41 偽薬・本命
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「僕は”ひとの嫌がる事はすすんでやることが生き甲斐”なんだ、良い性格をしているだろう?」
「それはただの嫌なヤツだ」
「ただの請負業だよ。汚れ役を僕が担当してあげるんだから、むしろ感謝してほしいくらさ」
それもただの嫌なヤツじゃないだろうか。
もともとは人柄の良さを現すセリフも、こいつに言わせるとより酷く聞こえる。
「だから教えてあげる。君自身さえ知らない富山しずると氷見ゆうのすけが一体どういうつながりを持っているのかを……」
ーー言葉を遮るように、ドスンッと扉を激しく叩く音が聞こえた。
高水義正の後方、漆黒に塗られた地獄扉のドアノブが何度も何度も回転しているのが目に写る。
どうやら、富山しずるがこちらの異変を感知したらしい。
「ゆっちゃん、そいつの言葉に耳を貸しちゃだめーッ!」
「うふふ、嫌われたものだね。あんなに僕に懐いていたのに。でもキミにも感謝しているよ、キミが僕の足に”再起不能”のレッテルを貼ってくれたおかげでこうも簡単に影へ潜めたんだから」
「うっさい! おまえもう喋るな!」
「ああ、知られたくない秘密を、本人の前で、一番聞かれたくない人に暴露できるなんて、僕はなんて幸せものなんだ。キミの必死な顔が見れないのが残念でならないよ」
「もう殺す! いますぐ殺してやるからさっさとここを開けろッ!」
スプラッシュの発砲音が耳を突く。
どうやら完全に扉を破壊するつもりで攻撃しているのであろうが、肝心の地獄の扉は決して壊れない。これだけはっきりと衝撃が通っているのに、ヒビなんかが入ることもない。
「無理無理、地獄の扉は壊せないよ。業務用バーナーでも焼き切ることができないほど強固でぶ厚い扉をそんな対生物兵器で破壊できるものか。でも僕の正体に気付いてすっ飛んできたのは褒めてあげるよーーーさすがは……」
「黙れ! それ以上しゃべんな! 黙れ黙れ黙れ!」
高水義正の口角がつり上がる。
富山しずるの秘密ーーーそれを口にできる喜びで引きつっていた。
「流石は”この世に呪いをまき散らした”だけあるよね」
満面の笑みで、そんなことを言った。
呪いをまき散らしたのは富山しずるであると。
だめだ、これ以上こいつの話に耳を貸してはいけない。
いけないのに、聞いてしまう。
そんな自分が、ほんとうに恨めしい。
「魔法少女。マジカルスター。十歳の時点で古今東西の医科薬学を修めた超天才。彼女の研究する薬はもはや人知を超えていた。彼女は自分で生み出した”呪い”をこの世から消すために”百薬の長”と呼ばれる奇跡に手を伸ばしたんだよ」
「やめてよ、お願いだから」
「自分の好奇心が生み出した”怪物”によって苦しむひとに希望を与えるために、ひたむきに異世界へと飛び込むんだよ、どうだい健気だろう。彼女は自責の念から、こうして償い続けているのさ」
「……嫌、こんなの嫌」
そして、俺はついに聞いてしまう。
富山しずるのトップシークレット。
俺が決して聞いてはならないパンドラの箱の正体。
「キミに”あまのじゃくの呪い”をかけたのはーーー富山しずるなんだよ」
意味がわからなかった。
富山しずるが呪いをかけた張本人?
いや、そんなはずはないだろう。
そもそも俺は呪いを受けたときに富山しずるになんて会ってさえいない。
悪性新生物・あまのじゃくに依頼したのだ。
「あまのじゃくは彼女の手によって創り出された怪物なんだ。やつを異世界から出したのも、氷見ゆうのすけに”あまのじゃくの呪い”をかけるように指示したのもすべて彼女の企みだったわけさ」
信じられるわけがない。
こいつは嘘つきだから、鵜呑みにはできない。
もし本当だとして、どうしてこいつが知っている。
「全部本当さ、そうだろう? しずるちゃん」
彼女は答えない。
けれど、無言は肯定しているのと同じではないか。
やましいことがあるから答えられないのではないか。
「これでわかったろ? 顔見知りの彼女がキミを慕い、呪いを解こうとするのはーーー彼女自身が”呪いをかけてしまった”がゆえに生じた自責の念からなんだよ」
「……、……」
高水義正の語りはそこで終了する。
いつのまにか富山しずるのうめき声は聞こえなくなっていた。
彼女はいったい、どんな顔をしているのだろう。
「これでわかったろ、ゆうのすけくん。キミにとって彼女は憎き敵なんだよ。ところでこれから僕は彼女と火薬の長を相手にしなきゃならない。けれど一人ではなにかと荷が勝ちすぎる。キミにも手を貸してほしいんだけど、どうするかい?」
たしかにうまい話である。
呪いを解くにはより多くの”百薬の長”を手に入れなければならない。
たったひとりでピカイチさんとセーフティスタッフ六名を葬り、なおかつしずると火薬の長を相手にしようとする輩であるのだから弱いわけがない。
ひとりでてんてこ舞いしているしずるとは違う。
「……わかりました」
しずるには悪いけれど、同情はしない。
俺の目的はいかに楽をして呪いを解くことなのだから。
女の子なんて他にも星の数ほどいるのだから、諦めてもらおう。
「俺は、高水義正さんに付いていきます」
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