31 埋もれた主様を探せ。
★★★★
百薬の長って異世界のどこにあるんだ、と富山しずるに訪ねたことがある。
すると、彼女は梅干しを口に頬張ったかのような顔をしてこちらの方をバシバシと叩くのである。そう、『そんなことも知らないでこんなところまで来たの?』とでも言われている気がして少しだけ恥ずかしくなった。
「笑うな。いや、どんな風に置いてあるのかなって気になったんだよ。部屋に飾られているのか? それとも誰かが携帯しているのかなってさ」
「うーん、ノーコメントでお願いします」
「お前、さっき俺を馬鹿にしたかのような真似をしておいてその返事は酷いんじゃない?」
「ああ、メンゴ。白状するとあたしも知らないんだよ」
俺はしずるの髪の毛をぐいっと引っ張った。
「イタ、イタタ。首がカクンってなってる! しょうがないじゃん、ルートによって場所が曖昧なんだから。情報が少ないもん」
「じゃあ、俺たちはルートの地下へ向かっているけれど本当ははるか上階かも知れないわけだな。それだったらいままでの戦いも無駄骨になるってことなのか」
「そんなことないよ。あたしらが帰還すればここでの情報を共有できるから、トラップに掛かる人間も激減するもん。決して無駄じゃない、そしてあたしがいるから無駄にはせんよ……たぶん」
「最後の一言がなければ、完璧だったのにな」
つまり、直感頼みの冒険ってことか。
実に綱渡りでリスキーな旅である。
「それに、地下で間違いないよ」
「どうしてそんなことが言い切れる? また直感か?」
「うん、百薬の長は恥ずかしがり屋さんだから……それに」
しずるはどこか遠い眼差しで行く先を見る。
まるで過去、ここにはいない誰かに語りかけるように呟いた。
「『百薬の長』と『呪い』は引かれ合うから、きっと会えるよ」
★★★★
一言でまとめると、火薬の長は『河童』に似ていた。
小学四年生ほどの小さな体躯、針金のように伸びた華奢な細腕、ガチョウを彷彿させる黄色いクチバシ。ぎょろりとこちらを睨むまん丸な両目、乾いた山吹色を帯びるザラついたサメ肌。背中には火と刻まれた深紅色の甲羅。そして頭の上にはベレー帽にも見える茶色の小皿が乗っていた。。ひと目で人間離れしている容姿に俺としずるは思わず身構えてしまう。
俺はブロークンハートを優雅に引き抜く。
同時にしずるはスプラッシュを静かに構えた。
「ようこそマジカルスターのお嬢ちゃん、そしてトリックスターの坊主。よくぞここまで来てくれた、歓迎するぜ」
「ふん、よく喋るクチバシだこと。本当は歓迎してないくせに」
「あ、バレた? でもよくここまで来られたもんだ、と感心はしているんだぜ……と言っても、そこのマジカルなお嬢ちゃんは信じないだろうけどな。精々鉄球の悪性新生物、ミスティあたりでペシャンコにされるのが関の山だと思ったのによ」
「…………」
火薬の長・エゴの呼びかけは奇妙であった。
圧倒的な暗がりが支配する天国の部屋。
地面が凶器と化した文字通り狂気の間。
いくらでも奇襲を掛けようと思えば実行できるはずなのに、それをしなかったのはなぜだろう。いまさら悪性新生物にモラルやスポーツマンシップに目覚めた、などと言われても説得力がない。
やはり、何かを狙っているのかもしれない。
「そんなことより、『火薬・肘鉄』を渡しなさい。大人しく渡せば殺さないであげるから」
「いいよ、持っていきな」
「さっさと持って来てくれないかな? もちろん手渡しなんて許さないけれどね」
「だから、好きなだけ持ってけばいいぜ。出来るもんならよ」
話は平行線をなぞるだけである。
火薬の長の言動からすれば、その意図は容易に想像できた。
「この天国の間にあふれた無数の玩具ーーこの中にお前らの探している『火薬・肘鉄』は眠っている、埋もれている、待っている。もしも見つけられたら持ってって構わないぜ」
なるほど、これが武器だらけの部屋の狙いか。
この無数に散らばる凶器の山は『火薬・肘鉄』を探すためのカモフラージュの役割を担っているのだ。そもそも形状を知らない俺たちにとってあまりに難しい宝探しゲームである。
砂漠から宝石を見つけるより難しい。
森に隠した葉っぱを見つけるようなものだ。
「まあ気長に探しな、俺様は一眠りするからよ」
「ち、ちょっと待った。せめてヒントくらい教えてよ」
「お~や~す~み」
火薬の長はそう言って、背中を向けて寝転がった。
あまりに隙だらけの背中ーーしずるのスプラッシュが火を噴けば、あっという間に勝負が着いてしまう、だけど火薬の長は決してこちらに取り合おうとはしない。たぶんこれ以上追求すればこのすぐに姿を消すだろう。
「しゃーないね。あたしらで探そうか」
「お前、火薬・肘鉄の形を知ってるのか?」
「詳しくは言えないけど、判別方法はあるよ。とりあえずここから出てから話そう、あいつの見えないところでさ」
しずるはスプラッシュ(赤)の構えを解いた。
そして、歩調を乱さずにと武器の上を凱旋する。それに続いて、俺はしずるの後を追う形で部屋の出口へと向かった。後ろ目で火薬の長を視認しながらの戦略的撤退である。
「なんだ、帰っちまうのかよ」
「ほっとけよ、関係ないだろう」
「それよりトリックスターよ。頭上には気を付けろよ」
「え」
ほんの少しの気の緩み。
瞬き一回分ほどの揺らぎは確かに俺の判断能力を著しく削ぎ落とし、必殺の隙を生み出してしまう。上に気を付けろ、と言われて馬鹿正直に従うというよりは、条件反射に近い反応だった。
ーー真実は常に逆から来る。
地面の武器を砕き破る衝撃に思わず萎縮する。
足元から、何かが飛び出してきた。
★★★★




