28 ふたりぼっちの進軍。
☆☆☆
結局、犯人は見つからなかった。
あそこで原因究明、名探偵さながらの推理を披露しても良かったのだが実際そうはいかない。ルートにおいて地上では当たり前に行われている現象が超常現象、常識が非常識になっているのだから。あるいはマジカルスターと呼ばれる富山しずるならば、成立したであろう犯人捜しもついに実現しなかった。
最終的に、未確認の悪性新生物の仕業という事で終止符を打った。
会議の後、キャンディさんはルートを去った。
もうこれ以上付き合っていられない、と自分の荷物をまとめて足早に出て行ったのだ。
俺としずるがこのルートに残る、と一言だけ入れておくと『ふーん、まあせいぜい頑張れよ』と興味なさそうに呟くだけでアドバイスなんかはなかった。
けれど、俺は知っている。
キャンディさんがちゃんとピカイチさんとセーフティにいた六名の遺体を丁重に弔ったこと、そして本当は俺たちと一緒に行動したいけれど仲間の死を伝えなければならない責務のため、泣く泣く撤退することを知っている。
そして、俺たちに脱出を促す優しさも充分に伝わってきた。
それでもなお、俺としずるは断ったーーだからこれ以上の口出しは良くない、と黙って立ち去ったのだ。未練が残らないよう、余計な気兼ねをしなくていいように。
キャンディさんは私情、人情を殺して、クールに姿を消した、
☆☆☆☆☆
セキュリティの扉を外側からゆっくりと閉じる。
もはや誰もいなくなったセーフティに滞在する意味を失ったのだから、すぐにこの場から立ち去ることはなんら不思議なことではない。加えて原因不明の大量殺戮(結局、原因は掴めなかった)があったのだからいつ襲われるか判らない場所にいつまでもいる理由などなかった。
「なんだかんだで、また二人やね」
「うん、結局はこうなるんだよな。頼もしい仲間はみーんないなくなっちまった。やっぱり最後に残るのは俺たちだけなんだよ」
「まあ、とりあえず先へ進もうか。あとすこし階段を下ればルート最深部へとたどり着けるはずやよ。まあピカイチとは違ってわたしは鼻が利くから道に迷う心配はないし、問題なく火薬の長を目指せるよ」
意気揚々としずるは階段をゆっくりと下っていく。
それに続く形で俺はしずるを追った。もしもあんな事件がなければ先頭にピカイチさん、最後尾にはキャンディさんがいたんだろうな、と考えると胸が苦しくなる。
本当に、犯人はだれ(なに)なのだろう?
死んだはずのピカイチさん? それともセーフティで惨殺された誰か?
いや、ひょっとすると無意識に俺が殺した可能性もある。以前決闘をしたときに、試合経過をまったくといって良いほど憶えていなかった経験からもあり得ないとは言い切れない。
自分自身を信じられないなんて、皮肉な話である。
「ん、どうしたの? まさか心臓がドックンドックン高鳴っているのかな?」
「当たり前だろう。目の前で高水さんの遺体を目撃しておきながら、どこかへ持ち去られたんだぞ。あれじゃあ俺が疑われても仕方ない。キャンディさんも内心では絶対俺が怪しいと思っていたはずだ」
「へ? ゆっちゃんが殺したの?」
「そんなわけあるか! 俺じゃない!」
「なら、別にいいじゃん」
さも他人事であるかのような口ぶりである。
自分に関係ないことなので、本当にどうでもいいことなのかも知れない。
「殺してないんでしょ? ならいいいじゃん、気にしなくて」
「お前、俺の証言が嘘だったらどうするんだよ」
「そりゃあ、騙されるよ。決まってるじゃん」
「ああ、なるほど。天国と地獄の扉での一件を引きずってるのか? あの時の信頼は優しい嘘だが、今回のは別だ。悪意を持った嘘かも知れないなら信じるべきじゃない。身の危険を感じる嘘は信じちゃいけない。それくらい判るだろう?」
「それがゆっちゃんなら、信じられるもん」
たとえ騙されたとしても許せる、としずるは平気で言った。
信じるってことは難しいけれど、結局は『この人なら裏切らない』ではなく『この人になら裏切られてもいい』という意味なのかもしれない。
俺には出来ないけれど、富山しずるは出来る。
人間として、ずっと上手だ。
「ゆっちゃんはあたしのこと、信じてくれないの?」
「うーん、どうだろう」
「ガーン、そこは嘘でもいいから『信じてる』って言ってほしかったああああああああああ」
「じゃあ、信じてる」
「聞きたくない、そんな言わされている言葉なんか聞きたくないよ!」
おもわず笑みが零れる。
辛いことがあっても吹き飛ばすだけの元気をくれる。セーフティでは凶暴な一面を見せられたけれど、やっぱり根っこの部分では人なつっこくて、どうしようもなく頼りになる。キレものでのしあがった富山シブキさんの妹なだけはあると感心させられた。
ただ、ひとつだけ気になる。
マジカルスターの寵愛。
富山しずるはどうして俺に優しくするのか。出会ってたった数日しか経ってない俺に対して、どうしてここまで信頼出来るのだろう。あまりに露骨な愛情表現は、酷く不気味で、どこか腑に落ちないーー理由もなくそんなことが出来るのだろうか?
富山しずるは何を考えている?
何を見て、何を感じれば、そんなに達見できるのだ。
それを自問自答するたびに、不謹慎ではあるけれど、ほんのちょっぴりだけ思ってしまう。
ーー富山しずるが気持ち悪いと思ってしまう。
★★★★




