、彼女から発信されたものであった。

 つまり、俺の呪いは弟を殺した犯人には届かなかった。

 この呪いは、富山しずるから受けたものだった。

 じゃあ、どうしてあいつは死んだのだろう?

 どうして富山しずるが俺に呪いをかけたのだろう?

 わからないことだらけではあるけれど、どれも真実だ。

 富山しずるが”嘘”を吐けない以上、紛れもない本当のことだ。

 だから、俺は恨んでやる。

 せめて、俺の身体をこんなわけのわからない病気で蝕んでくれたあいつに精一杯の怒りを込めて。

 こんなところまで引っ張り回してくれた鬱憤うっぷんをすこしだけ乗せてやる。

 ーーー俺は、目的を間違えない。

 呪いを解くためならば、なんだってやるんだ。

 そう決めた、だから立ち止まらない。

 ーーーそう、心に決めていたのに。



 ★★★



「これは一体、どういうことかな? トリックスター」


 気が付けば、俺の手は血まみれになっていた。

 そして、高水義正の手はもっと血を被っていた。

 無理もない、握手を求めた右手に抜き身の短剣”ブロークンハート”を突き刺されたのだから。

 傷口から今もなお噴き出す血を目の当たりにして、現実へと引き戻される。

 もちろん、実行したのは俺の左手だった。


「あーあ、やっぱり無理だったか」


 内心、クスリと笑ってしまう。

 俺の思い通りに動かない左手の呪い。

 いまこの瞬間までそう勘違いしていた。

 むしろ真逆だった。

 この呪いは誰よりも純粋に動いていたのだ。

 ”あまのじゃくの呪い”

 これは、ものすごく正直ものにしか扱えない呪い。

 理性、利害、あらゆる要因を除外してでも”やりたいことを押し通す呪い”なのである。

 動かそうとしたら、動かなかったのは『本当は動きたくなかっただけ』

 手を握ろうとして、閉じてしまうのは単なる『反抗心』から来るものだったのだ。

 自分に”命令されること”を拒んだ結果なのだ。


「俺の理性はあんたに付いていきたい。けれど本心は違う、俺の左手にある”あまのじゃくの呪い”が許してくれないんだ。その結果がいまの返事みたいだ。自分でもなにを言ってるのか判らないけれど、とにかくダメなんだ」


「気にすることないよ。僕は心が広いから、このくらいのヤンチャは許してあげる。今からでも遅くないから僕と一緒に来ないかい?」


「だから、無理なんだって。俺の”真心”ってやつが離してくれない」


「どうしてでも……」


「ああ、誘ってくれて悪いけど」


 高水義正は顔を上げない。

 もう五メートルほどしか間合いを開けていないので一息に速攻をかければ仕留められる。

 けれど、やつの不気味な様子に二の足を踏んでしまう。

 怖いのではなく、不気味なだけ。


「なら、しかたない。キミの冷静な判断力は買っていたんだけどね。その”あまのじゃくの呪い”が憑いた左手を回収させてもらおうか」


 ブロークンハートが爆ぜた。

 エッジだけではなく、グリップも一緒になって砕けてしまう。

 もう二度と使うことはできないだろう。


「一応断っておくけれど、僕の名前は『高水義正』なんてカッコイイ名前じゃないよ。オリジナルは地上で僕が仕留めた。あのときは死んだ母親に化けて近付いたんだっけ。抱きついた瞬間、無防備な背中を突き殺したもんだからあっという間に死んじゃったよ」


「……」


「そして、次にピカイチだ。実を言うと、僕は事件を起こすのは次の日の晩にと決めていたのさ。しかし、あの晩、ピカイチに正体を見破られてしまったんだ。完コピしたはずなんだけど、やっぱりどこか違和感があったんだろうね。僕は命からがら集会場へと逃げ出したのだけれど、ピカイチが追っかけてこないんだ。そして振り返ったらビックリ仰天! うつ伏せになって倒れていたんだよ! まさかの心臓麻痺、そんなに僕が偽物だと知って驚いたのかな?」


「……もう黙れ」


「あれ? 怒るなんてキミらしくないなぁ。これからキャンディとパンサーの死に様も事細かに説明してあげようと思ったのに。正直な話、キミたちと火薬の長の決闘を見られなかったのはね、あの二人を始末していたからなんだ」


「……お前の言葉は信じない」


 キャンディさんとパンサーも殺されたのか。

 いよいよもって恐ろしい。

 こいつはひとりで、三人のスターを片付けたことになる。

 そんな人間は、この世にいるのだろうか。


「これからお見せするのは、ピカイチよりも力強く、パンサーよりも軽快で、キャンディ以上のえげつなさを秘めた技だ。人間の境地とでも言っておこうかな。とくとご覧じるがいいよ」


「ああ、お前の身体に”逆さ天の字”を打ち込んでやるからかかってこいよ」


 結局、こうなるのである。

 強いヤツには逆らいたくなるのである。

 "あまのじゃくの呪い”を使った最後の戦いが幕を開けた。



 ★★



 

 











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