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34 読み違えた理由と目的。

 ★★★★


  俺の目からすれば、自殺行為にしか見えなかった。

 富山しずるは火薬の長を迎え撃つことなく、自分から間合いを詰め始めたのである。

 ”拳銃”という相手の間合いの外から攻撃できる装備を持っているにもかかわらず、その利点をおのれから真っ先に潰してしまうのだからそりゃあたまげたものである。



「ほうほう、みずから寄ってくるとは。いい度胸じゃあないか胸はないくせに」


「近付かないと、てっぺんのお皿にうまく当たらないからね」


「そうか、ならもっと近づきなよ」


 火薬の長もそれに便乗して肉薄する。

 普通の拳銃のベストな射程距離である三メートルーー先ほど見せた火薬の長の怪腕を目にしたあとでは、もう死地に踏み込んでいることは言うまでも無い。武器だらけの床の感触を踏みしめながら、しずるとエゴはぴたり、と歩みを止めた。


 お互いの出方をうかがっている。

 ジリジリと攻撃の瞬間を掴もうと、わずかな隙、気の緩みを模索するがそんなものはどちらにも見当たらない。プレッシャーで見ているこっちが音を上げてしまいそうであった。

 そして、最初に動いたのはエゴであった。


「刈り取ってやるぜ、マジカルスターっ!」


  思いっきり仰け反ったかと思うと、後ろに伸ばした両腕を前に突き出した。

 事前に身体に隠して準備をしていたであろう怪腕は抜群の収縮力とたしかな殺傷性を帯びて、しずるの露出した首を貫こうと牙を剥く。もはや大砲にも似た刺突はしずるの肩へと飛来した。


  致死の攻撃を前に、しずるは身を翻す。

 身体の軸を中心に高速右回転を繰り出したのだ。

 必殺の威力を以て放たれたふたつの刺突。

 それらはあらぬ方向へと軌道を逸らし、ひとつは壁にある絵画へと突き刺さる。

 もういっぽうはエレベータ側にある武器の山を深々と抉り取ったのである。



 そうーー”紙一重アーマー”だ。

 攻撃の軌道をはずすことに特化した限定正装、しずるは回転することによって首に当たるまえにアーマーのどこかに触れるよう計算しての行動であろう。

  両手が伸びきったエゴの胴体は、がら空きだった。


「ちぃっ! 忌々しい鎧ごときに!」


「この勝負ーーーもらったぁっ!」


  富山しずるは床の武器を蹴り上げる。

 空中に散らばる古今東西あらゆる地方から持ち寄られたであろう武器の数々がエゴの視界をちょうど良く遮り、噛みつきや前蹴りなどの未然に防ぎきっていた。

  潔白のスプラッシュ”紙吹雪”を突きつける。

 いつもの倍以上に膨れあがった銃身、まるでこれから爆破するのではないかと思えるほどの異形な様子を見せる紙吹雪をしずるはエゴの心臓に突きつけていた。

 エゴの怪腕がもの凄い勢いで戻ってゆく。

 しかし、その数秒はしずるの引き金を引くには十分過ぎる時間だった。


「おお、戻ってこい俺のう……」


「はるかに鈍いよ、もう手遅れでした!」


 ーーードン、と大地を揺るがす振動に包まれる。

 最小限の破壊のみを終えた”紙吹雪”はいつの間にか元の手のひらサイズにまで縮小しており、戻っていったエゴの怪腕は主のもとへ帰る前にへなへなと萎えてしまった。しずるも突きつけたスプラッシュを下ろすとようやく事の重大さに気が付いたようである。


  エゴの胸に大きな風穴が開く。

 銃弾と一緒に地面の武器までもがキレイに抉られていた。エゴを貫いた余韻でさらにこの威力なのだからとても人間に向けられてたものではない。装甲車を渡されたもゴメンである。

 とにかく、ーーーこれで片は付いた。



「勝負あり、だと……違うねぇ!!」



 そんな声が聞こえた気がした。

 それとほぼ同時に、耳を突くしずるの苦悶が聞こえてくる。



「ーーーっづつ!?~~~~~~~~~あづっっ!」


 膝を折って地面に伏すしずる。

 しずるの足には火薬の長・エゴの右腕ーー鋭利に研ぎ澄まされた怪腕が忍び込んでいた。”紙一重アーマー”の下へ潜り込んだ右手は彼女の肉を容易に切り裂き、血を絞り出している。


 宣言通り、しずるの右脚の自由を奪ったのだ。

 もう飛んだり跳ねたりすることは出来ないうえに激痛でまともに銃を向けることもできないだろう。足を奪われた彼女には逃げることなどできなかった。


 火薬の長・エゴは死んでいない。

 心臓を貫かれたにもかかわらず、出血もないどころか痛みも感じないのか平気な表情を浮かべていた。あまりに規格外の化け物を前には常識は通用しない。


「いまの一撃、素晴らしいものがあった。”紙一重アーマー”の防御から一転して攻撃への度量は目を見張るものであったことを認めよう。そして敵に対して情け容赦なくトリガーを引き絞ったその勇気にも賞賛をおくろう」


「………」


「だがなっ!人間風情がこの火薬の長に勝てると思ったか! ヒトよりほんのちょっぴり優れているお前ら”スター”の限界なんだよ! まぬけどもが!」


 この場面で、ようやく俺がふたりの間に割り込む。

 富山しずるを庇うようにして抱きかかえた。

 もっともこんな防御策でもなんでもない行動など、エゴの鋭いかぎ爪の前では紙のように突破されることだろうからその場しのぎにしかならない。

 それでも、庇うことしかできなかった。


 しずるは動けない。

 骨まで達した右手を引き抜くだけで相当な激痛であるはずなのに、出血も相まって彼女を戦闘不能にまで追い込んでいた。血を武器にして戦う彼女であるから貧血を起こしているのかもしれない。

 しかし、彼女は晴れ晴れした表情でこう言った。

 ーーーもう終わりにしよう、と。


「……なんだと?」


「いまの言葉で確信が持てたよ、あなたの目的を読み違えていたみたい」


「なにを言っている!? 貴様、ちゃんと説明しろ!」


 富山しずるは両手から”血飛沫”と”紙吹雪”を投げ捨てる。

 決して取りこぼしたのではなく、自分の明確な意志を以て武装放棄したのだ。

 これこそ自殺行為に他ならない。

 逃げもせず、戦うこともできないなど、まな板の上の鯉同然である。


「火薬の長・エゴ、ほんとうは戦いたくないんじゃないかな?」



 ★★★

 

 
















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