26 間引かれた戦士たち
現場は凄惨を極めた。
もはや人とは呼べないーーかつて人であったものが地面にまき散らされている。
酷い匂い、生ものが腐った悪臭のため数を確認することができなかったけれど、おそらく生存者はひとりもいないだろう。そう思わせるに十分過ぎるほど蹂躙され尽くした空間が広がっていた。
胃液を戻してしまう前に、しずるに担ぎ出された。
なさけない、死体を直視できない自分は完全にお荷物だった。
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最初、厨房にて高水義正の刺殺体が発見される(しかし、行方不明)
次に、集会場にてピカイチのバラバラ死体が発見される。
最後に、託児場にてセーフティにいて六人分の死体が発見される(キャンディの検死結果)
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早朝、たぶん六時。小さな客間。
キャンディさんは作戦会議を開いた。
セーフティにはまだたくさんの部屋があったけれど、何が仕掛けてあるのか判らないらしく、ごくごく自然な流れで俺が寝泊まりしていた客室が決まった。
三人でテーブルを囲む。
かつて高水さんと語り合った場所はいまやセーフティで生存が確認されている三人の集会場と化しているのだから何が起こるかわからない。女子ふたりを部屋に招き入れた初めての体験ではあるけれど、ちっとも嬉しいとは思わなかった。
食事なんて喉を通るわけがない。
食材はおろか食器類のすべてを破壊されたので、非常食用に渡された米粒が手渡された。見た目は質素きわまりない品ではあるけれど、気が付けば手が止まらなくなる。甘辛い味付けがいつまでも忘れられない。
重苦しい沈黙。向かい合う三人は一言も発さない。
そんな中、黙祷していたキャンディさんが口を開いた。
「結論から言うと、わたしらはルートから逃げる」
キャンディさんが堂々と宣言する。
しずるは目を眠っているのか、瞑想しているのかリアクションを起こすことなく座っている。当たり前のようにキャンディさんは残りの俺に意見を尋ねるよう視線を合わせてきた。
「セーフティを出ることには賛成です。しかし、ルートから出ることはないでしょう? せっかく目的の物まで手が届きそうなのに」
「ヒーロー・ピカイチとマーキング・高水がやられたんだ。もうわたしらがどうにかできる問題の範疇をこえてるんだよ。ぶっちゃけ、わたしは戦闘そのものは得意じゃない。暗殺専門、もしくは誰かと組んで初めて真価を発揮する類いの人間だから、あてにしないでくれ」
「……代わりに僕が戦いますよ」
「死にそうな顔してなにを言ってんだ。けどそういや、お前がパンサーを倒したんだったな。少しは腕が立つことは認めてやるよ。しかし、だ。お前は戦闘経験でダーリンの上を行くことはないし、特殊能力でもヨッシーに勝るとは思わない。この大量殺人鬼の潜んでいる状態で火薬の長に挑むのはあまりにリスクが高すぎる。ここはわたしの言うことを聞いておけ」
「なんかキャラが違いません?」
「うっせーよ、タコ。ハムサンドの具にするぞ」
ハムなのか、タコなのか、わかりづらい表現だった。
「いや、タコじゃなくてイカか。なんか童貞っぽいし」
「酷い偏見です」
「ん? もしかして図星か。 はあ、お前は何もわかっちゃいねえ。別にあっちの経験があるかないかはどうでもいいんだよ。問題はお前に男の色気がないことだ。『あ、こいつ女とかいねえんだろうな』とわたしに思わせた時点で、お前は負けてるんだよ! 魅力に乏しいんだよ、魅力」
「ぐうの音もでません」
とにかく、童貞は置いといて。
キャンディさんの意志は強固なものであった。
彼女は誰よりも全滅を恐れ、進行を断念している。キリングスターとしての経験則からなのか、それともこの先に待つ『火薬の長・エゴ』はそれほど強力な悪性新生物なのであろうか。本人以外のだれにもわからない。
「本当に、そうなんかな?」
ーーと、沈黙を続けた少女が初めて口を開いた。
そう、とはどこを指しているのだろうか。なにに対して疑問を抱いているのだろうか、キャンディさんと俺の頭の中ではおそらく考えが一致したに違いなかった・
「おい、マジカル。この新入りちゃんの傷を抉ってやるなよ」
「そっちじゃなくて、大量殺人鬼が潜んでいるって話の方」
「どういう意味だ、わたしの意見にいちゃもん付けようってのか? だったら、どう解釈するんだよこの状況をよ」
「殺人犯はもういないんじゃないかな、とあたしは考える」
言っている意味がよく判らなかった。
犯人がもういない、それはつまりひとりで外へ出て、悪性新生物に頭から噛みつかれたという意味なのか。それとも無事にルートから脱出したという意見なのか、いずれにしても証拠がなければ話にならないのは確かだ。
「犯人はもういない。ヒーロー・ピカイチなのかもね」
続く




